第202回 応報日和
カサリと渇いた音をたてて、枯葉は地面の上に降り立った。
「っだァァァ!! なーんーでーテメェとペアなんだよォォォ?!」
そんな風情あふれる物静かな空間に、ポトフの嘆く声が響き渡った。
「僕だって好きで貴様とペアになったわけじゃない」
頭を抱える彼に向かって、ぴしゃりと返したのはプリン。
「はァ……なんだこの何一つときめかない状況は……?」
がっくりと肩を落としたポトフの、ため息まじりの一言。
「……。まあ、ときめかれたら逆に気持ち悪いが」
すると、プリンは静かに脚を止め、
「この状況は、ときめき好きな貴様が原因だな」
ふっと目を閉じてそう言った。
「は?」
と、疑問符を浮かべたすぐ後で、
「――!?」
ポトフは、周囲の異変に気が付いた。
「フレアストライク!」
「サンダーシュート!」
「アクアホーク!」
「ウッドスピアー!」
「シャドウサーベル!」
「ライトハンマー!」
「アイスブラッジン!」
「ウインドナイフ!」
瞬間、彼に複数の魔法が一度に襲い掛かってきた。
「うおう?!」
ドカアアアアアアアン!!
慌てて射程内から逃げたポトフであったが、突然の出来事に混乱し、辺りを見回した。
――するとそこには、
「ごめんなさいポトフくん!」
「本当はこんなことしたくなかったんだけど!」
「でもはっきりぶっちゃけますと!」
「「私たち、あなたにいっぺん痛い目に合わせてみたかったの!!」」
複数人の、女の子。
「……え?」
予想だにしなかったこの状況。
しかし確かなこの敵意。
「なんていうか、もうすぐ卒業だし!」
「もういっかな的な考えで!」
「取り敢えず!」
「皆の意見が一致したので!」
「実行することにしました!」
未だ状況を掴めていないポトフに構うことなく、女の子たちは一言ずつ発すると、
「「覚悟なさい! 女の敵!!」」
再び魔力を高め始めた。
「……え? っと……?」
「恐らく貴様が以前遊びで付き合っていた女の子たちだろう」
疑問符大量発生な彼に、プリンは枕を抱え直しながらさらりと告げた。
「ええ?! 確かにみんなと付き合ってたけど一緒にお茶とかお散歩とかしてただけで遊んでなんか……それに、ちゃんと二年のダンスパーティーの時にココアちゃんだけだって断ったぜ!?」
「それが"遊んでいた"と言うのだろう」
あわあわとなんかほざいているポトフに、プリンは呆れたようなため息をつく。
「とにかく、これは貴様が招いた事態だ。貴様が落とし前をつけろ」
後、きっぱりすっきりそう言った。
「えええ?! いやでも俺――」
そうプリンが突き放した直後、ポトフに複数の魔法が直撃した。
「「あ、当たった!?」」
いや、びっくりしてるが、当てる気で魔法を放ったのだろう。
「……っ」
ドサッ
魔法の世界に女の子は男の子より力が弱い、なんて定説は存在しない。
魔法の力は、その人個人の魔力と気持ち次第。
ましてや、これだけバトルイベントの多い学校の最上級生の、しかも複数ともなると、その威力は言うまでもない。
「これが教訓だな」
相当なダメージを受けて倒れたポトフを見下ろし、
「どうする? 反撃するか?」
プリンは、質問を投げかけた。
「……ゴホ……っ」
すると、ポトフは起き上がる動作も見せず、
「っれ……レディは、蹴ら……ね……」
と、一言そう返した。
――それが、彼の覚悟。
「……、そうか」
ポトフの答えを聞いたプリンは、それ以上は何も言わずに、黙って彼に背を向けた。
そう、自分はもう何も言うまい。
今になってようやく自分のしたことに気付いた愚かな弟だが、せめて彼の意見を尊重することだけはしてやろう。
何もかも受け入れたプリンは、フッと静かに目を閉じた。
「"神風"」
――直後、彼の最大魔法が炸裂した。
「って、オイイイイ?!」
「「っきゃあああああああ!?」」
吹き荒れる暴風により綺麗にぶっ飛んだ女の子たちは、全員見事に星になった。
「ちょっ、おま、何してんだっていうか俺の話ちゃんと聞いてた?!」
女の子に手を挙げるわけにはいかんと、騎士道を貫いたつもりであったポトフが食って掛かると、
「む? だから、魔法で吹っ飛ばしたんだろう?」
プリンは、何を言うかといった態度で言い返した。
「いや、だから女の子に手を……ってお前あれか! お前まさか蹴らなきゃいいとか判断したのか!!」
「だから貴様がそう言ったのだろう」
「いや、そォいう意味じゃねェしって言うかお前レディに暴力振るうなんて最低だな?!」
「む……、男女平等だ、と言うかお前にそんなこと言われたくないっ!」
「テメェ尤らしく男女平等語ってんじゃねェって言うかなんであの流れで攻撃したんだよあの流れで?!」
「そんなの負けたくないからに決まっているだろうこれは唯一僕がみんなと対等に渡り合える体育祭なんだぞと言うかなぜ二回言ったっ!?」
「こんなん体育祭って言わねェって言うかんなもん大事なことだからに決まってんだろォォォ!!」
そんなこんなで、ボロボロだったことも忘れていつものごとく兄弟喧嘩を始める二人であった。