第206回 語弊日和
障害物競走という名のサバイバルで、
「うはァ?!」
「ぴわわ!?」
炎と氷の使い手に、光と風の魔法使いは苦しめられていた。
というのも、この秋晴れの陽気に似合わないような極端な温度差と、
「"霜柱"!」
「"バーンバニッシュ"!」
動きを鈍らせた後に敵を討つ、息の合った攻撃に。
「くっそ……"キラキラ"ァ!!」
「させんで! "雪やこんこん"!!」
タマゴの可愛らしい業名に合わせて降ってきた雪だるまに攻撃を防がれたと思ったら、
「"フレイムアタック"!」
「な――」
背後にいるサラダから、隙だらけの背中に攻撃が飛んでくる。
「っなんでフォローしねェんだよ?!」
そんな様子を何もしないで眺めていたプリンに、ポトフはガバッと起き上がってもの申した。
「む? あんな分かりやすい手にかかるお前が悪い」
すると、プリンはさらりと言い返す。
「んだとテメェ喧嘩売ってんのか!?」
「敵を増やしてどうする、馬鹿か貴様は?」
「だからその言い方が腹立つんだって言ってんだろォ?!」
この期に及んで喧嘩する二人を見て、
「なんや、余裕やな?」
「よそ見は危険ですよ?」
「「結合魔法――"氷炭"!」」
これはチャンス、とタマゴとサラダは協力して強力な魔法を放った。
「「――」」
ちゅどおおおおおおん!!
結合魔法は、文字通りに二種類以上の魔法を合わせて繰り出す魔法。
魔法は普通、ぶつかり合うとその力のバランスに従って打ち消し合う。
「け、結合魔法だと……っ?」
「む……厄介な……」
しかし、お互いの力を邪魔することなく、尚且つお互いの力を高め合う。
それゆえ、結合魔法は強力で隙がない。
「どうや? ワイらの結合魔法の味は?」
「相当な練習を重ねてきましたからね。普通の結合魔法とは少しわけが違いますよ」
氷の炎。
なんとも矛盾した魔法を操りながら、タマゴとサラダは強気な笑みを見せた。
「ま……、まだまだっ! "キラキラ"ァ!!」
「む、"神風"!!」
しかし、このまま負けてられない。
ポトフとプリンは気合いと根性で立ち上がると、得意の光魔法と風魔法をお見舞いした。
「「な――っ!?」」
が、氷炭の前にあっけなく打ち消される。
「無駄や」
信じられないといった顔をした彼らに、
「ぼくらの結合魔法は、結合魔法でないと勝てませんよ」
と、二人は強気に言い放った。
魔法は、単純にその力のベクトルが小さい方が大きい方に負ける。
しかも氷と炎は、本来であれば対極の魔法。
それを見事に結合させているところから見ても、彼らの結合魔法は、並みのレベルでは打ち消すことができない。
詰まり、こちらも魔法のレベルを引き上げる結合魔法で対抗することが、
「……結合……?」
「……魔法……?」
ベター、なのだが。
「「……」」
隣どうしは、ポトフとプリン。
「うむ」
「ああ」
自慢じゃないが、これだけ長い付き合い。
お互いの考えていそうなことくらい、目を見れば分かる。
「「無理」」
本当に、自慢じゃない。
「「え?」」
だが、他人からはとってもなかよしこよしに見えるのか、サラダとタマゴはびっくりフェイス。
「僕と馬鹿犬が結合魔法? 何を言うか。できるわけないだろう」
「い、いえ、出来そうな気がビシバシしていたんですが……?」
「ないない。俺がこいつと結合できるわけねェだろって言うか結合なんざしたくもねェ気持ち悪ィ」
「聞こえ悪いわ!! ちゃんと結合のあとに魔法つけんかい魔法!! ワイらそんなんとちゃうわ!!」
どうやら、サラダとタマゴはどっちもツッコミ属性なようだ。
「まァ、ミントとなら結合できるかもだけどな」
「た、確かになんかポトフさんが言うと語弊がある気がします?!」
「む? 僕はとっくの昔に結合できたぞ」
「まさかのプリンまで?! 品位!! 品位が著しく損なわれとる!!」
「はァ?! おま、何ミントと結合してんだよ!?」
「はにゃにゃ……ぼ、ぼくらは正常ですようっ!!」
「ふふふ、羨ましいだろう?」
「三角関係や!? 禁断の三角関係や?!」
何やらポトフが言うと語弊があるように聞こえるらしい。
結合魔法に変なイメージがついてしまったらしいタマゴとサラダ。
彼らは、自分たちの身の潔白を示すために、青い顔で慌てて結合魔法を解いた。
「馬鹿犬」
「おう」
直後、プリンは枕で顔を覆い、ポトフは右手を上に上げた。
「"ピカピカ"ァ!」
「「っ?!」」
「――"テレポート"」
強烈な光で視界を奪い身動きを止めた後での場外強制送還。
「敵前で自ら武器をしまうなんてな。フッ……甘いぜ!」
「ぷわ……ねむねむ」
結合魔法で対抗できないどころかそれを使ったこともないのであれば、別の方法で相手の結合魔法を消せばいいだけ。
自ら武器を収めた二人に作戦勝ちした後で、なんかかっこよく決めたつもりらしいポトフと、何事もなかったかのようにあくびをするプリンであった。




