第211回 恋情日和
「あ! アオイ!」
パーティー会場で友人を見つけ、ミントはぱたぱたと駆け寄った。
「あ、ミント」
「はい、ハッピーハロウィン! 来てくれたんだね。ありがとう」
「うん、招待してくれてありがとう」
お菓子を受け取りながらお礼を述べたアオイは、
「わあ、ミントは魔法使いなんだね」
ミントの格好を見てそう言った。
「いや、もとから魔法使いだから」
が、ミントからしてみれば別に仮装でもなんでもないのである。
「あ、そっか」
そう言えばそうだねと手をたたいたアオイ。
「……? ミント、そのカボチャさんは?」
彼は、ミントの後ろをついてくる単純な顔が描かれたカボチャを頭に被っている人物に気が付いた。
「カボチャさんだ」
すると、カボチャさんは自らカボチャさんだと名乗り出た。
「あ、プリン……じゃなかった。ハッピーハロウィン、カボチャさん」
「うむ、ありがとう」
まんまプリンの声だったのだが、本人が言うのだからそういう事にしてプリンをあげる優しいアオイ。
「カボチャさん、です」
その隣にひょっこり現れたリンは、カボチャさんをじっと見た。
「……」
「……」
じーっとこちらに向けられた栗色の瞳は、心なしか輝いて見える。
「め!」
しかし、カボチャさんは自分の顔をしっかり押さえてそう言った。
「うっはー! 何この美味しそうなパンプキンパイ〜!!」
一方、ウララは招待してくれた友人そっちのけで、テーブルにずらりと並んだご馳走に目を輝かせていた。
「って、あれ? あー! アップルパイがなくなってるー!!」
そして、お目当てのアップルパイのお代わりがなくなっていることにショックを受けていた。
「フッフッフッ。甘いなうららん」
そんな彼女の目の前で、
「アップルパイはいただいた」
死神は、もっさもっさとアップルパイを全力で頬張っていた。
「ちょ、あんたねえ! ちょっとくらい残しときなさいよ!!」
「フッフッフッ。甘いな」
「いやそりゃそんだけアップルパイってたら甘いでしょうよ!?」
と、甘党死神に食って掛かっていると、
「あの」
ウララは、隣から声をかけられた。
「よろしければ、お食べになりますか?」
どうやら、相当アップルパイが食べたかった気持ちが伝わってしまったらしい。
「ええ! いいんですかっ?!」
差し出されたアップルパイのお皿に顔を明るくしたウララは、
「はい、どうぞ」
自分が何者に声をかけられたのかを知った。
「え……」
この、ふわっふわでキラキラしたドレスを優雅に着こなしている紫ロングのお嬢様は、
「えっと、ムース!?」
あれだあれあれ、としばらく時間を要したウララ。
「……、まあ、ウララさん!」
すると、ムースもムースで思い出すのにちょっとかかった。
「わ、久しぶり! 相変わらず綺麗なドレスですっごいね〜!」
「うふふ、ありがとうございます」
そうそう着るものじゃないドレスを普段着のように着ている彼女にキラキラした瞳をむけた後、
「あ、そうだ! ねえねえプリンとはうまくいってるの?」
にやりと笑って話を持ち出した。
どうやらウララは、この手のお話が好きなようで。
「え、ええ……まあ……」
すると、ムースはにこりと笑いながらそう答えた。
「……?」
その歯切れの悪い答えに、ウララが首を傾げる。
「……」
「……」
「「……」」
間。
「……う」
後、うるりら。
「って、ムース?!」
何事!? と、ウララがびっくらこくと、
「どうせわたくしなんて、どうせわたくしなんてですわー!!」
「いやいや、だからどうしたのよムース?!」
「なんでもないのですわー!!」
「いや何かあるだろ! 絶対何かあるだろそれ!!」
「ですわー!!」
「つか、それ泣き声!? 泣き声なのそれ本当に!?」
急に、ですわーっと泣き出したムース。
「一体どうしたのよ?」
そんな彼女に一通りのツッコミを入れた後、ウララはハンカチを差し出しながらそう尋ねた。
「うう、……実は」
それで少し落ち着いたらしいムースは、
「はあ?! 好きじゃない!?」
アロエに相談した結果得られた情報を公開した。
「なんでよ!? あんたたち、婚約してるんでしょう?!」
信じられないといった表情のウララに、
「プリンは、プリンはわたくしのことなんて嫌いなのですわ……!」
およよと泣きながら応えるムース。
「意味分かんない! ちょっと問いただしに行こうっ?!」
そんなムースの腕をガシッと掴み、ウララは彼女と一緒にプリンのところに行こうとした。
「え!? い、いえ、それはちょっと……」
しかし、ムースはそれを拒んだ。
「でも理由聞かなきゃ」
と、振り向いたウララは、
「……う……」
「って、ムースさあああん?!」
ムースが再びうるりらしていることに気が付いた。
「り、理由は、わたくしも……っ知りたいの……ですけれど……」
あたふたしている彼女の前で、ムースは自分の想いを告げた。
「こ……怖いのです……っ!」
自分が恋い慕っている相手から、拒絶されることが。
「……ムース……」
そんな彼女を見て、ウララはその腕を掴んでいた手を離した。
「……ごめん、私……」
余計なことして、と謝るウララ。
「いえ……わたくしの問題ですのに、真剣に聞いてくださってありがとうございます」
しょぼんとした彼女に、にこりと笑ってお礼を述べるムースであった。