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学校日和2  作者: めろん
218/235

第218回 復縁日和

 どんよりとした曇り空の見える廊下の窓に、


「……はァ……」


負けず劣らずどんよりとした生徒が一人、頭を預けてため息をついた。

そのため息の原因は、


「む? 何をしているんだ?」


「みつあみだよー?」


ここのところ、ずっと彼女が構ってくれないから。


「ココア、僕は男だ」


「分かってるよー♪」


そんな彼をよそに、ココアはいじくるためにほどよく伸びたプリンの髪をみつあみに結っていた。


「はい、次そっちー!」


いくら話し掛けても、ぷいっとそっぽを向いて構ってくれない。

それどころか、よりによってプリンと楽しそうにお話し始める。

完全無視。

徹底無視。


「……はァ……」


よって、ポトフは先程からため息ばかりついているのであった。


「あ! 見て見てミントきゅん、渋柿チロルだって〜!」


 心なしかそこだけ暗がりができているポトフの前、食堂脇の売店で、チロルは彼の腕に引っ付きながら、新発売の渋柿チロルを指差した。


「……うん……」


しかし、彼、ミントの心はここにないようで。


「? ミントきゅん?」


ゆえに、疑問に思ったチロルは、彼の綺麗な黄緑色の瞳の先をたどった。

するとそこには、


「わー! 似合う似合うー!」


「むう、だから僕は男だ」


おさげの加害者、ココアと、被害者プリンと、


「……はァ……」


手前に、先程から幸を逃がしまくっている、ポトフ。


「……」


それで、大体のことがわかったチロル。

お友達を心配するいい子だが、デート中にそっぽを向いている悪い子。


「ミントきゅん、あとでご褒美ちょうだいみたいな」


「へ?」


ぷくっとむくれてそう言った後、チロルはすったすったと歩いていき、


「解錠!!」


「ふおォ?!」


「って、ポトフ!?」


通りがけにポトフが頭を預けていた窓を鍵を開けて全開にしてからからココアのもとへと移動した。


「びびった……! って、チロルちゃん?」


「だ、大丈夫っ?」


落ちるかと思い冷や汗が吹き出たポトフに、ミントはぱたぱたと駆け寄った。


「お、おォ。俺は大丈夫だけど」


それに返事をした後で、ポトフは、ココアのところへずかずかと歩いていったチロルを目で追いながら、疑問符を浮かべた。


「……なんか、協力してくれるみたい?」


そんな彼女に感謝しながら、ミントは友人と向き合った。


「協力?」


「そ。さっきからバカみたいにため息つきまくってるキミと、いじけてるココアを介抱するのに」


今度はこちらに疑問符を向けたポトフに、ミントはさらりとそう言った。


「……。……だって俺、ココアちゃんに嫌われちゃったらもう」


「ヤンデレか」


「いや、そんな自分を人質にして無理矢理従わせようとしているわけではない、んだ……けど……」


「けど?」


「……ココアちゃァ〜ん」


「どんなため息だ」


体操座りし始めた彼に、ミントは呆れたようにため息をついた。


「あのねぇ、言ったでしょ? ココアはいじけてるだけなの」


ポトフの目の前にしゃがみこんで、ミントは口を開いた。


「いじけてる?」


「たぶんね」


そうして顔を上げて聞き返してきた彼に、


「で、理由はたぶんキミがココアのピンチに下ネタに走ったから」


ミントはさらりと言い放った。


「え」


「それでまあ、それと日頃のなんやかんやも合わさって何かしらのよからぬものがブチッときたんでないの?」


何とも言えない顔で固まったポトフ相手でも、お構いなし。


「私よりパンツの方が好きなのかー、ってな具合に」


ミントは、自分なりの解釈で言葉を伝えた。


「そんな――」


「それじゃー私じゃなくても女の子なら誰でもいいんだー、……とか?」


「――?!」


彼の言葉に、ポトフは目を見開いた。

まさか、自分がそこまで相手のことを傷付けていたなんて思いもしなかった。


「さっすがミントきゅん! みたいな〜♪」


「「!」」


 すると背後には、いつの間にかチロルとココアが。

ズバリ的中していたのか、ココアは動揺している。

何故に分かるんだおぬし。


「ほら立ちなさいよお邪魔虫」


「え、俺?」


そう言いたげなココアの背中を押しつつ、チロルはポトフに命令した。


「で、ココア」


「ひゃあ?!」


彼が立ち上がったことを確認すると、チロルはココアを押し出した。


「抱いてもらうがいいわみたいな」


後、きっぱりすっきりそう言った。

ちょっと捕らえ方を間違うと、誤解されるその言葉。


「な?!」


ココアは、捕らえ方を間違ったようだ。


「ココアちゃん!!」


顔が著しく赤くなったココアを、ポトフはきつく抱き締めた。

どうやら彼は、正しく理解したようだ。


「って、ちょ!? 離してよー!!」


「ごめん! 本当にごめん!!」


「な、何謝って」


「好き! 大好き!! すっげェ好き!!!」


「て、今度は何――」


「ココアちゃん好きィィィ!!」


「――ふにょわーーーーーー?!」


 何やら騒々しい二人の近くで、チロルは作戦大成功とばかりに誇らしげな顔をしていた。


「ふふん、ぎゅっとしてもらえば自他共に気持ちが分かる大作戦大成功みたいな!」


「あはは、流石チロル様々だね」


そんなチロルを誉め讃えるミント。


「てなわけで♪」


「ん?」


すると、チロルはにっこりと笑ってこちらに向き直った。


「! ああ」


すぐにその意味を理解したミントは、にこりと笑い返して彼女の手を取った。


「はい、ご褒美」


そしてその手に、いくつかの渋柿チロルをお乗せになった。


「……」


彼は、ちゃんとチロルの話も聞いていたようだ。


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