第197回 学習日和
一日の授業が終わり、一先ず寮に戻ろうといつものメンバーで廊下を歩いていたときの出来事。
「プリンさん」
「む?」
彼らの行く手を阻むかのように、眼鏡少女アロエと、
「ミントきゅ〜んっ!!」
「ううわっ?!」
金髪少女のチロルが現れた。
「あは、いつ見てもらぶらぶだなァ」
「えへ、だってらぶらぶなんだもーん! みたいな〜っ♪」
ほのぼのと笑うポトフに、チロルは喜色満面でそう答える。
「ね、ミントきゅん、ちゅ〜♪」
「は?! え、ちょっ、まっ、待て!!」
「何その犬にするような命令ー?」
「待つ!」
「って、チロル従っちゃってるー?!」
ミントの命令にばっちり従った彼女にココアが突っ込みを入れるなか、
「プリンさん、単刀直入にお聞きします」
「うむ?」
アロエは本来の用件を持ち出すべく口を開いた。
「恋愛感情で好きな人はいますか?」
非常にめんどくさそうな表情で。
「「へ?」」
その質問に、面を食らったのはミントとココアとポトフの三人。
質問された当の本人は、顔色一つ変えずにさらりと答えた。
「ううむ」
と。
「……」
「……」
「……」
間。
「えええ?! ちょ、何言ってるのさプリン!?」
「そォだぞお前婚約者いるだろォ?!」
「そーだよ、ムースでしょムースー!!」
後の、リアクション。
「……。ムースは確かに僕の婚約者だが」
そんな反応に、プリンは顎に手をあてがいながら、
「恋愛感情ってなんだ?」
と、逆に質問をした。
「「は?」」
彼からの問いに、再び鳩が豆でっぽうを食らったような顔になる三人。
「……はぁ……」
「あらら、アロエの予想通り〜みたいな?」
その隣で、倦怠感溢れる溜め息をつくアロエと、あらあらと周りの様子を眺めるチロル。
「おま、恋愛感情って言ったら俺とココアちゃんとかみたいなもんだろォ!?」
「って、ふやーーー?!」
ココアをぎゅーっと抱き締めてポトフが言うと、
「悲鳴をあげさせるのが恋愛感情なのか?」
プリンが再び質問した。
「え」
ポトフ、一時停止。
「……え? ちょっと待って俺って実は超最悪じゃねェ?」
「え!? ちょ、ポトフからキノコがー?!」
彼からの問いに、ココアをはなしたポトフは、第三者からの見え方を知って落ち込み始めた。
「あんた、それでよくミントきゅんの友達やってるわね〜みたいな?」
すると、今度はチロル。
彼女はミントにぴったりとくっつきながらもピッとプリンを指差した。
「ミントきゅんが初めてアタイに会った日のことを思い出してみるがいいわみたいな!」
「って、思いもよらぬ流れ弾?!」
ズビシィっと言い放たれた言葉に突っ込みを入れるミント。
「ふむ。確か顔を真っ赤にして帰ってきたと思ったら布団に顔を沈めてありえないありえないと」
「って、ちょー!? 何つるっとしゃべってんのさプリンんんん?!」
「やぁん、ミントきゅんか〜わ〜い〜い〜♪」
「ちちち違う違う違うってば」
「そのあとガバッと起き上がったかと思うとしきりに僕にありえないよね違うよねと」
「うにゃあああああ!!」
と、跳弾しまくる流れ弾に苦しめられているミントをよそに、
「ムースさんからの相談でしたが、連れてこなくて正解でしたね」
アロエは、やれやれと深く溜め息をついた。
「ではその答、教えて差し上げましょう」
後ろに回していた手を前に出し、アロエはにこりと笑ってそう言った。
「む、本当か?」
と、振り向いたプリンに、アロエはふしゅーっと霧吹きで透明な液体を吹き掛けた。
「お手を拝借しますよ、ポトフさん」
「お?」
その後、彼女はポトフの腕を掴み、プリンの頬にぺたっと右手をつけさせた。
「ありがとうございます」
「? アロエちゃん?」
何を、と、取り敢えず手をはなしてもらったポトフが疑問符を浮かべると、
「恋愛感情が学べる魔法薬です」
「……」
アロエがさらりと答え、プリンに変化があらわれた。
「……? どしたのー、プリンー?」
その変化に、小首を傾げながらぱちぱちと目をしばたくココア。
「ココア」
を、プリンはふわりと抱き締めた。
「え」
突然の出来事に、一時停止するココア。
「愛している」
を、プリンはぎゅーっと抱き締めた。
「――」
よってココア、完全停止。
「え、えええええええ?! ちょ、な、何言ってるのさプリン!?」
プリンの突然の告白に、ミントは本気で焦りだす。
その理由は、
「……まァくゥらァ……」
隣で、鬼のようなオーラを出しているヤツがいるから。
「やぁん♪ なになにっ? これが噂の三角関係〜みたいな、みたいな〜っ?」
反対隣では、なんか知らんがはしゃいでるヤツもいるが。
「な……何したのさアロエ?」
「ポトフさんの気持ちがそっくりそのまま自分の物になるような魔法をかけた水を吹き掛けてみました」
「なるほど、それでプリンがポトフみたいにココアにめろりんこなのね〜、みたいな?」
そんな、しっかり安全なところに避難した三人はほっといて、
「ココアちゃんに触るなァァァァァァァァァァ!!」
「馬鹿か貴様は。ココアは僕のものだ」
何やらおかしな理由で争い始めたポトフとプリンと、
「ちょっと今の聞いた?」
「本当、どんなご身分なのよココア」
ひそひそ
「って、違う違う違ーーーう!!」
あらぬ噂と周囲からの冷たい視線という二次被害をこうむるココアであった。