第192回 親子日和
試験も無事終わり、長期休暇で自宅に帰ってきたミントは、
「家族旅行だあ?」
と、聞き返した。
「そうだ、家族旅行。そう言えばそういうのやったことなかったなー、と」
シャーンは腕組みしながらうんうんと頷く。
「……何? リストラされたの?」
すると、ミントから痛恨の一言が返ってきた。
「……」
「……」
間。
「っ、されてねぇよ!? なんで旅行に行こうって言っただけなのにリストラされたのって返ってくるんだよ?! あれか! お前は冷めた夫婦の嫁みたいに夫は家にいないで働いて稼いで来りゃいいとでも思ってんのか!!」
そんなミントに、長丁場なツッコミで返すシャーン。
「分かってんじゃん」
「うおおおおおい!!」
それをさらりと肯定されたが、負けるものかとシャーンは必死に突っ込みを入れる。
「そんなん隠してもすぐ分かるよ?」
「リストラありき?!」
どうやら脳内で確定したらしいミントは、父親を見上げつつあからさまなため息をつく。
「あのなぁ、純粋に家族旅行に行こうって言ってんだ! 断じて他意は無い、って今度はあからさまに嫌そうな顔するな!!」
流石と言うべきなのか、ミントの父親だけにツッコミがせわしない。
「なんでオレがおっさん夫婦とピエロと紳士とそのペットを連れて仲良く旅行しなきゃならないのさ?」
「……。……お前アレだろ。どうせ行くならあのスタイル抜群で美人な彼女と行きたいとか思ってんだろこのエロガキが!!」
「はぁ? 何言って」
「流石俺の息子だ!!」
「て、ちげえしお門違いに誉めてんじゃねえよ?!」
突っ込みを入れてたのにボケだしたシャーンに、ミントの反撃が始まった。
「照れるな照れるな。分かるぞぉ、父さんもお前くらいの歳にだな」
「いや興味ねえし聞いてねえよ?!」
「ちなみに母さんとはシャイア城で出会ったんだ」
「そして構わず語るなよ!?」
などと、二人が近所のはた迷惑にもキッチンでギャーギャーと騒いでいると、
「るっさいわね、ウチも混ぜろ!!」
「「いや混ざるなよ?!」」
オカンの登場で、結果的には静まった。
「ちなみに訂正するけど、マロとフランとそのペットは行かないわよ」
計算通りなのか、ジャンヌはふんぞり返ってそう言った。
「? 行かないの?」
どうして、と疑問符を浮かべるミント。
「言っただろ? 家族旅行だって」
彼の問いに、シャーンは続ける。
「詰まり、親子三人水入らず」
と。
「あら、水がいらないんだったらアンタは行かなくていいわね」
「って、いやその水じゃねえよ?!」
「じゃあどこの水?」
「いやそこで場所を尋ねられても!!」
「あー、あの水ね」
「しかもなんか自己解決した?!」
「もこ水」
「どこの水!?」
相変わらず騒がしい夫婦である。
「……」
そんな彼らを見て、ミントは小さく息をはく。
「お? どした?」
二人の横を通り抜けて歩きだした彼に、シャーンがツッコミをやめて問い掛けると、
「もう寝る」
ミントは、止まりもせずにそれに答えた。
「……明日早いんでしょう?」
と。
「……! お、おう!」
――こうして、彼らは夏休みの思い出に、初めての家族旅行に行ったのであった。