第216回 罠日和
『まふ〜』
森のなかでプリンを見つけ、小さな魔物はその足元に擦り寄った。
「む。足の調子は大丈夫か?」
そのウサギのように耳の長いもふもふした生物を撫でてやりながら、彼はふわりと微笑んだ。
『まふ〜!』
「? プリン、その子のケガを治してあげたのー?」
元気に鳴いて答える魔物を中腰になって眺めながら、彼について森に入ったココアは口を開いた。
「うむ。ここは、その崖のせいでたまに怪我してる動物さんがいることを最近発見したんだ」
よしよししながらそう答えたプリンの前には、確かに岩壁が顔を出している。
この上から落ちたらタダではすまないことは、言われなくても見れば分かる。
「へえー、だから最近よくここに来てたのー?」
「うむ。今日は大丈夫みたいだな」
なるほどと納得したココアに頷いて返した後、プリンは辺りを見回して立ち上がった。
「帰るか」
「あ、うん」
怪我をした動物がいないことを確認すると、小さな魔物とお別れをした二人は学校への道を戻り始めた。
「やっぱり逢引きなわけじゃなかったんだねー?」
「むう、僕は強いて言うなら鶏肉派だ」
「いや、だから牛豚合挽きのこと言ってるんじゃないってー」
「うむ。お昼は鳥肉にしよう」
「……。私はきつねうどんな気分だなー」
「む、ココアはキツネさんか」
「いや、確認のために言っておくけどきつねうどんにキツネは入ってないからねー?」
そんなとりとめのないお話をしながら、二人は木々のトンネルを抜けた。
「む」
そして森が終わり、あとは学校に向かうために裏庭を横切るだけといったところで、プリンは唐突に足を止めた。
「? どーしたの、プリ」
対して、足を止めずにいたココアは、
「ン――ひょわあ?!」
見事なまでにカモフラージュされていた落とし穴に、まんまと落下した。
「そこ、落とし穴があるぞ?」
「言うのおっそーい!!」
地上から穴を覗き込みながら注意した彼に、ココアはうがーっと突っ込んだ。
「ったく……誰よこんなところに落とし穴なんて作ったのはー?」
怒りながらもプリンに手伝ってもらって穴から這い出したココア。
彼女は、服についた汚れを叩き落としながら、落し穴を迂回した。
「ふむ、ココア」
「んー? なに――にょあー?!」
ところ、またしても見事にカモフラージュされていたトラップを踏んでしまい、ココアはネットに捉われた状態で木の枝に宙吊りにされる羽目になった。
「そこも危ないぞ?」
「っだから、おっそーーーい!!」
小首を傾げたプリンに対してネットのなかで暴れるココア。
「ココアちゃん?!」
そこへ、ポトフが慌ててすっ飛んできた。
「! ポトフ! ちょっと助け」
「枕テメェ何ココアちゃんをたぶらかしてんだ?!」
「っていや今そこー!?」
「つかこれはどっちもお前用の罠なんだぞ?!」
「しかもあんたが仕掛けたんかこれー?!」
「ココアちゃん、今助け」
ズバズバとツッコミを入れるココアを助けるべくこちらを見上げたポトフは、
「……? どしたのー?」
はた、と動きを止めた。
「こ、ココアちゃん、水玉」
「ダークネスサクリファイスーーー!!!!」
そして、ココアの渾身の闇魔法が炸裂した。
「ポトフきらいっ!!」
結果、自力でトラップを抜けることに成功したココアは、ぷんすか怒りながらズンズンと校舎へと消えていったのであった。