第21回 体育日和
「むう……体育は暇だ」
大きな栗の木の下で、プリンはムスッとした表情でそう言った。
「なら、こんなとこにいないで、プリンも参加すればいいでしょ?」
そんな彼の背後から突然顔を出し、ドッキリ大作戦を仕掛けてみたミント。
「ぴわ!? ミント?!」
ドッキリ大作戦、大成功。
「はい、ミントですよ〜。プリーズスタンダップ」
腰に手を当てながらミントが立つように言うと、
「ヤ」
プリンはぷいっとそっぽを向いた。
「"ヤ"じゃないの」
「ヤー」
「長音符つけたら何か変わるとお思いデスカ?」
ぷうと頬を膨らませているプリンに、ミントは小さく溜め息をついた後、
「立てやコラあああ!!」
ついに実力行使!
プリンの後頭部から尻尾のように垂れている、一本に束ねられた長い髪を、背負い投げの体勢で勢いよく引っ張った。
「ぬ、抜ける〜……ぅ!」
痛い痛い、とバツになった目が似合いそうな顔で、プリンは強制的に立ち上がることになった。
「はい。よく出来ました」
プリンが立ち上がると、ミントはパッと髪の毛を離した。
トン
「はい、サッカーボール。これは何するもの?」
「……蹴るもの」
目の前に置かれたサッカーボールを見て、ミントの質問に答えるプリン。
「正解。じゃあ、早速蹴ってみよー」
ミントが抑揚の無い声でそう言うと、
「うむ。とー」
プリンが抑揚の無い声を出すと共に、サッカーボールを蹴った。
クルクルクル……
その場で虚しく回転するボール。
「「……」」
黙す二人。
「も、もう一回!」
ミントが言うと、
「とやー」
先程より気合いの入った、しかし、どこか気の抜ける声と共に、ボールを蹴るプリン。
クルクルクル……
ボール、逆回転。
「「……」」
沈黙、再び。
「……。…………。も、もしかして、故意?」
「違う」
「……ですよね」
冗談を言ってみるが、敢えなく撃沈するミント。
「……ぶう」
「じゃ、じゃあ!! 次はこのボールを、えーと……そう!! ポトフだと思ってやってみてよ!!」
ぶうっと頬を膨らませたプリンに、慌ててミントがそう言うと、
「……? これを?」
プリンは小首を傾げた。
「そう! はいはい、イメージして〜? プリンの足元に、横になって眠っているポトフの頭があります」
「ふむふむ」
状況説明を聞いて、こくこくと頷くプリン。
「右手にはスプーン。左手には、プリンが楽しみにしていたプリンが乗っていた筈の空の皿が―…」
ドカアアアアアアアン!!
……キラーン
「……」
爆発的な音を立てて吹っ飛び、星になったボールに言葉を失うミント。
「……」
星になったボールに向けていた顔を、カタカタと壊れた人形のように戻してプリンを見てみると、彼はものごっつ怖い顔で、フーフーと肩で息をしている。
"プリンのプリンを盗る=殺サレル"。
また一つ賢くなったミントの顔色は、心なしか悪かったと言う。
「お、いたいた! ミントォ〜!」
「!?」
そんな超バッドタイミングでやって来たポトフに、大空のごとく真っ青になるミント。
「……まだ……生きてたか……」
「?!」
プリンの発言に、大海のごとく真っ青になるミント。
「もォ、こんなとこで何してんだよ? ミントがいなきゃ詰まんねェじゃん」
無邪気な笑顔のポトフから発せられた、嬉しい言葉。
「……俺の……俺のプリンを……よくも……っ!!」
邪気だらけのプリンから発せられた、恐ろしい言葉。
(ゴマモード入っちゃってます?!)
暗黒モードに突入したプリン、詰まり、ゴマプリンの存在に気付いたミントは、
「逃げてポトフううううう!!」
ポトフに向けて全力でそう叫んだ。
「はェ?」
それにポトフが小首を傾げた直後、
「開け、破滅の扉!! 吹き荒れろ――神風!!」
ビュオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!
「どわあああああァ?!」
「ポトフうううううううう!!」
……キラーン
彼はプリンの最大の風魔法に勢いよくぶっ飛ばされ、明日を照らす星になった。
「ああ……あぁあ……」
憐れポトフ。
あとで骨付き肉買ってあげるからね、とか思うミントであった。