第177回 お話し日和
二月の終わりに雪が降り、
「まったく、こういう時はちゃんと自分で起きるんだから」
寒さ対策バッチリの格好で外へとやってきたミントは、雪を掻き集めながらため息をついた。
「あっはっはっ! なんてったって雪だからな!」
「うむ、雪だからな」
「意味分かんないよ」
その隣で同じく雪を掻き集めているポトフとプリンに突っ込みを入れてから、
「もう、普段からちゃんと一人で起きられるようになりなよ」
ミントは、雪の塊に葉っぱを挿しながらこう言った。
「来年で卒業なんだよ?」
雪ウサギ、完成。
「「――」」
彼の言葉に、手を止めて目を見開いた友人二人。
「卒……」
「……業」
後、ポトフとプリンは協力して単語を紡ぎ、
じわり
と涙を浮かべだした。
「って、な、何涙を浮かべだしてんのさ?!」
それを見て慌てだしたミントに、
「だっ……だって、卒業したら」
「もォ、ミントに会えなくなるんだろォ……?」
二人は手に載せた雪ウサギを雪の地面に置きながらそう言った。
「な、何言ってんのさ? ほら、オレ二人の家の場所知ってるし、会おうと思えばいつでも会え……」
言いながら、新たに作った雪ウサギをそっと置いたミントは、
「……もう、オレまで泣けてきたじゃんかバカぁ」
二人につられて泣き出した。
そうして三人仲良く泣いていると、
「ホントに雪が好きだねー……って、何事ー?!」
そこへ、ココアがやってきた。
「ちょ、何ごっそり雪ウサギ作ってんのって言うか何泣いてるのー!?」
彼女の驚きポイントは、野郎三人が輪になって雪ウサギを大量生産しながら泣いていたところ。
「な……なんとなく……」
「……っ、そつ」
「ぎょ……」
「……卒業? 一年前から泣いてどーするのー?」
三人から単語を聞き取ったココアは、呆れたように腰に手を当てた。
雪ウサギを量産したのは、なんとなくらしい。
「ほら泣かないのー。って言うか」
彼女は三人にポケットティッシュを投げ付けた後、
「卒業なんて、これが初めてなわけじゃないでしょー?」
と、イエスを求める疑問文を口にした。
「そう……だけど」
「「……」」
「え、なんでこの質問の答えが統一されないのー?」
結果、イエスは一人。
「てかちょっと待って今プリンとポトフ首横に振らなかったー?!」
三歳から五歳までが幼稚園で六歳から九歳までが初等部で十歳から十三歳までが中等部で今でしょー!? と、計三回は経験している筈のことに対して首を横に振った彼らに驚くココア。
「む……僕は、途中でやめた」
理由、詰まらないから。
「さ、さいですか……」
すげー理由、と思いながらも、状況から考えてそうとしか言えないココア。
「俺は、……なんてェか、"預ける"って言葉に過剰反応してたみたいで」
理由、お家から離れたくないの。
「あー、なるほどねー……?」
すげー理由、と思いながらも、状況から考えて、やっぱりそうとしか言えないココア。
「うーん……あ、でも、ミントは卒業したんだよねー?」
ちっちゃい頃から退屈しのぎに本読みすぎなプリンとちっちゃい頃のトラウマを抱えていたポトフはひとまず置いといて、
「うん……でも、オレあんまり出席してなかったからさ」
「あー、そっかー……」
ミントに問うてみたものの、ココアはやっぱりそう答えるしかなかった。
「じゃ、じゃー、学校行かないで何してたのー?」
ニートな三人にココアが苦笑いを浮かべながら聞いてみると、
「俺は……手伝いと勉強ォ?」
「ふむ、主に読書だな」
「オレも、花屋の手伝いと勉強かなぁ」
わりと真面目だった三人。
「あれ? ミントって親嫌いじゃなかったっけー?」
その答えを聞いて、ココアは雪を掻き集めながら再び質問した。
「や、別に嫌いなわけではないけどさ」
それに、小さな赤い実を取りながらミントは再び答えた。
「なんて言うか、世話が焼ける?」
「それ、親に対して抱く感情じゃないよねー?」
そんな、それぞれの懐かしい話を聞かせ合いながら、四人はひたすら無意味に雪ウサギを作り続けるのであった。
と、微妙に最終回をにおわせてみる回でしたー。