第215回 変化日和
学校の裏庭を森に向かって歩いていたプリンは、ふいに足を止めて振り向いた。
「そこで何をしているんだ」
彼の後ろには、誰もいないように見えるのだが、
「ココア」
「ふお!?」
その代わり、不自然な段ボール箱がひとつ。
「な、なんで分かったのー!?」
「分からないほうがびっくりだ」
そして魔力もだだもれだ、とプリンはいたって普通のことを口にした。
「うー……いけると思ったんだけどなー」
完全に気分はスパイだったココアは、観念したように段ボール箱から姿を現した。
「むう、尾行とは趣味が悪い」
「だ、だって、最近よく一人で出掛けてるし」
め、といった感じの彼に、彼女は彼女なりの行動の理由を述べた。
「それに、ムースと婚約破棄したって聞いたから、誰かと逢引きでもしてるんじゃないかと思ったんだもんー!」
単純に、噂好きなおばちゃんの行動である。
「? ハンバーグ?」
「まさかの切り返しー?!」
あいびき違いだとツッコミながらも、ココアはその答えで彼がそんなことはしていなかったことを知った。
「……ちなみに、破棄はしていない」
すると、プリンは先程のココアの言葉に訂正を入れた。
「えっ? でも、ムースがそう言って……?」
驚いたココアの目の前に、プリンは先日ムースから押し付けられた紙を出現させて広げてみせた。
「……! プリン……!」
そこに彼のサインがないところを見ると、確かに破棄は成立していない。
それについて、ココアが感動したように顔を上げると、
「破棄したところで、他の会社と婚約相手を決めさせられるだけだからな」
プリンは、誠にさらりとおっしゃった。
「って、もー!! プリンはムースのこと好きじゃないのー?!」
ゆえに、ココアは感動を返せと言わんばかりに憤慨した。
「むう、だからそう言っているだろう」
「なんでよー! 何が気に食わないのー!?」
ぶんぶんと腕を振り回しながらぷんぷん怒る彼女に、
「ぴわわっ、ぼ、僕は、親を通して僕を見られたくないっ!」
ぽかぽかと叩かれ、プリンは痛い痛いしながらそう答えた。
「え」
「……そういう人間が、とても嫌いだ」
学術や芸術や、とにかく何ができても、それは親があの大会社の社長だから。
自分を自分と認めてもらえないような、そんな感じのつらい気持ち。
「そ、それは……私も嫌だけど……」
相手の親に気に入られることによって身内の立場をあげる。
政略結婚なんてものは、まさにそのど真ん中をいくようなこと。
「で、でもっ! ムースは絶対そんなんじゃないよー!」
しかし、ムースはそんなことを考えて、こんなに長い間彼の婚約者であったとは考えられないココア。
「だってだって! え、えーと、ムースは」
必死に彼を説得できるような言葉を探す彼女の頭を、
「……」
「て?」
プリンは、先程広げた紙を筒状に丸めたものでぽこっと叩いた。
「そんな気がしたから、サインしてない」
見上げると、返ってきた答え。
「……! っじゃあ、プリン、やっぱりムースのこと……!」
ココア、本日二度目の感動。
「うむ。少し気になった。気がした」
プリンは、やはりさらりとお答えになった。
「っだからー! なんでそう余計な一言付けるのよー!?」
「ぴわわ、ココア痛い!」
ゆえに、再びぽかぽか叩き始めるココアであった。