第19回 天然日和
暗がりを出た四人は、日当たりのいい柔らかな草の上に適当に座った。
『む〜』
「あっはっはっ! 可愛いなァ♪」
地面につけていた左腕をよじよじと登ってきたむぅちゃんを見て、自然と笑顔になるポトフ。
「ぴわわっ……そ、そっちは危険だ、むぅちゃん!」
その様子を見ていたプリンは、心配そうに言った。
『む〜?』
「どォいう意味だ、枕?」
そんな彼に、むぅちゃんは疑問符を全身を傾けて表現し、ポトフは爽やかに聞き返した。
「そのままの意味だ」
爽やかに答えるプリン。
「……じゃあ、アオイはむぅちゃんを届けにシャイアから一人で来たの?」
「はい」
不穏な空気が爽やかに流れ出した空間のすぐ隣で、ミントの問いに、アオイはこくりと頷いた。
どうやらアオイは、ミントたちにむぅちゃんを預けに此処まで来たようだ。
「へえ、大変だったね? ワタルに魔法使ってもらえばよかったのに」
アオイからしてみれば此処は異世界で、しかも、王都市から学校まで結構な距離があるのに、と思いながらミントが言うと、
「あ、ええと、死神さんは一生懸命料理をしていたので」
アオイは応えた。
「シャーンさんにカレーの作り方を教えてもらいながら」
倒置法を用いて。
「……………………へぇ」
それを聞いたミントは、急に血色が悪くなった。
「……じゃあ、えっと、ユウとかとは一緒に来なかったの?」
しかし、その話題については敢えて突っ込まずに、ミントは華麗に話題を変えてみせた。
「ユウとリンとウララは、楽しそうに公園で遊んでいたので」
彼の問いに、再びこくりと頷くアオイ。
「へえ、仲いいんだ?」
それを聞いて、ミントは、ウララとポトフのことを、ユウは男女平等と言わんばかりに、あんなに派手にボッコボコにしてたのに、と驚いた。
「はい。三人で楽しそうにサンドバッグごっこしてました」
すると、アオイはくすりと笑ってそう言った。
「サン……」
それを聞いたミントは、一時的に思考が停止した。
「? サンドバッグごっこです」
その反応を、よく聞き取れなかったと解釈したのか、アオイはもう一度言った。
「……」
黙すミント。
「……えっと、それを、楽しそうに?」
だって、どう考えたって、それは良い子も悪い子も絶対に真似してはいけない最悪な遊びだ。
と言うか、遊びではない上に、そんな笑顔で言うような単語でもない。
そう思ったミントが、楽しそうに、を強調して、確認するようにゆっくりと聞き返した。
「はい。サンドバッグ役のウララは麻袋に入っていて見えなかったのですが、ユウとリンはとっても楽しそうでした」
悪意のない、潔白な笑顔。
「……わあ……斬新……」
こいつ、天然だ。
楽しそうなら、まあ、いっか♪ なノリだ。
とか思いながら、サンドバッグ役は麻袋に入るという無駄知識を得てしまったミントは、そうとしか言えなかった。
「そう言えば、その虫籠。ミントさんたちは虫採りをしていたんですか?」
遠い目をしているミントをよそに、アオイは微笑みを絶やさずにほのぼのとした話題を切り出した。
「え? あ、うん。まあ」
そう言えばって、どう言えば? と、ミントは先程の会話から脈絡を見い出そうとした。
「わあ、楽しそうですね。ええと、何を探しているんですか?」
そんなミントに、彼はくすりと笑ってそう言った。
「……。蝶々だよ」
考えても無駄だという考えに到ったミントは、気持ちを切り換えて彼の問いに答えた。
「蝶々ですか。僕も好きですよ、蝶々―…あ」
発言の途中で、何かに気付いたアオイは、すっと右手を斜め上に伸ばした。
すると、その指先に、羽が葉っぱになっている蝶々がひらひらと舞い降りた。
「わあ、初めて見る蝶々です! こんにちは」
驚いたようなことを言ってから、アオイがその蝶々に挨拶をすると、蝶々は挨拶を返すかのように羽をパタパタと動かした。
「……え? 嘘……?」
「指に蝶々さんが……」
「……スッゲェ……」
その光景に目を見開くミントと、爽やかな睨み合いを中止したプリンとポトフ。
ひらひら
「わあ、キミのお友達?」
すると、更に二匹の羽が葉っぱになっている蝶々がアオイの周りにやって来た。
とととととっ
ぱたぱたぱた
「わあ。ふふっ、こんにちは」
「……」
次々と彼の周りに集まってくる蝶々やリスや小鳥を見て、
「……め、メルヘン……」
と、ミントは思わず呟いてしまったそうな。