第22回 交剣日和
「……なァ、ミント?」
「ん?」
「どうやったら強くなれるんだ?」
「はい??」
空が灰色に曇っている土曜日の朝。
食堂で、心の中での約束通りミントが奢ってくれた骨付き肉を食べ終わったポトフが、いつになく真剣な面持ちでそう言った。
「ど、どうしたのさ突然? って言うか、ポトフは充分強いと思うけど?」
そんな彼に、びっくり顔でミントが言うと、
「だって俺……今まで一度も枕に勝ったことがねェんだぞ?」
ポトフは骨付き肉の骨を握り締めながら、悔しそうに言った。
「ぽ……ポトフ……」
悔しそうなポトフを見て、完全にその場の流れに乗せられてしまったミントは、
「えっと、特訓して実戦してみてレベルアップすればいいんじゃないかな?」
と、真面目に答えた。
「……? 特訓と実戦?」
「うん! ……あ、でもオレ、ポトフが得意な足技も剣も出来ないな……どうしよう?」
小首を傾げたポトフに、小首を傾げ返すミント。
「! 付き合ってくれるのかァ!?」
しかし、ポトフはその言葉が嬉しかったようで。
「え? あ、うん! 勿論だよ!」
「ありがとォミント!!」
こうして、ミントとポトフは食堂を後にした。
ちなみに、プリンはむぅちゃんと一緒に熟睡中。
ガチャ
「ただいまァ」
青い屋根の家のドアを開けながらポトフがそう言うと、
「! おかえりなさい、ポトフくん。あら、ミントくん、こんにちは」
家の中から、パタパタと金髪のお姉さん、"エリア"がやって来た。
「あ、はい。こんにちは」
ミントがぺこりと頭を下げて挨拶すると、エリアはにこっと微笑んだ。
「……っと、どうしたの、急に?」
その後、突然帰ってきた理由を尋ねるエリア。
「特訓しに来ました。おにィさんはいますか?」
というポトフの答えと質問を聞き、
「はい??」
エリアはミントと同じようなリアクションを示した。
「……成程。それで剣の特訓をしたいと?」
「はい」
町外れの森にある、開けた場所に立った茶髪のお兄さん、ソラが、今までの話をまとめるように聞くと、ポトフはこくりと頷いた。
「……うーん……」
ソラは少し困ったような顔をした後、
「……指導出来るような腕じゃないけど、いいよ。僕でよければ」
よし、と頷いて言った。
「ありがとォございます! じゃァ、行きますよ!」
「うん!」
ヴン、と光の剣、"プリズムソード"を出現させたポトフと、腰に手を伸ばすソラ。
そんな彼らからほどよく距離を置いた所に、ミントとエリアは立っていた。
「……? あの、エリアさん?」
「? 何、ミントくん?」
向けられた黄緑色の瞳に、青い瞳を合わせるエリア。
「どうしてポトフ敬語なんですか?」
ミントからの質問に、エリアは、ああ、と言った後、
「たぶん、ミントくんが私にそういう風に話しているのと似たような理由よ」
と答えた。
「?」
その解答に、小首を傾げるミント。
「だからポトフくんは、私たちのことを、"お父さん"と"お母さん"じゃなくて、"お兄さん"と"お姉さん"って呼んでるんだと思うわ」
そんなミントにふわりと微笑み掛けると、エリアはソラとポトフに視線を戻しながらそう言った。
「……」
その言葉の意味を、ミントが考え込んでいると、
「それにしても、ソラ、大丈夫かしら?」
顎に人さし指を当てながらエリアが言った。
「はい?」
「ソラ、剣持って来てないのよね」
「え、ええええええ?!」
顔を上げると、エリアがさらりとそう言ったので、ミントは取り敢えず驚いた。
「れ?」
腰に伸ばした手がスカッと空を掴んだので、ソラは不思議に思ってそちらに目を向けた。
「……うそ」
見ると、そこにある筈の剣と鞘がない。
(わ……忘れてきちゃった……)
かなりうっかりさんなソラは、ちらりとポトフに目を向けた。
ポトフは真剣そのもので、プリズムソードを構えてソラが来るのを待っている。
「……」
これは忘れてきちゃったとは言えないなあ……とその場の空気を読んだソラは、腰に伸ばした右手をさりげなくUターンさせ、肩の高さの所で掌を上に向けた。
「……?」
が、まったくさりげなくではなく、かなり不自然だった為、ポトフの頭の上には疑問符が浮かんでいた。
「ごほん。……いくよ!」
恥ずかしさを隠す為に軽く咳払いをすると、
ゴオッ!!
「「!?」」
ソラの右の掌から巨大な火柱が上がったので驚くポトフとミント。
「!」
「炎の、剣……!?」
そして、火柱が消えると、いつの間にかその手に握られていた、赤々と燃え盛る炎で出来た剣を見て更に驚く二人。
「……熱く……ないんですか?」
柄までメラメラと燃えているので、ポトフが素直に質問すると、
「自分が出した火で火傷する馬鹿がいる?」
ソラはうつ向き加減でそう答えた。
「あらあら、ソラ、大丈夫かしら?」
すると、再びお姉さんが同じことを言ったので、今度はなんだ、とミントが彼女を見ると、
「剣を持つのは随分久し振りだから、昔の血が騒いでなきゃいいんだけど」
エリアは困ったように笑いながらそう言った。
「へ!?」
昔の血って?! と、ミントは聞き返した。
「……そう言えば、レベル上げには実戦が一番効果的って聞いたことがあるな」
その間、ソラはうつ向き加減のまま口を開いた。
「じゃあ、実戦形式で特訓だよ、ポトフくん」
そう言って、炎の剣をヒュンヒュンと器用に二回転させた後、
「勿論、手加減なんかしないよ」
切っ先をポトフに向けて、ソラは邪悪に微笑んだ。
「!? おにィさん?!」
「あらあら、騒いじゃってるわね」
「って、笑い事じゃないんじゃないですかああ?!」
強くなる為の道のりは、長く険しいのであった。
「何かっこよくシメてんのさって、ポトフうう?!」