第204回 似者日和
今年の体育祭は、森での障害物競走。
なんでも、障害物を蹴散らして最後までサバイバルした者が優勝するらしい。
しかし、ここは紅葉しはじめた木々の生い茂る自然豊かな森の中。
住人は、野生の本能に忠実に従う動物たちと、やたら血の気が多い魔物たち。
その他は、基本的に植物で埋め尽くされている。
むちゃくちゃな学校と言えど、まさかこの森の生態系をぶっ壊すなんてことを主旨としているわけではない。
すると、必然的に残る"障害物"というのは――。
「これは障害物競走で、しかもルールは障害物を張り倒すサバイバルバトル。となると、障害物である他のペアを負かすのは当然のことだろう」
「だからって最大魔法なんて連発しやがってテメェはレディに対する優しさってもんがねェのかって聞いてんだよ?!」
「だから、向こうから攻撃してきたんだ。それが自分に跳ね返ってくることなんて覚悟の上だろう」
「あれはっ! ……っ、お……俺に対する恨みであって……」
体裁的にはかわいいはずの教え子たちを"障害物"と称した学校イベントにて、二人の学生は歩きながら会話を交わしていた。
「ぜ、全部俺が悪ィんだよっ!」
と、ポトフ。
彼は、自身の独断と偏見からきた軽はずみな行動が、いかに皆を傷付けていたかを痛感していた。
「そんなことはどうでもいい」
それを、プリンは知ったことかと受け流した。
「て、いやいやどう考えてもどうでもよくねェだろォ?!」
「彼女たちの恨み辛みや貴様の考えなんて僕には関係ない」
噛み付くポトフに対して、プリンはさらりと言ってのける。
ちなみに、あれから数回に分けて同じような理由でやってきた女の子たちを、プリンは同じように吹っ飛ばした。
確かに、奇襲をしかけてきた女の子たちやポトフの過去の行いなんて、プリンには一切関係ない。
だから、彼女たちを攻撃する理由はただひとつ。
これは障害物競走なのであって。
「あいつらが攻撃してきたんだ」
――お前に。
そんな、分かりにくく弟想いなお兄ちゃん。
「だから、俺が全部悪いんだっつってんだろォ!?」
ほら、やっぱり伝わっていない。
「……、うむ。そうだな」
「って、今度はあっさり認めやがった?!」
「確かに貴様は頭も口も性格も行儀も趣味もセンスも悪い」
「って、今度は喧嘩売ってんのかテメェ!?」
「何を言うか。貴様が"全部悪い"と自分で言ったのだろう」
「いや全くそォいう意味じゃねェしって言うか俺の人格すべて否定!?」
「と言うか今更気付いたのか? そんなこと、僕はとうの昔に知っていたぞ」
「喧嘩売ってんのかそォなんだなテメェコノヤロおおお!!」
そんなだから、いつもケンカに発展する。
と言っても、それはお互い様なのではあるが。
「あ! ポトフさん!」
「おお、プリンもおるな」
二人が互いに戦闘態勢に入りかかったところで、彼らは後方から声をかけられた。
「「?」」
よって二人が振り向くと、そこにはニャンコとソバカスくんが立っていた。
「おお! サラダとタマゴじゃねェか!」
彼らの名前を口にして応えるポトフと、
「……、……。 ! ああ……」
かろうじて記憶にあったらしいプリン。
「ポトフさん! ボクら、ポトフさんのご指導のおかげで!」
「ついに彼女ができたんや!」
プリンの失礼極まりない反応に気付くことなく、サラダとタマゴは、喜色満面で報告した。
「ソルティちゃんと!」
「ドレシィや!」
それは、彼女ができた嬉しい報告。
「……、……。 ! ああ……」
その名前は、どうやらポトフの検索エンジンに引っ掛かったらしい。
「心当たりがあるのか貴様まさか遊びで――むぐっ」
「おォ、そうか! よかったなァお前ら!」
余計なことを言い掛けたプリンの口を右手でガッツリ塞ぎつつ、ポトフはにこっと笑って喜びを分かち合った。
「はい! ポトフさんのおかげですっ!」
「ほんま、おおきにな!」
輝くばかりの感謝の気持ちが良心に痛い。
「そんな感謝の気持ちを抱きつつ!」
「ワイらと勝負や、ポトフとプリン!」
そんなポトフの心境なんてつゆ知らず、サラダとタマゴは彼らに真っ向から勝負を仕掛けてきたのであった。