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学校日和2  作者: めろん
227/235

第227回 和解日和

 ふわふわと降る雪を眺めながら、


「ぽかぽかだねぇ」


帽子代わりに頭にタオルを巻いたミントが、温泉にとっぷりと浸かりながら口を開いた。


「うむ。ぽかぽか」


それに同意するプリンは、髪がお湯につかないようにまとめあげ、濡れないように泡で包んだ枕を抱えている。


「ぽかぽかだなァ」


ミントの反対隣のポトフは、いつものように眼帯を付けたまま。

雪掻き、とは名ばかりの、全力の雪遊びを終えた彼らは、その疲れを癒すべく昼間から露天風呂に浸かっていたのであった。

時間帯のせいもあってか、今現在、露天風呂は貸し切り状態。

ぬくぬくと暖かいお湯に、三人は最高にくつろいでいた。


ガバーッ!!


「うおわ?!」


 ――のだが。


「!? ポトフ?!」


「何事――」


突然のお湯飛沫とポトフの短い悲鳴に、驚いたミントとプリンが一斉に振り向くと、


「捕まえたぞこのケダモノ!!」


「お、お兄さ?!」


「貴様に"お兄さん"などと呼ばれる筋合いは毛頭ないわあああ!!」


ポトフは、ココアの兄、ショコラに両腕で首を絞められていた。


「あ、なんだ。ココアの」


「うむ。人騒がせ」


「いやいやいや俺首絞められてるんだけど?!」


ゆえに、心配して損したとばかりにミントとプリンは再びのほほんと雪景色を眺め始めた。


「あ。ウサギがいるよ」


「うむ。可愛いな」


彼らとポトフを阻む湯煙の壁は、どうやらポトフの想像以上に厚いようだ。


「ふっふっふっ、俺の可愛い妹をたぶらかした罪は重い!!」


「ええ?! た、たぶらかしてなんか」


「今その息の根を止めてくれるわ!!」


「ってちょお兄さァァァん?!」


「"お兄さん"て呼ぶなあああ!!」


 露天風呂のふちでちっこい雪だるまを作っているミントとプリンに対して、暑苦しいこと極まりないこの二人。


「ちょ、お、落ち着いてください!」


「これが落ち着いていられるかこの野郎?!」


「いやだから何がどォしたんですか!?」


まさか露天風呂で命の駆け引きが始まるだなんて予想だにしていなかったポトフは、取り敢えずご乱心の原因を聞くことに。


「煩い!! いくらアクリウムの学校に近いからってお前の家に下宿とか絶対させないからな!!」


なんだかんだでちゃんと答えてくれるショコラ。


「?! 下宿!?」


何それ初耳なんだけどなポトフ。

どうやら彼は、ココアからいまだに相談されていないようで。


「そうだふざけんなこんなヤツのとこに下宿なんてした日にはあんなことやこんなこと――って貴様今変なこと想像しただろこの変態があああ!!」


「いや俺まだ何も言って、いたたたたァ?!」


しかし、そんなこと知らんショコラは、ご立腹な様子で彼の首を絞める。


「? あんなこと……どんなこと?」


「気にしちゃダメだよプリン」


殺気立った風景からは程遠いミントとプリン。


「ま、待ってください。……ゴホッ、それって、おにィ――……ショコラさんは承諾してるんですか?」


必死の抵抗をしながら、ポトフは冷静に質問した。


「するわけないだろこのケダモノおおお!!」


お兄さんと呼ばなくなったので若干攻撃の手がゆるむ分かりやすいショコラ。


「なら! 俺もオススメしませんっ!」


その手をどうにか退かそうと頑張るポトフ。


「え?」


すると、ショコラの間抜けボイスが飛んできた。


「……ショコラさんに……反対されたままじゃ、ゴホッ……ココアちゃんは悲しみます」


 やっとこさで解放されたポトフは、むせながらも言葉を続けた。


「こ、ココアが、悲しむ……?」


彼の言葉に、ショコラは動揺の色を見せる。


「は……はい。ココアちゃんは、きっとショコラさんが大好きなんです」


桃色天パで青い瞳のお兄さんに、ポトフは茶色の片目を向けた。


「たった一人の、大切なお兄さんなんですから」


露天風呂に響いた、彼の言葉。

ぱきっと固まったプリンとにやりと笑ったミントはほっといて、


「そんなお兄さんに、自分の考えを反対されたら、絶対悲しいです」


ポトフは一生懸命語り続けた。

ちなみに、彼は完全に友人二人の存在を忘れている。


「そんな……ココア……っ?」


すべては可愛い妹を思っての行動だったのだが、逆にそれが彼女を傷付けていたのかと気付くショコラ。

大切な大切な妹に、変な虫がつかないように、


『ポトフだけど、それがどうか――』


『これ? ポトフに貰ったのー!』


『相談してみるー!』


していた、つもりなのだけれど。


「……」


思い返してみると、しあわせそうな妹の顔。

写真もネックレスもケータイに表示された名前も、全部大切に抱き締めて。


「……、そうか。お兄ちゃん、バカだったんだな」


 ふっ、と思わず、自嘲が零れる。


「? ショコラさん?」


「すまなかった」


ショコラは、首を傾げたポトフと――どうやら可愛い妹が心底惚れているらしい彼と、真正面から向き合った。


「――ココアを、よろしく頼む」


そして、深々と頭を下げてそう言った。


「「!」」


ゆえに、ぱあっと明るくなるポトフとミント。

展開に若干ついていけていないプリンはこの際気にしてはいけない。


「はい!」


ショコラの頼みに、ポトフは心からの笑顔で力強く返事をした。


「時にポトフくん」


「? はい?」


 直後、ショコラはコソコソとポトフに話し掛けた。


「ココアとはどこまで?」


この時点で、ミントのテンションが著しく低下したのは言うまでもなく。


「へ?! そ、それは……えっと……ちゅー、ですか?」


「何?! え、おたくらどんだけ長いのよ!?」


「ええと、一応四年くらいになります」


「何その本当に清いお付き合い?!」


ショコラの発言に対してプリンが質問してくるが、ミントはじとっとした目のまま動かない。


「あのな、参考までに言っておくが」


が、この時ミントとプリンは、木の壁の向こうで、闇の魔力が高まるのを感じ取った。


「たぶんもうココアも期待して」


「ダークネスサクリファイスーーーーーーーー!!」


どうやら露天風呂の女湯に入っていたらしいココア。

壁ごしの的確な狙いは、果たして兄妹の絆の強さなのかどうなのか。


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