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学校日和2  作者: めろん
182/235

第182回 兄妹日和

 雪がよく降るフェノリリル。

温泉がたくさん湧き出ていることで有名な山の奥地のその町の、一際大きな旅館の一室にて、


「すかーっ」


ポトフは気持ち良く眠っていた。


「お……重い……」


寝返りを打って潰した、ミントの上で。


「ぽ……とふ……」


「すかーっ」


「重い、ってば……」


「すかーっ」


「どい……て……」


「すかーっ」


規則的な寝息は、うつ伏せに潰れているミントに、見事な相槌を打つ。


「……っ、プリン?」


駄目だコレは、と思ったミントは、ばすばすと布団を叩きながら、反対隣の布団に寝ているプリンに助けを求めた。


「……む?」


――奇跡が起きた。


「あれ?! ホントに起きた!? っていやいやそうじゃなくっ……プリン、助けてっ!」


あれだけで起きるなんて思いもよらなかったのだが、起きた以上は助けてもらわねば。


「ぴわ?! ミント!?」


引き続きばすばすと布団を叩きながら助けを求めていたミントを発見したプリンは、


「ば、馬鹿馬鹿馬鹿っ! どこに寝ているんだ馬鹿犬?!」


枕でポトフをばすばすと叩きながらこう言った。


「ミントがはみ出ちゃうっ!」


はみ出る?


「……ってェな……。んだよ?」


文字通り叩き起こされたポトフは、


「だからミントがはみ出ちゃう!」


「は? って、おお?!」


自分がミントを潰していることに気が付いた。


「ミントはみ出てない大丈夫っ?!」


「ゴメン! 何もはみ出てねェよなミントォ!?」


「……なんとか……」


一体ミントから何がはみ出ると言うのか。


「はみ出るって、内臓がー?」


その疑問に答える疑問を繰り出したのは、朝ご飯を持ってきたココア。


「たく、朝っぱらから汚い会話しないでよねー?」


「む、馬鹿犬が重いのが悪いっ!」


「やっべェ俺ダイエットした方がいいのかな?!」


「……それよかまず寝相をなおそうよ?」


 という具合に、朝っぱらから騒がしい彼らの部屋にココアがお膳を並べていると、


「ははは、手伝うよマイシスタ♪」


自然に部屋に入ってきた人物が一人。


「ふわあ?! ど、どっから湧いて出たのよ馬鹿兄ー!?」


くりくりした桜色の髪がココアにそっくりな、青い瞳の彼はココアの兄、ショコラ。


「お兄様?!」


「おーっと手が滑ったー」


妹を手伝いに来た彼は、お吸物をうっかりポトフの顔にぶっかけてしまった。


「うあっつゥゥゥ?!」


「って、どこがうっかりなのよー!?」


だしの利いた美味しいお吸物の逆襲。

飲まれてたまるかと顔面にかかった熱々のそれに思わず叫んだポトフと、慌てておしぼりで拭いてあげるココア。


「美味しいねぇ」


「うむ。松茸の味だ」


すっかり蚊帳の外なミントとプリンは、しっかりお吸物をいただいている。


「な……?!」


そんな二人はほっといて、


「大丈夫ー?」


「あ、ありがとォココアちゃん」


ショコラは、熱々なお二人に衝撃を受けていた。


「な、なな……何故だココア?!」


「何故って、アンタがお吸物ぶっかけたからでしょー?」


ココアの的確な突っ込みを無視して、ショコラは語りだした。


≫≫≫


「ココア?」


「ん?」


 名前を呼ぶと、ちっちゃいココアはクレヨンを止めて振り向いた。


「なーに? おにいちゃん」


用件を尋ねてきた彼女に、


「ココアはお兄ちゃんと結婚するんだよなー?」


ショコラは、にっこりと笑って確認した。


「んーん。ココアはかっこよくてやさしくて、あたまもよくておかねもちのひととけっこんするの!」


≫≫≫


「昔はお兄ちゃんと結婚するって言ってたじゃないか?!」


「や、そんなこと一回も言ってないけどー?」


 自分で語っておいて総無視した彼に、妹の冷ややかな視線が突き刺さる。


「それなのに、よりによってそんなチャラそうな男、略してチそ男と!!」


「え、俺ってチそ男だったのかァ?!」


「その前にチそ男じゃなくてチャラ男って言うんだろうけどね」


「うむ。語呂が悪い」


ズビシッと指を差され、ショックを受けたポトフに、さらりと返すミントとプリン。


「しかも、見るからに女の子を複数つれ回してヘラヘラしてそうな野郎じゃないか!!」


「む。お見事大正解――」


「キラキラァ!!」


「ダークネスサクリファイスーっ!!」


言い掛けたプリンの口を慌ててストップさせるポトフとココア。


「とにかくっ! そんなココアを遊んで汚して傷付けて泣かせそうなヤツは、お兄ちゃんは絶対に認めないからな!!」


ぶっ飛ばされたプリンの肩をぽんと叩くミントをよそに、ショコラがそう言い放つと、


「そんなこと、夜中に家を抜け出して彼女のとこに遊びに行ってるようなヒトに言われたくないよー?」


と、ココアがさらりと言い返した。


「……」


「……」


「……」


「……」


「……」


「「……」」


四人の冷ややかな視線が、ショコラ一人に突き刺さった。


「……え? なんでそれを知っ――……」


「あらあら、家の門限は夜の十時まででしょう?」


ショコラの言葉を遮った人物は、いつの間にやら彼の後ろに立っていたココアママ。


「――て……」


「ちょっとこっちにいらっしゃい、しょーちゃん?」


四人の冷ややかな視線をその身に受けながら、母親に引きずられていくショコラであった。

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