第207回 対応日和
ヒトは見かけによらないようで。
「……ま、まさか……」
なんとか召喚魔法で炎の委員長に勝ったミントは、召喚獣を帰らせた後、ある異変に気が付いた。
「? おねーちゃ、どーちたの?」
激闘を繰り広げている間にすっかりブドウとココアを忘れていたミントだが、
「き、キミ、お名前は?」
戻ってきてみると、どうしたことか。
「ん? ココアはね、ココアだよー?」
ココアが、ちっこい。
「へえ……ブドウって、バニラと同じ呪魂魔法使いなんだ……?」
あのふわふわにこにこおっとり教会少女が、まさか呪魂魔法の使い手だとは思ってもみなかったミント。
彼は、ちっこいココアを前に引きつるしかなかった。
「おねーちゃ、おなまえはー?」
「ん? ああ、オレはミントだよ。って言うかお姉ちゃんじゃなくてお兄ちゃんなんだけど」
そんな彼に、ちっこい彼女は話し掛けた。
「ミントおねーちゃ、ここはどこー?」
「ここはセイクリッドの森だよ。って言うかお姉ちゃんじゃなくてお兄ちゃんなんだけど」
「せーくりど? ミントおねーちゃ、ココア、ふぇのりりるがおうちなんだけどー?」
「あー、うん。ちゃんと帰してあげるからちょっと待っててね。って言うかお姉ちゃんじゃなくてお兄ちゃんなんだけど」
「ミントおねーちゃ、ココア、ココアがのみたい!」
「ごめんね、今ココアないんだ。って言うかお姉ちゃんじゃなくてお兄ちゃんなんだけど」
どうやら、ココアはとことんミントを男として認識していないらしい。
しかし、相手は自分の身長の半分くらいしかないがきんちょ。
ここでプッチンするミントではない。
「えー? ミントおねーちゃのけち!」
「ごめんごめん。これで許して。って言うかお姉ちゃんじゃなくてお兄ちゃんなんだけど」
ぷーっと膨れたココアにしつこく訂正を入れながら、ミントは指を鳴らしてお花を呼び出した。
「わー! きれー!」
すると、流石は女の子と言ったところか、ココアはたちまちご機嫌に。
「これ、なんのお花ー?」
「それはね、コ・コーアってお花なんだよ?」
「わー! ココアとおんなじおなまえだー!」
もちろんお花と言っても、ポトフみたいに真っ赤なバラでキザぶるミントでもない。
「はちめて見たー!」
「雪解けの季節に山の天辺近くに咲く花でね? そんなふうにピンク色とか、赤い花を咲かせるんだよ」
自分と同じピンク色の花に目を輝かせているココアを相手に、ミントが植物講座を開いていると、
「む?」
「お?」
噂をすれば、なんとやら。
「え?」
「!」
ミントたちは、後方からこちらにやってくる二人に気が付いた。
「「ミント!」」
「あ、ポトプリン」
「「ポトプリン?!」」
ポトプリン、改め、ポトフとプリン。
「どうして僕が後なんだっ?」
「いや、そこかよ?!」
変なところにご立腹なプリンにツッコミを入れた後、
「れ? ミント、ココアちゃんは一緒じゃねェのかァ?」
ポトフは辺りを見回しながら質問した。
「何言ってんのさ? ココアはここ……」
言われて、ミントが足元に目を向けると、
「あ……れ?」
ココアは、彼の足をガードにして隠れていた。
「どしたのさ?」
「だ、だって!」
「「!?」」
ミントが後ろを向いてしゃがみこんだときに、ちらっと見えたらしい。
プリンとポトフは、ちっこいココアに目を見開いた。
「こ……ココアちゃんのこども……?!」
「いや、こどものココアだろう」
衝撃を受けまくったポトフに、プリンがさらりと訂正を入れた。
「な、なんだ……俺としたことが、てっきり無意識に襲ってしまっていたのかと……」
「何をそんなに焦っているんだ貴様は」
「いや!? それよりまさか他の野郎に無理矢理こどもを産まされていたのでは?!」
「だからココアのこどもではなくこどものココアと言っているだろう」
「ハッ!! それとももしや俺とは遊びで他に本命が!?」
「激しく混乱しているな貴様」
百面相ポトフの隣の、無表情プリン。
そんな愉快な二人に背を向けて、ミントはココアに向き直った。
「み、ミントおねーちゃ、あの人たちのことしってるのー?」
すると、ココアは何故か小さな声で問い掛けた。
「へ? あ、うん。水色の方がプリンで、黒いのがポトフ。オレの友達だよ」
なんだ人見知りか、と思ったミントは二人をご紹介した後で、
「……プリン、と、ポトフ……」
あれ? でもオレには普通に話し掛けてきたよな? と、矛盾した事実を思い出した。
が、これが人見知りではないとすると。
「……かっこいい……」
プリンとポトフの外見は、どうやらこんながきんちょにも通用するようだ。
「……」
そんな、友人二人との対応の違いに、
「……いや、別に分かり切ってたことだけどさ……」
なんとなく落ち込むミントであった。