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学校日和2  作者: めろん
173/235

第173回 家族日和

 揺れる蒸気機関車の車内で、ポトフはゆっくりと目を開けた。


「……?」


えらく懐かしい夢を見ていた彼は、どうやら横になっているようだ。

よって起き上がろうと目線を下に向けると、


「……。膝?」


彼は、膝を発見した。

もちろんそれは、自分のものではなく。


「――!」


まさか、と思って振り向くと、


「「!」」


膝の持ち主、ココアとばっちり目が合った。


「……」


「……」


「「……」」


間。


「いっ、いやあああ!!」


スパアアアアアアアン!!


自分でやっといて悲鳴をあげられても。


ガラガラガラバシーンッ!


ココアは寝起きポトフをぶっ叩いて、そのままコンパートメントから飛び出していった。


ガラガラ


「だいじょぶ、ポトフ?」


「ぷわ、ねむねむ……」


それと入れ替わるようにして現れるミントとプリン。

どうやら彼らは、コーラとプリンを買ってきて部屋に戻ろうとした際、あの現場を見てしまい、部屋の前で足止めを食らっていたようだ。


「ミント! 俺! ココアちゃんに膝枕してもらった!!」


「わっは〜、派手にぶたれたねポトフ〜」


ガバッと起き上がってキラッキラの瞳を向けてきた右頬腫れまくりな彼に、ミントはかわいそうな瞳を向けた。


「やっべェ俺生きててよかったァ!!」


「貴様死にそうだぞ」


口から出た血を拭いながら命のありがたみを膝枕で実感するポトフを、素で心配するプリン。


「でもさ」


きゃっほう! という言葉が似合いそうなほど喜んでいる彼に、


「今ので思い切りキミがファザコンなとこ知られたよね」


ミントがさらりとそう言った。


「な――?!」


「うむ。お兄さんお兄さん言ってたぞ」


衝撃を受けた彼に、プリンがとどめを刺した。


「……!?」


え、何それめちゃくちゃカッコ悪ィじゃん、と、ポトフははしゃぐことをやめた瞬間、


「……、……消えてなくなりたい」


シートの上で体操座りして絶望し始めた。


「む? お望みとあらば。テレポ」


「前から気になってたんだけどさ」


 そんな彼にプリンが向けた右手を、やめなさいと下ろさせたミントが、


「どうして"お兄さん"なの?」


ソラのことをお兄さんと呼ぶ理由を尋ねた。


「へ?」


その問いに、ポトフは顔を上げ、


「おにィさんが、おにィさんだからだぜェ?」


至極当然のようにそう答えた。


「いやいや、まあ確かにお兄さんはお兄さんなんだろうけど。じゃあさ」


その答えに首を横に振った後、ミントはプリンを指差した。


「プリンはキミにとっての何さ?」


「む?」


「……。おにィちゃん?」


「ぴわ?!」


二人の会話に利用され、プリンが地味にリアクションしているのをよそに、


「プリンとソラさんは、同じなの?」


ミントは至って真剣な眼でそう質問した。


「そりゃァ、お兄さんはお兄さんでもお兄さん違いだろォ?」


だから、ポトフは疑問符を浮かべながらも素でややこしい回答をする。


「だからさ」


なんと言えばいいのかと、ミントはう〜んと考えた後で、


「ソラさんは、キミの親じゃないの?」


と、尋ねた。


「え――……」


不意打ちを受けたように停止した彼に、


「それなら"お兄さん"じゃなくて"お父さん"でしょう?」


ミントは、つらつらと続けて言い聞かせた。


「それに敬語もだよ。……まあ、使う家族はいるかもしれないけどさ。オレ、前から不自然だなって思ってたんだ。プリンの家でも使わないでしょう?」


「うむ。敬語は、尊敬に値する相手に使うものだ」


「え、何堂々と問題発言しっちゃってるの?」


「だから僕は敬語は使わない主義だ」


「いや何胸を張ってるのさ? まあ確かに先生とかルゥ様にも普通に喋ってたけどそれはそれで問題あるんじゃ……?」


「父からそう教えられたんだ。したてに出ると、付け上がられるからな」


「あ〜、あの人ね〜」


敬語についてミントとプリンが話している隣で、ミントの言葉を考えていたポトフは、


「変じゃ、ねェかな?」


なんだか照れ臭そうに質問した。


「! うん、きっと喜んでくれるよ?」


そんな彼に、ミントはにこっと笑ってそう言った。










 汽車を降りて大通りを抜け、赤い屋根のお家までやってきたミント。


「あ、手紙来てるじゃん」


玄関脇にある郵便受けの手紙を取り出すと、彼は家のなかへ入った。


「ただいま」


「あ、おかえりなさいませミントさん」


「おかえりまろ〜!」


『むむむむ〜!』


「目からビームが出したいわ!」


「おお、遅かったな?」


ただいまと言うと、返ってくるのはやかましい答え。


「プリンの家に遊びに寄ってから帰ってきたから」


長期休暇の為に重い荷物を抱えていたミントは、それをどさっと降ろすと、


「まろ?! なんでまろも誘ってくれなかったまろっ!?」


「それより手紙来てたよ」


プリンと聞いて喚き始めたマロはほっといて、ミントは手紙を差し出した。


「母さん」


と、言って。

それは、家族の何気ない会話。


ズザザザザアッッッッ!!


――の、筈なのに。


「……?」


にぎやかにテーブルを囲んで夕食を食べていたシャーンとジャンヌとフランとマロとむぅちゃんが、一斉にミントから勢いよく後退りして、それぞれの壁に激突した。


「何してんのさ?」


その行動に、ミントが小首を傾げると、


「……っみ」


「みみ、みんとんが……」


『む、む〜』


「じゃ、ジャンヌを」


「か、"母さん"……?!」


それから、協力して一文を作り、


「じゃっ、じゃあ……俺は?」


「……? 父さん?」


沈黙。


「「ええええええ!?」」


後、大パニック。


「――え?」


自分がいかに説得力のないことをポトフに言っていたのか、身をもって思い知らされたミントであった。

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