第224回 積雪日和
夜のうちにしんしんと降り積もった白い雪は、山の斜面を覆いつくした。
「わっは〜!」
「ぴわわ」
「すっげェ雪!」
外に出ると眼下に広がる一面の雪に、雪なれしていないミントとプリンとポトフの瞳が輝いた。
「うわー……雪かき大変だよー」
対して、この豪雪地域、フェノリリル在住のココアはげんなり。
「「? 雪かき?」」
すると、何それと疑問符を浮かべるプリンとポトフ。
「……、ほら見て。屋根の上とか道に積もってるでしょー?」
「うん」
「うむ」
その反応に、そんなことも知らないのかと思いながらココアは旅館の屋根の上を指差し、
「重いし滑るし危ないからあれを退かすのー」
と、けだるそうに説明をした。
「へえ、大変だねぇ」
「本当だよー」
敷地が広い分、とのミントの言葉を肯定しながら、ココアは、はふうとため息をつく。
そんな彼女たちのお隣で、
「「雪かき……!!」」
おめめを輝かせている野郎が二人。
「……」
「……」
「輝いてるね」
「ね」
テンションが釣り合っていないミントとココア。
そんな彼女に、輝くばかりのやる気を全開にしたポトフとプリンはこう言った。
「ココアちゃん、俺雪かき手伝う!!」
「僕もっ!」
「へ? そ、それはありがたいけどー?」
「「ミントも!」」
「って、当然のごとく巻き込まれた?!」
当然のごとく、ミントを巻き込んで。
そうして、とにもかくにも四人は雪かきをすることに。
「とりあえず、屋根の上のと、宿の玄関先から敷地の入り口までの雪をー」
手始めにとスコップを呼び出したココア。
そして、雪かきなんてしたことないだろうと思われる三人に、
「ダークネスサクリファイスー!!」
ちゅどおおおおおおん!!
「ってな具合に消し飛ばすんだよー?」
雪かきの仕方を説明した。
「……へえ……」
なんか違う。
想像してたのとなんか違う。
そして直前に呼び出したスコップの存在意義を疑問視しつつ、これが雪国式なのかと一応納得するミント。
「「……っ?!」」
が、しかし。
「こ、ココアひどいっ!」
「へ?」
「そォだぜココアちゃんっ!」
「ほえ?」
プリンとポトフには納得がいかなかったようで。
「な、何がひどいのー?」
何がひどいって、
「「雪!!」」
雪を粗末にしたらあかん。
「い、いや、だって、こーした方が早いでしょー?」
「そんなことしたら雪がなくなるぞココア?!」
「いやだから雪をなくすために雪かきするんでしょー?」
「せっかくあんなに降り積もったんだぜェ!?」
「いやだからあんなに降り積もったから雪かきするんでしょーに」
二人の言っている意味が理解できていない彼女に向けて、
「ココア」
「?」
ミントは気の毒そうに首を横に振った。
何を言っても無駄である、と。
「……え?」
いや、そんな憐れむように首を振られても。
「よォし! どっちがでかい雪だるまを作れるか競争だ枕ァ!!」
「ふふふ、望むところだっ!」
雪といえば、雪だるま。
ポトフとプリンはそれぞれ手にした雪玉を、闘争心と遊び心をふんだんに込めて転がし始めた。
「はい、雪落とすよ〜」
ドサドサ
「「ミント、もっと!」」
「はいはい」
薔薇の鞭を巧みに操り屋根の上の雪を下に落としながら、
「遊び道具を取り上げちゃダメってこと」
「……子どもだねー?」
ミントは、ココアを取り敢えず納得させた。
小さい頃から当たり前のように見てきた雪。
ココアにはなんの目新しさも感じられないが、彼らにとっては新鮮味にあふれかえっているのであろう。
「知ってるか枕、雪の上を転がると自分が雪だるまになれるんだぞ?」
「む、本当か?!」
「って、何実践してんのさあああ!?」
「っ、ぴわわわわわ!?」
「あっはっはっ! 相変わらず頭いいくせにバカだなァ!」
「止まってプリンその先崖えええ!!」
「って、何ィィィ?!」
「ヤーーー!?」
「……。子どもだねー?」
そんなこんなで、正月早々騒がしい朝が過ぎていったのであった。