第217回 白状日和
彼女の捨て台詞に、ポトフは思い切り雷に撃たれたような衝撃を受けていた。
「……。むう、何故僕を罠にかけようとしんだ?」
だから、身に覚えがないと言わんばかりにプリンがむすっと質問しても、
「……ポトフ、きらい……ポトフ、きらい……ポトフ、きらい……ポト」
「って、……だ、大丈夫かっ?」
逆に心配してやる羽目に。
「何やってんのさ?」
「! ミント!」
灰になったポトフを見て呆れたようにこちらにやってきたミントに反応し、プリンは顔を彼に向けた。
「わ、わんわんが灰になった!」
慌てて状況報告をしてきたプリン。
「そのうち治るでしょ」
対して、放置。
「まったく……だからプリンがそんな初歩的な罠にかかるわけないって言ったのに」
ミントはため息をついた後で、ねえ、とプリンに同意を求めた。
「う、うむ、そうだ――」
「オレ的には、プリンを餌にカゴを紐を巻いた棒でつっかえて」
「――……ミント……?」
いや、むしろそっちの方が初歩的な罠なのではないのかといった疑問を抱いたプリン。
「どうして僕を罠に?」
彼は取り敢えず、話を進めさせることにしたようだ。
「ん。いや、ちょっと、ていうか、ずっと気になってて」
彼の意思を尊重し、ミントも話を進めることに。
「どうしてプリンはいつも枕を持ってるの?」
提示されたのは、今更ながらの素朴な疑問。
「む? なんだそんなことか」
「え?」
すると、プリンが拍子抜けしたような言葉を返してきたため、今度はミントが拍子抜けした。
まさか、長年の疑問をこうもあっさり解決してくれるのか。
「そんなこと、決まっているだろう」
プリンの次の言葉に、ミントは息を呑んで集中した。
「これは、ミントから貰った大切なものだからだ」
――必殺、素敵な微笑み。
「ぷ、プリン……!」
そう言えば、確かにそれはミントがあげたもの。
プリンの枕にインクをひっくり返してしまった、そのお詫びに。
「って、いやいやいや。プリンその前から抱えていたでしょうよ」
「ぴ」
感動したと見せ掛けてズバッと言い返してきたミントに、プリンはぎくり。
「あのねぇ、オレにイケメンビームなんて効かないんだからね?」
「い、いけめんびーむ?」
何年キミら双子と一緒にいると思ってるのさ、とミントは呆れたようにため息をついた。
「流そうったってそうはいかないんだから」
「む、むう……」
手強い、とプリンは思わずじりっと後退り。
「な、なんとなくだ」
「なんとなくで毎日肌身離さず?」
「い、いつでも眠れるように」
「確かにいつでも眠れるけど、抱えてるから枕として機能してないじゃん」
「ち……小さい頃からのクセで……」
友人のツッコミに、プリンはたらたらと汗をかく。
「? 小さい頃からの?」
が、ここで信じてくれたらしいミント。
「う、うむ。そうだ、小さい頃からのクセで」
こっくんこっくん頷きながら、プリンはその真相を明かすことにした。
「昔、前の枕を貰ったときに父に言われたんだ。"枕をいつも抱えていると願いが叶う"と」
本当は、家にいても学校にいても淋しいから、いつも一緒にいてくれるペットが欲しかったのだけれど。
何かいいように誤魔化された気もするが、ここで対立してもなんのメリットもない。
「へえ、そうなんだ。で、なんてお願いしたの?」
ちっさいころから冷めていたらしいプリンに、ミントは続けて質問した。
「む、それは……」
問われ、プリンは枕で顔を若干隠しつつ、目線を逸らして恥ずかしそうに白状した。
「……と……"トモダチができますように"」
と。
「……」
そんな水色の生物が、ミントにはとても可愛らしく見えた。
「あははっ! プリンかわいい!」
「むっ、わ、笑うなっ!」
「よしよし、願い事がかなってよかったねえ?」
「むう、ミントひどい!」
笑いながら頭をわしゃわしゃ撫でてくる彼に、プリンは馬鹿にされたととても不機嫌。
「……ん? でも、そしたらもう願い事叶ってるじゃん?」
そこで、ミントははたと気が付いた。
「ぴゆ」
ゆえに、プリンはまたしてもぎくり。
「……プ〜リ〜ン〜?」
「て、テレポート!」
「あ! 逃げるなー!!」
プリンが戦闘から離脱したことによって、結局、謎は謎のままで終わったのであった。
「きらい……ポトフ、きらい……」
「って、ポトフまだ真っ白だし?!」
「……ミント。俺、先に行くわ」
「行くってどこに!? って、戻ってきてポトフううう?!」
ひとり、想定外の癒えぬ傷を心に負って。