第213回 淡恋日和
「ユーはうまくいったのかな?」
パーティー会場のまた違う場所で、ポトフはこんがりと焼かれた鳥を片手に呟いた。
どうやら以前のようにユウを煽ってきたらしいポトフは、サラダバー付近に潜伏している彼を観察中。
「フハハ! 逢いたかったよアロエ嬢ー!!」
「バーンバニッシュ!」
その近くでは、バジルとアロエがなんかやっている。
「フハハ! 照れちゃって可愛いなぁ!」
「バーンバニッシュバーンバニッシュ!」
「……おやおや」
二人の様子をなんの気なしに観察していたアセロラは、やれやれといった感じに眼鏡をかけなおした。
「まさかアロエがバジルさんに興味を持とうとは」
「え? アロエ、バジルのこと好きなのー?」
彼の言葉に、アロエに聞かれようものならもれなくぶっ飛ばされる質問をココアはした。
「見ていればなんとなく分かりますよ」
「へー、さすが情報収集家さんの観察力だねー?」
さらりと返してきたアセロラに、ポトフの隣から顔を出しているココアは、感心したように頷いた。
「ホント、なんでも知ってるよなァ?」
すると、何か言い合いになっているユウとウララから目を離したポトフも話に加わった。
「なんでも知っていると言うわけではありませんよ」
そんな二人に、アセロラはシャーベットをぱくつきつつ言葉を返す。
「特に、自分への感情というものは客観的に観察できませんからよく分かりませんし」
それも、寒くないのかなぁと思ってしまうペースで。
「逆に、知りたくない情報まで分かってしまうこともありますが」
これは僕の話ではありませんが、とアセロラ。
「知りたくない情報?」
「あ。……もしかして、相手が誰に思いを寄せてるかも分かっちゃうってことー?」
ずばり、アロエの話。
「はい。観察力が普通よりも鋭いというのも、良し悪しですね」
知らない方が幸せということもある。
だからなのか、彼らは自分に対しての感情はよく読み取れないようだ。
「……」
「ん? どーしたの、バニラー?」
諸刃の剣のような才能に恵まれているアセロラの話を聞いている途中で、ココアは袖を弱くひかれて振り向いた。
「……」
その手には、ブルーハワイのかき氷。
「え? バニラも氷好きなのー?」
それを見て、ココアは、アセロラと同じで、という意味で質問した。
「……」
すると、バニラの顔がリンゴのごとく赤くなった。
「え?」
「……」
「……」
「……」
「「……」」
静寂。
「……バニラちゃん、もしかしてアセロラのことぶはァ?!」
口をはさんできたポトフにバニラが水晶玉ストライクをお見舞いした後、
「アセロラ、今日はハロウィンだよー?」
ココアは、バニラを前に押し出しつつにっこりと笑ってそう言った。
「……?」
何を今更、と疑問符を浮かべたところで、
「! ああ」
アセロラは、バニラが何か隠し持っていることに気が付いた。
「バニラさん、トリックオアトリート?」
ゆえに、にこりと笑ってハロウィンのあの言葉を口にした。
「……」
すると、バニラはバッとかき氷を差し出した。
「ふふ、ありがとうございます」
「……」
かき氷を受け取ってお礼を言いながら、アセロラは彼女に数個の飴玉をお返しした。
すると、バニラは手にのせられたそれを、相変わらずの無表情で凝視した。
「? バニラさん、顔が赤いですよ?」
が、顔は赤かったようで。
「……!」
ぶんぶんと高速で首を横に振るバニラを前に、首を傾げているアセロラ。
「……ホントに、自分のことに対しては鈍いみたいだねー?」
「だなァ」
そんな二人を眺めながら、呆れたように呟くココアとポトフであった。
「……」
ちなみに、アセロラはこの時セル先生から殺気を向けられていることにも気付いていなかったそうな。