第174回 主席日和
王都市という呼び名の通り、街の中心に国王の住む大きなお城がある街、シャイア。
その白く美しい城に、随分と裾の長い上着を着た赤髪の男性がやってきた。
「「おはようございます、兵士長」」
彼、兵士長のシャーンに、門番が頭を下げて挨拶をすると、
「おっはよう!」
彼は、にっこりと笑って爽やかに挨拶した。
「「……?」」
そんな彼に、顔を見合わせて疑問符を浮かべる門番。
だって、いつもなら顔も変えずに"おー"とか"んー"とか、適当な返事しかしないのに。
「今日はいい天気だな!」
「は、はぁ」
「そ、そうですね?」
なんか余計なことまで言っている。
(へ、兵士長がご機嫌だ!)
(ああ、なんか知らんがいつもは仏頂面かアンニュイフェイスな兵士長が今日は珍しくご機嫌だ!)
これは何かいいことがあったのだろうと考えた門番二人は、
「兵士長、ご機嫌ですねっ!」
「何かいいことがあったんですかっ?」
彼をここまでご機嫌にした出来事を、興味本位で聞いてみた。
「おお、よくぞ聞いてくれた!」
どうやら聞いてほしかったらしい。
シャーンは右手をぐっと握り締め、喜色満面でこう言った。
「昨日息子に初めて"父さん"って言われたんだ!」
きらきらきら
「……」
「……」
「「……」」
数秒間の停止。
「――そっ、それはそれはっ!」
「よかったですね兵士長っ!」
後、慌てて反応。
「おう!」
それに気をよくした彼は、
「今日も頑張れよ、ワトソンとクリック!」
何やらDNAの二重螺旋構造を解明した学者みたいな組み合わせの名前だった門番二人の肩を叩き、城の中へと入っていった。
「……」
「……」
ご機嫌兵士長を見送った二人は、
「……へ、兵士長の息子さんって確か」
「もうすぐ十八、だったよな……?」
彼の一人息子にしてよく国王のルゥの相手をさせられている、ミントの年齢を確認した。
「「……へ、兵士長……っ!!」」
十八になる息子に父さんと呼ばれ、まるで初めて言葉を口にした赤ちゃんの父親のような気持ちになっている兵士長に、二人の門番は口を押さえて哀れみの涙を流した。
ご機嫌麗しい彼を見て、城で働く皆が門番のようにヒソヒソと会話している中で、
「失礼いたしま〜す!」
シャーンは、いつものように呼び出されていた王室にやってきた。
「! シャーン! 助けて!!」
すると当然そこにいた国王が、彼を見るなり彼に助けを求めて駆け寄った。
「?」
自分の後ろにさっと隠れた国王の行動に、シャーンが疑問符を浮かべると、
「シャーン」
国王の側近、フィーナが、にっこりと笑って彼の名を呼んだ。
「フィーナ? なんだ、またコイツ変なことしたのか?」
笑っているが、怒っている。
そんなことは百も承知なシャーンが聞き返すと、
「ええ、またニンジンを残していたのです」
フィーナは、やれやれと首を横に振った。
「だ、だってヤツら中途半端に甘いじゃねえか!!」
と、シャーンの背中から必死に言い訳するルゥ。
「ニンジンに失礼です。ですから罰として今日は牛乳二本です」
フィーナ、罰則。
「だからなんで牛乳が出てくるんだよ?! なぁシャーン!!」
ルゥ、必死。
「こらこら。ちゃんと食べなきゃ駄目だろ?」
シャーン、ご機嫌。
「な……?! お、オレを裏切るのかシャーン!?」
「その通りです。シャーン、ルクレツィア様をしっかり捕まえておいてくださいね」
「はーい♪」
「なんか今日キャラ違うぞお前えええええええ?!」
――こんないろいろと残念なトップたちに支えられ、この国は今日も平和なのであった。




