第203回 思考日和
綺麗な花には刺がある、とはよく言ったもので。
「覚悟なさいこの頭ピンク〜!!」
「脳内ピンクには負けないよー!!」
片や釘バット、片や電ノコという、いかにも刺々しい武器を手にした美少女が二人。
彼女たちは、一人の罪な男が原因で戦っていた。
「絡みつけ! 朝――」
「剣舞、火炎車」
「うにゃあああ! マッドホイップううう!!」
アロエの動きを封じるつもりが、炎を纏った回転切りによって鞭を斬られた焼き尽くされ、あまりのショックに叫んだ彼の名はミント。
彼が原因で、と言っても、明らかに一方的な勘違いだが、彼らの戦いは始まったのであった。
「きぃーっ! あんたはおとなしくポトフといちゃついてなさいよ〜みたいな〜!!」
「っだからぁ! 私とミントは友達だって何回言ったら分かるのよー?!」
もちろん、ドロドロ三角関係が原因なわけではない。
「友達が彼女の目を盗んでらぶらぶするかあああああ!!」
「いや、あんたの目はどういうふうに脳内変換されてんのよーーー!?」
互いに噛み合わない言い争いをしながら、互いに物騒な武器を振り回す。
「ウッドウォール!!」
「フレアドライヴ!」
「って、わあああ!? 天然杉があああ!!」
そして、こっちもこっちで騒がしい。
先程から、ミントは対アロエに苦戦していた。
理由は見ての通り、ミントの魔法をアロエがことごとく燃やし尽くすから。
「おやおや、学年チャンピオンがこの程度ですか?」
燃え尽きた愛すべき植物に愕然としている彼を、彼女は悪役のごとく嘲笑った。
「ほら! アロエがミントをいぢめてるよー!」
「話を逸らそうなんてそうはいかないみたいな!」
「いやいや事実ー! ミントめちゃくちゃ相性悪くてめちゃくちゃ不利ー!」
魔法も交えて怒濤の攻撃をしてくるチロルから、ココアは逃げるだけで精一杯。
「うう、愛の力って恐ろしい……」
なんて感想も抱くほど。
ミントの状況を見ても、明らかにこちらの方が分が悪い。
でも、だからって負けたくない。
ついでにミントをそんな目で見たことは一度もない。
恐らく自分もそんな目で見られたことも一度もない。
「ココア!」
「!? ちょ、ちょっとー! 近づかないでよ火に油ー!!」
そんなことを考えているとミントが隣にやってきたので、ココアは傷つく言葉を口にした。
「? 何言ってんのさ?」
対してミント。
こいつ、今チロルがあんなに荒れている理由を絶対理解していない。
「とにかく、申し訳ないけどオレだけじゃアロエに勝てそうにないんだ」
そんなココアの思考なんて知る由もなく、ミントは言葉を続けた。
「ココア、盾で動きを封じられる?」
と。
それは、彼のまんま木製の盾では簡単に燃やされてしまうから。
「あ! その手があったかー!」
すると、ココアは気が付いた。
逃げるのがしんどいなら、襲ってくるのを止めればいい。
「いくよー! カオスシールドー!!」
それならば、と早速実行。
ココアは、チロルとアロエを囲むように闇の盾を張り巡らせた。
「!」
「へぶっ!」
それに直感で足を止めたアロエと、見事にぶつかったチロル。
「"へぶっ"って……はしたないですね」
鼻からいったチロルに、アロエは呆れたような目を向けた後、
「さて、どうしましょうかね」
自分の三倍程もある闇の盾を見回した。
闇と言っても、もちろんただの影になっているわけではない。
現に、チロルが顔面を"へぶっ"っとぶつけている。
そして、以前の学祭で見たように、この盾は相手の魔法を吸収する。
「と、なると」
囲まれていない、上。
しかし、これでは相手の位置が分からない。
「きぃー! この小癪ピンク〜!! アタイもミントきゅんと内緒話したい〜みたいな〜!!」
冷静に状況を見るアロエに対し、何やらおかしな方向で頭に血が上っているチロル。
「まあ、闇の盾を張っている以上ココアさんは攻撃できないでしょうし」
そんなペアとは相談する気も起きないのか、アロエはそのままにしておいた。
「回復魔法は対象の傍にいないと使えないし、召喚魔法なら詠唱させなければいい話。他のミントさんの攻撃なら、アロエの炎で焼き尽くせばそれで終わり」
召喚魔法並みの魔力が高まれば、いくら森の中でもミントの居場所が分かる。
アロエはつらつらと解析すると、
「時間の問題ですね。アロエが勝ちま」
「うーん、残念。オレの魔法は植物を生やすだけじゃないんだよね」
そんなアロエの発言を、ミントが盾の向こう側から遮った。
「……?」
聞こえてきた声に、彼女は疑問符を浮かべる。
どういうことだ。
彼の今までの攻撃を見ても、鞭の他は、地面からばかすか植物を生やすだけ。
「オレさ、知ってるんだ」
ココアの隣で弱く魔力を放出し、
「チロルのことも、アロエのことも」
ミントは左手を上に向けた。
「「――!?」」
彼の言葉に、アロエのみならずココアも目を見開いた。
「?」
分かっていないのは、チロルだけ。
今はもう昔の感情ではあるが、誤魔化し切ったつもりだったのに。
まさか、彼はアロエの気持ちに気付いて、
「ピノキ花粉症だって」
やっぱり、いなかった。
「「え」」
が、気付くとドーナツ状の闇の盾の真上に現れた黄色い塊。
――そう、ミントの魔法は植物を操る力。
「食らえ! 花粉玉あああ!」
「「きゃああああ?!」」
花粉アレルギーな方に対してのみ最悪な奥義、花粉玉。
どこかしらのパクリっぽい攻撃で、ミントたちは勝利をおさめたのであった。