第221回 判断日和
コトコトと音を立てる小さな鍋の前に、ポトフは座っていた。
「♪」
彼が作った料理はおかゆ。
典型的な、病人食。
それを作りながら、彼は嬉しそうに顔をほころばせる。
と言うのも、懐かしい記憶がよみがえったから。
自分が昔に風邪を引いたとき、ソラにおかゆを作ってもらった。
ふーふーしてもらうのが、何故かとても嬉しかった。
「えいっ」
ポトフが小さな簡易キッチンで火を見ている間、プリンはミントを看病していた。
きゅーっと絞ったタオルをミントの額にのせる。
「……にゅ……」
「むぅ……」
いまだ辛そうな彼に、プリンもなんだか辛くなる。
ポコッ
「む?」
力になれなくてしょげているとき、不思議な物音に気付いたプリン。
「……、芽?」
音のもとに目を向けてみると、そこには可愛らしい双葉が。
ミントのベッドから突然生えたそれに、プリンは首を傾ぐ。
ポコポコッ
「む」
すると、また芽が。
ポコッ
「ぴ」
ポコポコポコポコポコポコ
「ぴわわわわわわわ……」
気が付くと、ミントを中心に小さな若い森が出来上がっていた。
「おまた」
「ば、馬鹿犬!!」
そこへ、ポトフが今しがた出来上がったおかゆを持ってきたため、
「って、変なところで邪魔するなよ?」
「そんなことを言っている場合か!」
プリンは慌てて彼に状況を見せた。
「……へ?」
見ると、何やら自然の生命力が溢れる空間が広がっていた。
「こ、これは……」
ポコッ
『ジェラララ!!』
ポトフが思わずおかゆを持ったまま固まっている間にも、また新たな生命が。
「み、ミントの魔力が漏れだしてるぞっ?」
あわあわするプリンの言葉に、
「……だなァ……」
ポトフは、引きつりながら同意した。
「……」
「……」
「「……」」
沈黙の末、ポトフは弱く笑いながらこう言った。
「カゼじゃないかも」
と。
「む!? 誤診か?! 誤診なのか!?」
「は、早く病院行くぞ枕っ!! 魔力が漏れだしてるってことはミントの命に関わる!!」
「関わるのか?!」
「かも!!」
「っ、テレポート!!!」
使えないとばかりに舌打ちしたい気分だが、人命を優先させるプリンであった。
「……う?」
目を開けると、一面白い天井が飛び込んできた。
「「! ミント!」」
「……? プリンと、ポトフ?」
次いで、ミントの視界にひょっこり入り込んできたプリンとポトフ。
「少し疲れがたまって、免疫力が落ちてたみたいね」
「! エリアさんっ?」
金髪白衣のドクターに、ミントはようやく自分の現在地を把握した。
「薬も魔法も効いてきたみたいだから、もう少し休んだらすぐ帰れるわ」
にこりと笑ってそう言うと、エリアはポトフとプリンに顔を向けた。
「病院に連れてきたのは、いい判断だったわ」
風邪に良く似てるから、見過ごされると重症化するこの病気。
それをよく見抜いたいい判断だと褒めるエリアに、
「い、いやァ」
「いや、実際誤診――むぐっ」
ポトフは、余計なこと言うなとプリンの口を右手で封印した。
「ふふ、じゃあ、私はここで失礼するわね」
仲のよさそうな彼らに微笑みつつ、エリアは部屋から出ていった。
「「ミント!!」」
「っわあ?!」
途端、プリンとポトフは無事を確認できたミントに引っ付いた。
「ミント大丈夫っ?」
「どこも痛くないかミントォっ?」
「だ、大丈夫だよ。それよりさ」
むいむいと二人を押し返しながら、ミントは疑問を口にした。
「二人がここに連れてきてくれたの?」
ここ、とは、もちろんこの病院のこと。
「おお!」
「ううむ、僕のテレポートだ」
「って、テメェ何ひとりで好感度アップ狙ってんだよ?!」
「事実を言ったまでだ、このへっぽこ犬」
「へっぽ……!? 誰がへっぽこだコノヤロォ?!」
「使えないの極みだ」
「んだとテメ」
「じゃあさ」
いつものごとくにぎやかな二人に、ミントは続けざまに質問した。
「二人がこのまま連れてきてくれたの?」
このまま、とは、この、猫耳パジャマのままのこと。
「「あ」」
この時初めて、プリンとポトフは、同じ点滴室にいる他の復活した患者さんや看護師さんたちがくすくす笑っていることと、ミントの顔が別の意味で赤くなっていることに気付いた。
そう言えば、エリアもなんだかくすくす笑っていた。
「「ご、ごめんミント!!」」
「ううん……ありがとう二人とも」
なりふり構っていられないのが正しい判断なのであろうが、恥ずかしいものは恥ずかしいミントであった。