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学校日和2  作者: めろん
222/235

第222回 聖夜日和

 定期試験を終えて冬休みになり、家に着いた頃にはすっかり日も暮れていた。


「ただいまー」


ガチャッとドアを開けて家に帰ってきたミントに、


「なんで帰ってきたまろか?!」


ちょっと耳を疑う言葉が返ってきた。


「……なんでって、オレの家だからじゃんか?」


びっくりマロさんにしらっとした目を向けながら答えるミント。


「だって今日はクリスマスまろよ!?」


「へ? ああ、プリンとポトフの誕生日会なら帰りの汽車のなかで」


「バカまろパーンチ!!」


「ぶっは?!」


なんの気なしにさらりと答えたミントの頬に、バカまろパンチがヒットした。


「な、何す――」


「だから今日はクリスマスなのになんでちーちゃんといちゃこらやっほいしてこないまろ!?」


「――やっほい……??」


困惑気味に自分を見下ろしている彼を見上げ、盛大にため息をついたマロは、


「今日はみんとんに食わせる飯はないまろ!」


ぷいっとそっぽを向いてスタスタとキッチンの方へ歩いていった。


「……はあ……?」


お前、居候の分際じゃね? と、心の隅にブラックミントさんを覗かせつつ、彼は取り敢えず荷を下ろそうと階段を上がっていった。


「よいしょっ」


 自室で荷を下ろしたミントは、疲れたように小さく一息。

まあ、ご飯に関しては汽車のなかでケーキやら鳥やらを食べてきたから別にいらん。


ばふっ


そんなことを思いながら、ミントは、ベッドに倒れこんでみた。

流石フラン、お日様の香りがするぜ。


「……?」


瞬時に布団を干してくれた人物がフランだと分かる辺りがミントである。

 が、そのミントは、倒れこむ瞬間、視界の端っこのほうにチラッと赤いものを捕えた気がした。

ゆえに、彼は体勢はそのままに顔を上げてみると、


『メリークリスマース! みたいな♪』


窓の向こうに、サンタクロースが。


「って、チロ――……」


思わずいつもの調子で叫びそうになったが、下の奴らに気付かれるといろいろ面倒だと、ミントは叫び声を自粛した。


「な、何してんのさ? って言うかその格好」


「チロルサンタさん登場〜って感じぃ?」


気付いてしまった以上、取り敢えず窓を開けてあげると、箒で浮いていたチロルは、そのままスイーっとミントの部屋に着地した。


「今年一年ミントきゅんがいい子にしてたから、プレゼントフォーユーみたいな!」


そして、にこっと笑ってプレゼントを差し出した。


「……あのねぇ……」


 にこにこチロルに、ミントは毎度のことながら頭を痛めつつ口を開いた。


「いつからいたの?」


「うっふふ〜、一旦家に帰ってプレゼントを用意して着替えてたから、本当にちょうど今まさに来たところ〜みたいな♪」


「……その格好でここまで来たの?」


一応プレゼントを受け取って、それをテーブルに置いたミントが尋ねると、


「うん! これ、見掛けによらずあったかいんだよ〜?」


チロルはやはりにこにこ笑ってそう答えた。


「そうじゃなくて」


そんな彼女の回答を打ち消すように、ミント言葉を繋げた。


「女の子がこんな時間にそんな格好でしかも一人で出歩くんじゃありません」


そして、オカンのように諭した。


「え、もしかしてミントきゅんこういうの好き!?」


「なんでそうなる」


ぱあっと顔を明るくして接近してきたチロルを押えつつ、いつものようにツッコミを入れるミント。


「やぁん、ミントきゅんがサンタさん相手に何かよからぬこと考えてる〜♪」


そして、いつものように聞いてないチロル。


「……」


 そんなチロルを見て、


「っ!?」


ミントは、チロル右手をとって、そのまま壁に押しつけた。


「……ほら、やっぱり怖がった」


そのわずかな反応に、ミントはそのままの状態で口を開いた。


