第185回 逆訪問日和
青く晴れ渡った空に、人で賑わう高等学校。
学園祭の日のお昼過ぎ。
校門の近くの立派な木の下に、
「きゃ! 見て見てあの人!」
「やーん、素敵っ! しかも双子?」
その人混みのなかで、多くの女性票を集める黒髪双子がいた。
「あは、そう言えばそんな設定だったね」
きゃいきゃい騒がれている彼らに、今思い出したように帽子を被った黒髪の男の子が言うと、
「む? 設定?」
「ひでェなミント、俺のイケメン加減を忘れるなんて?」
一方が枕を片手に首を傾げて、一方がナルシーっぷりを披露した。
「それにしても、黒髪になると本当にそっくりだよねー?」
その隣で、こちらは多くの男性票を集めている黒髪女の子が発言した。
「な――」
「むう、こんな馬鹿と僕を一緒にするな」
「――んだとテメェもう一辺言ってみろ?」
「むう、こんな馬鹿と僕を一緒にするな」
「上等だなテメェ」
こちらの世界では少々派手な髪色を魔法で黒く見せ、ますます双子度が増した彼らはプリンとポトフ。
「そっくりそっくりー」
「まあ、枕と眼帯で見分けつくけどね」
そんな彼らを眺める、こちらも黒髪ココアとミント。
「あ、ちょっとあれって」
「なーんだ、彼女連れかぁ……」
そう言えば美形だった彼らを熱心に見ていた女衆は、残念そうに踵を返した。
「どっちも」
と、言って。
「って、聞き捨てならねえ?!」
その最後の一言が聞き捨てならなかったミント。
「ふえ? どったのミントー?」
「誰が彼女かあ!?」
「あーなんだ、そんなことー?」
「そんなこととは何さけしからん!!」
ご立腹ミントの訴えに、
「だって実際ミントは女だよー?」
ココアは呆れたようにそう言った。
「いや、何勝手にヒトの性別ねじまげてんのさ?!」
「あ、間違えた。女顔だよー?」
「どんな間違い!? って言うか、そんなん絶対認めねえええ!!」
十八にもなって性別を間違えられるなんてたまったもんじゃないと、ミントはその事実を否定した。
「でもさー、私も初め女の子かと思ったもーん」
「いや知らねえしって言うか聞き捨てならねえ?!」
「あ、ちなみに俺もォ」
「いや何さそのいらん捕捉!?」
ココアとポトフに突っ込みを入れた後、ミントは助けを求めるようにプリンを見た。
「……」
プリンは、目を逸らした。
「――っ!?」
そんなバカな。
ミントは衝撃のあまり、その場でガクッと両膝をついた。
「おォ、ミントが燃え尽きたァ?!」
「ぴわわっ、ミント冗談だっ!」
そんな彼に、ポトフとプリンが慌てていると、
「お待たせしました、です」
制服を着た栗色髪の彼女、リンがやってきた。
「? どうかしました、ですか?」
その独特な口調で、彼女は体操座りし始めたミントと彼を必死で慰めるプリンとポトフを見て疑問を口にした。
「ねーねー、リンは初め、ミントが男の子か女の子のどっちに見えたー?」
すると、ココアはそれに疑問文で答えた。
「……。そう、ですね」
それで状況を理解したリンは、落ち込みつつもわずかな希望を抱いて耳をそばだてたミントを見て答えた。
「アオイと同種だと思いました、です」
アオイと、同種。
「マジで?!」
それすなわち、男の子。
ミントはぱあっと顔を明るくし、ちょうど頭の上にあったポトフにヘッドアッパーを食らわしながら立ち上がった。
「はい、です」
「わあ……っ! 流石リン!!」
こくりと頷いたリンに涙ぐむミント。
(そういう意味合いじゃないと思うんだけどー?)
喜びが最高潮な彼に、ココアは言ってはならない思考をめぐらせた。
「む? リンちゃんだけか?」
("ちゃん"?! て、あ。私も最初呼ばれたかー)
小首を傾げたプリンの言葉にびっくりしつつ、初めは自分も"ちゃん"付けされたことを思い出すココア。
「はい、です」
が、当の本人は気にも止めず。
「リンの店番は終わって交代してもらいましたが、ウララたちは部活の店番の方がある、です」
プリンの問いに答えたリンは、彼らに新たな疑問を抱かせた。
「部活?」
部活とはなんぞや、と、ミント。
「部活動、です」
ちょっと長くしたリン。
「部活動って?」
続けて質問するポトフ。
「……。主に放課後に開かれる、文化やスポーツなど特定の種類のものを、そこに所属した生徒が集団で行う教科外活動、です」
それに、リンは簡潔に説明してみせた。
「詰まり、学校終わってからみんなで合奏したりスポーツしたりするってことー?」
「はい、です」
もっと簡単にしたココアにこくりと頷いたリンは、
「……物好きだな」
「はい、です」
何故に学校終わってからスポーツなんぞやるしかないんだという感じのプリンにもこくりと頷いた。
帰宅部上等。
「へえ、部活って、どんなのがあるの?」
が、わりとスポーツ好きなミントが興味をもって質問してきたので、
「この学校には、野球部、サッカー部、バスケットボール部、ソフトテニス部、水泳部、陸上部、柔道部、空手道部、弓道部、吹奏楽部、美術部、茶道部、華道部、書道部、などがある、です」
リンは、思い当たる主な部活を列挙した。
「へー、リンは何部なのー?」
後、尋ねるココア。
「帰宅部、です」
帰宅部上等。
「帰宅……詰まり、無所属なわけだね?」
「はい、です」
「む。では僕たちも帰宅部か」
「いや、そもそも部活がねェだろ」
「ね、じゃーウララとかアオイは何してるのー?」
学園祭らしくお店で賑わう校内を適当に歩きながら、会話するリンと異世界組。
「アオイはテニス部で、ウララとユウはバスケ部、です」
「ええ! ウララはなんか分かるけどアオイとユウってテニスとバスケやってるのー?」
「はい、です。強いかどうかは知りません、ですが」
「へー! あ、ワタルはー?」
「美術部、です」
「えええ?! ワタルが美術ー!?」
「はい、です。ちなみに、絵画コンクール連続金メダリスト、です」
「えええええ!? ワタルってそんな特技がー?!」
そんな会話をしながら出店を回るリンとココア。
「平和な学園祭だなァ」
「うむ。サバイバル感は皆無だな」
当たり前のことを当たり前じゃなく言うポトフとプリン。
(てことは、本格的にヘタクソなんだなぁオレ……)
実は美的センス抜群だった死神に"カオス"と言われたことを思い出し、知ってはいたものの、本格的に落ち込むミントであった。