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学校日和2  作者: めろん
212/235

第212回 決心日和

「……でも、どうしてプリンは……」


 お節介だとはわかっていても、ウララはまだ気になっていた。

そこで、ふと顔を上げた彼女は、とある人物に話し掛けた。


「ねえ、あんたはなんでだと思う?」


「は?」


それは、近くのサラダバーできゅうりハンティングをしていた、ユウ。

話をまったく聞いていなかったわけである彼は、何をいきなり、と疑問符を顕にした。


「だって、あんたが一番乙女心が分からない野郎のことが分かるでしょう?」


すると、ウララが失礼極まりないことを言い放った。


「だから、プリンがなんでムースのこと好きじゃないのかなーって、今あんたに聞いてるの」


これは、相談してもらう態度じゃない。


「はあ? 知るか。そんなこと、本人に直接聞いてこい」


そしてユウもユウで、相談に乗る態度でもない。


「それができないからあんたに聞いてるんでしょうが!」


「だから、俺があいつの考えなんて分かるわけないだろ」


「いや、だーかーらー! プリンは婚約者のムースの気持ちが分からないような、あんたみたいに乙女心が分からないどうしようもない野郎であって」


「喧嘩売ってるのかお前」


これでは、まったくもってお話にならない。


「……お前、どうしてそんなのと婚約関係にあるんだ?」


「「!」」


と、思いきや。


「え、ええと、……形としては政略結婚のようなものであって……」


 何やら相談に乗ってくれる気配。

急に話を振られたため、ムースがおろおろしながら答えると、


「なら、それが原因だろ」


ユウは、あっさり話を終わらせた。


「それなら好きとか嫌いとか、そんなもの関係ないだろ」


確かに政略結婚は、親の都合。

本人たちの気持ちなんて知ったこっちゃない。


「で、ですが、わたくしは、わたくし個人の感情でプロポーズいたしましたわっ!」


素っ気なく言い放つ彼にかちんときながらも、ムースははっきりとと主張した。


「……なら、お前があいつを好きになった理由はなんだ」


そんな彼女を前に、ユウは面倒くさそうに質問する。


「そ、そんなこと、理由なんてありませんわっ! 見るからに素敵ですもの!」


ムースの言葉に、何故か自分が恥ずかしくなっているウララはほっといて、


「だったら、あいつがお前のことを嫌いなのも」


ユウは、きゅうりを片手にこう言った。


「理由なんてないだろ」


と。


「――!?」


予想だにしていなかった答えに思わず言葉を詰まらせたムースに代わって、ウララがもの申した。


「そんな、嫌いなのに理由がないって――!!」


「好きになるのに理由がいらないのに、嫌いになるのには理由が必要なのか?」


「っ! そ、それは……」


呑気にきゅうりをかじっているユウに、うまく言い返せないことを悔しがるウララ。


「姿かたちや家柄だけで寄ってくるようなヤツは、少なくとも俺は大嫌いだ」


そこへ追い打ちとばかりに彼はそう締めくくった。


「……」


「……む、ムース……」


 また余計なことをしてしまった。

ユウなんかに相談するんじゃなかった、と思っても、時すでに遅し。


「……、……分かりましたわ」


と、思いきや。


「え?」


「わたくしは、政略結婚という保証に甘えていたのですね」


 ムースは、落ち着いた声でそう言った。


「そんなものでは、プリンの心は掴めない。そして、好きになるのにも嫌いになるのにも理由なんていらない。……でしたら」


そして力強く涙を拭うと、ばっと顔を上げて声に力を込めた。


「保証なんて破棄して、理由なんていらないくらいわたくしを好きになってくださるように素敵になって、意地でもプリンを振り向かせてみせますわ!!」


それが、彼女の出した答。


「お、おお……!!」


なんだかよく分からないが、そんな彼女にウララは圧倒されていた。


「……が、頑張ってねムース! 私、応援する!」


「ええ。ありがとうございます、ウララさん。そしてユウさんも」


応援してくれるウララと、相談に乗ってくれたユウに感謝の意を示したところで踵を返し、ムースは覚悟を決めたようにプリンのもとへと歩いていった。


「なんかよく分からないけど、ムース元気になったみたいね」


 ぽかんとしていたウララは、ムースがひとごみのなかに消えたときになってやっと口を開いた。


「……い、一応言っておくけど!」


「?」


彼女の切り出した話を、ユウが無言で促すと、


「わ、私はそんな、見た目や家柄だけで好きになるようなヤツじゃないわよっ?」


ウララは、勝手に言い訳しだした。


「そ、そりゃあ第一ステップはそうだったかもしれないけど、それだけじゃこんなに長く……って何言ってんの私うあああやっぱり今のなしなしなしなし!!」


そして、勝手に自爆した。


「……」


そんな彼女を見て、


「……ぷ」


ユウは、思わず噴き出した。


「あ! 笑ったな!? 今ぷって笑いやがったな?!」


「お前、アホだな」


「笑いやがった上にアホだと?! うああ、もういい! もう知らん!!」


「好きだぞ」


「はいはいアホで悪うござ」


ぷいっとそっぽを向いて歩きだそうとした直後、


「……、……え?」


ウララは、自分の耳を疑った。

そしてその後、恐る恐る振り向いた。

そうして、雑踏のなか、二人の瞳は真正面から結ばれた。


「好きだ」


多くの人で賑わうパーティー会場であるにも関わらず、はっきりと届いたその言葉。


「――」


一瞬、何を言われたのか分からなかった。

しかし、目の前にいる彼、ずっと想いを寄せていた彼の口から発された言葉は、確かに彼女の心に届いて、確かに彼女を優しく包み込んだ。


「……う……うんっ!! 私も!」


そうして、知らず知らずのうちに赤くなる顔を隠そうともせずにウララははっきり答えを出した。


「おお。ひゅーひゅー」


すると、死神に祝福された。


「……」


「……」


「……」


「「……」」


 忘れていた。

こいつが近くでアップルパイを全力で頬張っていたことを、今の今まですっかり忘れていた。

――詰まり、全部聞かれていた。


「っ集中豪雨ううう!!」


「《暗雲の閃光は破滅をもたらす》!!!!」


そうなれば、即刻排除。


「フッフッフッ。おめでただな」


「「誤解を招く発言をするなあああああああ!!」」


招待してもらったパーティー会場で、突如暴れだしたウララとユウであった。




みなさまあけましておめでとうございますー!

なんだか連続投稿してみましたが、諸事情ゆえに今後、とりあえず2月までは更新がストップするかと思われます!

誠に申し訳ないのですが、気長に学校日和にお付き合いしていただけたら幸いです。

ではでは、どうぞ今年も、学校日和完結までの間、よろしくお願いいたします~^^

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