「そういうの、チロルが一番嫌いなんじゃないの?」


「! え――」


彼の言葉を受けて、チロルは驚いたように目を開く。


「チロルに昔何があったかなんて知らないけど、でもきっと、だから男が嫌いなんでしょう?」


その間にも、ミントは若干怒ったような、悲しいような声で問い掛けた。


「なのに、どうして自分からそんなことするの?」


無駄に相手を挑発するような格好や言動をする、彼女に向けて。


「そ、それは……」


気付かれていた。

そのことに動揺しているチロルをよそに、


「オレは、チロルを傷付けるようなことはしたくないし、他の人にチロルをそんな目で見られたくもない」


ミントは、ひたすら一生懸命言葉を紡いだ。


「……ミントきゅん……」


 そう、彼の言う通り、試していた。

だから彼が大慌てで自分を止めたり話を明後日の方向へすっ飛ばしたりすると、嬉しかった。

彼は、今までの奴らとは違うんだと安心できた。

 しかし逆に、こうでもしないと彼が自分から離れていってしまうような気がしていた。

それは、今までの男が、少なくとも彼女の目線からはそういう目的で近づいてきたようにしか見えなかったから。

そして彼に、嫌われたくなかったから。


「オレは、"チロル"が好き」


 外見だけで好きになったわけじゃない。

そうでなければ一目惚れなわけで、出会って告白されて早々本気で逃げたりしない。

むしろ、最初は完全にからかわれていると思っていたし、誰にでも愛想を振りまくような、そんな彼女が嫌いだった。


「……!」


告白。

チロルは、その言葉に胸を詰まらせた。


「……、うえ」


「? 上?」


 と、ミントが指示に従って上を見上げた瞬間、


「うええええええん!!」


「って、うええええええん?!」


チロルが泣き始めたため、ミントはびくーっと焦り始めた。


「ちょ、え?! ちちちチロルさん!?」


どうなすったのですか急に!! とパニック状態なミント。


「ごめんなさあああい!!」


「や?! ごめん! むしろオレがごめん!!」


「ミントきゅん大好きいいい!!」


「て、ええ?! な、何をおっしゃって」


「プレゼントはニット帽ううう!!」


「はい?! あ、ありがとうございました!?」


「メリークリスマスううう!!」


「メリークリスマスううう?!」


泣き叫ぶチロルさんに合わせて思わず同じ調子で返すミント。

近所迷惑である。


「……、……あたしね? 実は初等部のときに襲われたことがあって」


「初等――?!」


 涙を拭った彼女は、ためらうように口を開いた。


「それから、男がだいっっっきらいになったの」


ミントが驚くのも無理はなく、初等部と言えば最上級生でもまだ十歳くらい。


「でもね」


目を見開いた、しかし自分を拒絶しているわけではない彼に、


「ミントきゅんならいいって気持ちも本当なのっ!」


チロルは、嬉しそうにそう言った。


「……、……はい?」


何が?

いや、落ち着けオレ。

これは考えたら負けだ。


「――あっ、そうだ!!」


若干顔が赤くなったミントの頭に、豆電球がピコーン。


「ほ、ほら、オレからもクリスマスプレゼント!」


必殺、お話逸らし。

ぽん、と彼が呼び出したのは、小綺麗に包装されたプレゼントと、ティッシュの箱。

これで、涙を拭いて。


「! ミント、きゅん……!」


というメッセージ、だったのだが。


「超好きいいいいい!!」


「なぜにいいいいい!?」


彼は忘れていた。

きっかけは、ティッシュだったことを。


「どうしたまろフラン? よく聞こえないまろ」


 一方そのころブライト家の住民は、


「念のためです。さあ、ジャンヌ様たちとお食事に参りましょう」


二階から聞こえてきたミントとチロルが騒いでいる声を聞きつけ、妙な気を利かして家を出たのであった。


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