第179回 彼宅日和
玄関のドアを開けると、そこには金髪美少女が立っていた。
「あれ? あなたは確か、チロルさん、ですか?」
ドアを開けたシルクハット紳士、フランが首を傾げると、
「ミントきゅんはいますか〜? みたいな!」
それを首だけで肯定したチロルは、遊びに来ちゃった♪ なノリで質問した。
「すみません。ミントさんはまだ帰ってきていないのです」
申し訳なさそうに告げたところ、残念そうな顔をした彼女を見て、
「あ、で、ですが、もうそろそろお帰りになると思いますので」
フランは素敵に笑ってご親切。
「外はもう寒いですし、家の中でお待ちになられますか?」
そんなわけで、春休み突入の日にブライト家にお邪魔したチロルは、
「はい、どうぞ」
「美人さんまろ……!」
『む〜!』
フランに紅茶を出され、マロとむぅちゃんに接近されていた。
「……」
ピエロな彼女を見て、ぱちぱちと瞬きをしたチロル。
「これ、取れるの?」
「まろ!?」
その手は、マロの鼻の先にある赤い球体をむぎゅっとつまんだ。
「まろ〜! と、取れないまろ〜! それはまろの鼻まろ〜!」
「はなまろ?」
「"はなまろ"じゃなくて"鼻"まろ〜!」
まろまろ言うマロはほっといて、
「……しっかし、ミントはどんな裏技使ったんだろうな?」
あんなイケメンな友達を差し置いて、と、自分の息子の彼女を見て、シャーンがしみじみと呟いた。
「そうねぇ……」
それにしみじみと同意したジャンヌは、そっとチロルの肩に手を置いた。
「!」
驚いて顔をはね上げた彼女に、
「おまいさん、なんかミントに弱みでも握られてるの?」
素で問い掛けるジャンヌ。
「お寿司さびぬきでしか食べられないとか」
「それ、そんなにバレたら不都合か?」
心配するジャンヌにさらりと突っ込むシャーン。
「もしかして、夜は明かりを付けとかないと眠れないまろか?」
「それはマロ様のことでしょう」
心配するマロに、さらりと突っ込むフラン。
「割り箸を割ると9:1くらいにかなり偏るとか」
「だから、それを隠す必要はあるのか?」
「お菓子の袋が上手くあけられないまろ?」
「それもマロ様のことでしょう」
「蝶々結びがどうしても縦になるとか」
「もはや弱みなのかそれは?」
「シュークリームのクリームがどうしてもびよって出ちゃって綺麗に食べられないまろ?」
「ですからそれもマロ様のことでしょう」
心配する女二人に突っ込む男二人。
どちらも決してふざけているわけではない彼らの言葉を、目をぱちくりさせながら聞いていたチロルは、
「あ、い、いえ。あたし、別にミントきゅんに弱みを握られているから一緒にいるわけでは……」
手を振りながら、よそゆきな口調でそう言った。
「「――?!」」
「……そんなに驚くことなんですか……?」
思い切りびっくらこいた四人を見て、むぅちゃんが頭に乗っているチロルは、頭に大粒の汗を浮かべた。
「弱みじゃないとしたら何を握られてるのかしらあの子?!」
「必ずしも握るって表現の必要性はないだろ」
「お米!?」
「寿司か」
「あれまろ! やっぱりみんとんが遊ばれてるまろ! 悪女まろ!」
「小声とはいえ本人の前でなんて失礼なことをおっしゃっているんですかマロ様?!」
「それで、飽きたらみんとんは捨てられるまろ! 期限がすぎたお守りのように!」
「わりと丁寧な捨てられ方です!?」
ヒソヒソと会議を始める四人。
『む〜』
あの、聞こえてますけど……と、大粒の汗を増やしていたチロルは、
「……まあ、そうですね」
頭に乗っていたむぅちゃんを膝の上に移動させてからうつむいた。
「「え?」」
疑問符を浮かべながらこちらに顔を向けた三人と、そらみたことか! と得意げな顔を向けた一人。
「男なんてみんな同じ……百回くらい痛い目にあえばいいと思ってました」
『む〜』
むぅちゃんを撫でながら、チロルは続ける。
「擦り剥いたところを完治する前にもう一度擦り剥くとか」
「「!?」」
「新品の包丁洗ってたら手が滑って指をスパっと切っちゃうとか」
「「?!」」
「勢い良く閉めた扉に自分の指をはさむとか」
「「!!?」」
彼女の発言を聞いて、想像上の痛みに身を縮める四人。
「人間のクセに本能に簡単に負ける暴力的で自己中心的な気持ちの悪い生き物。そんなやつらに、何度も怖い思いをさせられて……」
『む〜……』
震える手を、むぅちゃんの小さな手に撫でられながら、
「だから、今度はこっちが振り回して酷いめにあわせて捨ててやろうと思ってました」
ファンクラブの皆さんを指してそう言った。
「でも、ミントきゅんは違ったんですっ!」
後、チロルは顔を上げて、
「あたしのことを心の底から気遣って、綺麗で真っすぐな瞳を向けて、本当に親切に接してくれました」
真剣に聞いてくれている四人に訴えた。
「だから、……やり方は間違っているかもしれないけれど、どこにも行ってほしくなくて……。でも、あたし、ミントきゅんが好きなんです愛してるんですずっと一緒にいたいんです」
キリッと真剣な目を向けて。
「ミントきゅんを、あたしにください!!」
――脱線事故、発生。
「「持ってけ泥棒!!」」
更に、横転。
「――!! ホントですか?!」
「もちろんだ!!」
「そうね……つらかったのね……?」
「同じ男としても、許せることではありませんね……!」
「酷いこと言ってごめんまろ! まろ、ちーちゃんのこと応援するまろっ!!」
『む〜む〜!!』
などと、五人と一匹が騒いでいると、
「ただいま〜」
ミントが、帰ってきた。
「『!』」
と同時に、見事なアイコンタクト。
それを受けて立ち上がったチロルは、とびきりの笑顔で彼を迎えに行った。
「おかえりなさいミントきゅん! ご飯にするお風呂にするそれともアタ」
――が、
「チロル?! ごめん、折角来てくれたのにいなくて……オレ、ポトフの家に遊びに寄ってから帰ってきたから……」
素で、ぶち壊し。
「え、あ、気にしないで? アタイが勝手に来ただけだから……。それより、やっぱり、アタ」
「いや本当ごめんね? もう暗いから、家まで送ってくよ」
箒を呼び出しながら、再び遮断。
「え? えっと……」
「この時間に女の子がひとりで汽車は危ないでしょ? えっと、確かフラワンドに住んでるんだったよね? 街までの道なら分かるから大丈夫だよ」
親切に、らぶらぶ殺し。
「……う、うん、ありがとう……」
ミントの素に負けて、彼の箒の後ろに乗り、ご自宅へと帰っていくチロル。
「ち、ちーちゃん、応援してるまろ……」
『むむ〜』
そんな彼女を玄関先で見送りながら、気の毒そうに応援するブライト家の皆さんであった。