第186回 招待日和
学園祭に招待してくれたお礼にご招待。
『レディースアンドジェントルメーン!!』
したのはよかったのだが、
「……テンションたけー、です」
「なになに? これって闘技場?」
「闘技場って、……え? もしかして、戦うの?」
「……随分と荒れた学園祭だな」
国立魔法学校のグラウンドに突如現れた闘技場の観客席に座ったリンとウララとアオイとユウは、世間一般的な感想を口にした。
「あ、あれー? 去年は普通だったのにー」
「うむ。元に戻ったようだな」
「しかしユウたちの感想に違和感を覚えるオレって一体……?」
彼らの横で、苦笑いを浮かべるしかないココアとミントと、なんだか眠そうなプリン。
『それじゃあ始めるよ! 第一回戦、チロル=チョコ! バーサス、アロエ=ヨーグルト!』
そんなことはお構いなしに、クー先生はいつも通りにハイテンション。
「あ、アロエ、です」
「あらホント。しかも相手はミント嫁ね」
「いやいやいやいやいや」
ステージに上がったアロエとチロルに反応したリンとウララと、ウララの発言に反応したミント。
「何照れてるのよ? ミントチョコはすでに世間で認められてるでしょ?」
「いや関係ねえし! って言うか婿養子?! しかもミントチョコって確かに周知されてるけどそんな好みが別れるようなものを」
「あー、ちなみに私はアレ嫌いよ」
「って、しかも嫌いなのかよ?!」
「だって歯みがき粉の味がするじゃない」
「一般的な理由! ものすごく一般的な理由!!」
「なんでチョコに余計なもの纏わせるのよって感じよね」
「重点的に否定したね!? 今、ミント要素だけを重点的に否定したね?!」
何故かミントチョコ議論を始めたミントとウララ。
「……。ココアプリンもある、です」
「って、流れ弾ー?! ちょ、やめてよリンー!」
「カスタード以外のプリンは邪道だ」
「しかもなんか私がフラれちゃったみたいになってるしー!?」
そして、リンとココアとプリンによるココアプリン討論も展開した。
「わあ、すごいねユウ! 雷と炎の魔法だよ!」
「そうだな。奇声があがったな」
「真剣勝負、って感じだね!」
「そうだな。雄叫びがあがったな」
「でも、危なくないのかな?」
「そうだな。悲鳴があがったな」
そのなかで、ほのぼのしていない内容の会話でほのぼのするアオイとユウ。
『決まったー!! 勝者、アロエ=ヨーグルト!!』
そうこうしているうちにアロエが勝利。
彼女が、"レディがはしたないですよ"、と捨て台詞を残してステージを降りたことから、どうやら先程の奇声と雄叫びはチロルのものであったらしい。
「あれ? アロエが勝ったのー?」
「あらら。じゃあ負けたのね、ミント嫁は」
「まだ言うか?!」
勝敗に興味を示したココアとウララと、まだまだ元気に突っ込むミント。
「ん? もう試合は終わっちゃったのか?」
するとそこへ、ポップコーンを抱えた死神がやってきた。
「うむ。アロエちゃんの勝ちだ」
「だからそれ激しく抵抗あるんだけどプリンー?」
プリンの"ちゃん"付けがどうにも許容できないココアをよそに、
「アロエか。アロエはにきびに効くからな」
「いやそのアロエじゃないって言うかにきびって」
「フッフッフッ。青春の勲章だ」
「なんでそこ無意味に偉そうなのさ?」
「妥当☆アクネ菌!」
「しかもなんか漢字変換間違ってない?」
「なん打倒?」
「わっは〜、ダジャレきた〜」
「フッフッフッ、きゅうり味のポップコーン食べるか?」
「え、斬新」
突っ込みに忙しいミントは死神に突っ込みを続けている。
『続いて第二試合! イチゴ=タルト、バーサス、ポトフ=フラント!!』
と、その時、完全に学園祭そっちのけで会話していた彼らの耳に、クー先生のアナウンスが聞こえてきた。
「「きゃあああああ!」」
ついでに、黄色い歓声も聞こえてきた。
「「ポトフくうううううん!!」」
更についでに、ハートもいっぱい飛んできた。
「……」
「……」
「……」
「「……」」
間。
「わあ、ポトフって大人気なんだね?」
「フッフッフッ、なんてったって家庭的な料理だからな。オレ様は嫌いだが」
「だからそっちじゃねえ、です」
観客席からポトフを見下ろしながらほのぼの会話するは、アオイと死神とリン。
「お。コっコアちゃァ〜ん!!」
黄色い歓声をものともせずに、ただ愛しの彼女だけを見て無邪気に右手を振るポトフ。
「……。アイツ、手ぇ振ってるぞ」
「うむ。ココアご指名だ」
喜色満面で愛しの彼女に向かって手を振る彼を無表情で見下ろしているプリンと、死神から強奪したきゅうり味のポップコーンを抱えているユウ。
「……あんた、すんごいのが彼なのね? 周りからバシバシ敵意向けられてる気がするんだけど」
なんだか恐ろしい状況に耐えかねて、ウララは思わずこう言った。
「いじめとかあわなかった?」
と。
「……ふ」
「……へ?」
すると、
「うん、始めはあったよー陰湿なのが。椅子にガビョウが置いてあったりー、陰口たたかれたりー。うふふふー」
「あはは、でもココアはいいじゃんか。ミスウサギさん寮って盾があるんだからさ。オレなんて完全無防備だから滅多打ちだよ?」
「あ、そっかそっか。チロルは学校一美人さんだしスタイル抜群だしねー」
「まあ、プリンもだけどポトフも学校一美男子さんだし成績もいいしねー」
「たいてい一人の時を狙ってくるんだよねー」
「そうそう。絶妙なタイミングでしかけてくるんだよね」
「うふふ、ミントも苦労しますなー」
「あはは、本当だよねココア」
ココアとミントは、どこか遠くの方を見ながらうわごとのように語りだした。
「うふふふふふふふふー」
「あははははははははは」
何か踏んではいけないスイッチを踏んでしまったらしいウララ。
「な、なんかごめんなさい……」
ここではないどこか遠くを見て清々しく笑い続ける二人に、深々と頭を下げて謝る彼女であった。