第208回 呪解日和
「ココアちゃァん?」
と、呼んでみても一向にミントの足元から離れない彼女に、ポトフは疑問符とともに彼に答えを求めた。
「……なんか、キミらがかっこよすぎるから出てこれないみたいだよ?」
するとミントはさらりと答える。
ちっちゃいココアの咎めるような視線など知ったこっちゃない。
「え? あっは、やっぱりィ?」
「否定しない辺りがポトフだよね。まあ、否定したら逆に嫌味っぽいけど」
照れるぜェ、と嬉しそうなポトフに言葉を返すミントをよそに、
「……」
プリンは、しわっと眉間にしわを寄せた。
「「?」」
そしてその場にしゃがみこんで、
「……」
「……?」
じーっとココアを観察。
彼の綺麗な青い瞳に捕らえられ、ココアは顔を赤くしつつ挙動不振に。
「……ま、枕……お前、まさか……」
その様子を見て、ポトフはごくりと息を呑んだ。
「ロリコンだったのか?!」
「んなわけないでしょ」
ガビーンという効果音が似合いそうなポトフに、ミントはさらりと突っ込んだ。
「? ろりこ……?」
知らない単語に疑問を抱きつつ、プリンは立ち上がった。
その表情は、やはりどことなく不機嫌そうで。
「? どしたのさ、プリン?」
「む、なんでもない」
それに気付いたミントが問い掛けると、彼は首を振ってみせた後、ところで、と言葉を繋げた。
「どうしてこうなったんだ?」
「あ、うん。えっと、直接見たわけじゃないけど、たぶんブドウに呪いをかけられたみたい」
「ブドウに?」
「食物の方じゃないからねプリン?」
ナチュラルに返してきたプリンだが、ブドウのこと知っているわけではなさそうなのをなんとなく感じ取って、ミントは素早く注釈を入れた。
「む、ワインの方か」
「いや飲み物でもないし。人だよ人」
「武道か」
「ねえ解決したって顔してるけど絶対わかってないよねキミ」
ふむ、と自己解決を図った彼にツッコミを入れるミント。
「……呪い……」
ポトフはポトフで、何かを考え込むような仕草をした後、
「――!」
ピーン、と、きた。
「詰まり、俺のちゅーで万事解決?!」
「キミのがロリコンの気があるっぽいんだけどその発言?」
彼の言葉に真っ赤になったココアはほっといて、ミントは突っ込みに大忙し。
「いや、だってほら、お姫様の呪いは王子様の熱烈キッスで解くってのがお約束だろォ?」
「余計な一言で物語全体をいかがわしくしないでくれます?」
「む、そうなのか?」
「なんだよ知らねェのか? スゲーんだぞちゅーは。何せカエルが美女に変身したり失った声を取り戻したり死の淵から呼び戻したり百年の眠りからも覚まさせたり」
「ファンタジーをさも現実のように語るな」
首を傾げたプリンに説明するポトフに、ミントはまたまた突っ込んだ後、
「ほら、ココアがますます動かなくなっちゃったじゃんか」
足に張り付いているココアに一応気を配った。
「そして二人は結ばれて幸せになるんだぜェ!」
「って聞いてないし」
「俺のおとォさんとおかァさんのように!」
「いや……て、なんかツッコミにくいじゃんか」
「……ふむ、果てしなく気持ち悪くなった人生の汚点としての記憶しかないが」
「あっはっは、なんのことを言ってるのか全然わかんないなァ?」
ぼそっと何か呟いたプリンに、ポトフは何も察していない感をアピールした。
「とにかく! 早くココアちゃんを元に戻さなきゃだぜェ!」
「うむ。だがこの呪いは」
さっさと本題に戻したポトフに、プリンはさらりと忠告した。
「うつるぞ」
それが、呪文によるこの呪いの性質。
「「え」」
ゆえに、固まるポトフとミント。
一方は、ちゅーじゃ治せないのか、と。
もう一方は、ちょっと待ってオレひっつかれてるんだけど、と。
「だからミント、離れた方がいいぞ」
「ぅおっそい!!!!」
何気なく注意したプリンに、ミントはジャンピングツッコミをかました。
ちなみに、ジャンプをしたのはココアを剥がすため。
「ひゃあっ?!」
ミントが上昇したことでガードを失ってオロオロしているココアに、プリンは不思議な響きの言葉で呪文を唱えながら右手を向けた。
「「――!?」」
すると、彼女の頭上と腰回りと足元に、それぞれ複雑な魔法陣が現れ、
ぼわんっ
「ほえ?」
ココアが、元に戻った。
「……」
「……」
「「……」」
ぽかんとしているミントとポトフは、数秒後に我を取り戻した。
「「治せるんかい!?」」
「む? うむ。最近本で読んだ」
「えーと、何があったのー?」