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学校日和2  作者: めろん
172/235

第172回 家出日和

「こんなところで何をしてるの?」


 冷たい雨が降りしきる冬の日の夜。

町外れのゴミ捨て場で、エリアと少年は出会った。


「……! 酷い怪我……っ!」


暗くて近づくまで分からなかったが、酷くやつれた少年の顔や体には、無数の痛々しい痣や傷ができている。


「一体何があったの?!」


と、傘を取り落としたエリアが少年の肩に手を置こうとしたところ、


「――っ!」


虚ろな瞳を彼女に向けたまま何も言葉を発しなかった少年が、突然ビクッと身を退いた。


「え?」


彼はエリアから身を守るように自分自身を抱き締めると、


「ごめ……なさい、ごめんなさい……っ」


か細い声で、必死に謝り始めた。

――虐待。


「お、驚かせてごめんなさい。大丈夫よ。私はあなたをぶったりしないわ」


そんな言葉がすぐに浮かんだエリアは、彼をそっと抱き締めて、


「メディケーション」


回復魔法の高等術で、彼の体の傷を癒した。


「……!」


温かな光とエリアに包まれて、全身の痛みが引いた少年は、


「……ゥ……」


何かの糸が切れたように眠りだした。


「……ふふ、こんなところで寝ちゃったら」


そんな彼に、エリアは取り落とした傘を拾い上げ、


「風邪引いちゃうよ?」


優しく笑いかけながら、温かな家へと彼を連れて帰っていった。


≫≫≫


「あ!」


 それからしばらくの時が流れ、


「おにィさん、これ!」


「ん? あ。あの飴だね」


最初は警戒していたものの、今やすっかりエリアとソラになついた少年は、ある日、ソラと一緒に初めてのお買物に出かけていた。

お店のなかで少年が見つけたものは、彼がソラからよく貰っていた棒付きの飴。


「それ、欲しい?」


「うん!」


「じゃあ、買ってあげるね」


元気に頷いた彼に、ソラがにこっと笑ってそういうと、


「? かう?」


少年は、疑問符を浮かべて小首を傾げた。


「そこに数字が書いてあるでしょう?」


その反応を見て、ソラは飴が並ぶ棚を指差した。


「うん」


少年は、こくんと頷く。


「それは値段っていって、そこに書いてあるお金を払うとそれが貰えるんだよ」


それにソラが説明を付け加えると、


「おかね……。おにィさんが、おきゃくさんからもらってるやつ?」


彼は、辺りに溢れた値札を見回した後で、そう聞き返した。


「そう。エリアも病院から貰ってるやつだよ」


そう言って、ソラは彼にお金を手渡した。


「?」


「あそこにいるお姉さんにこれを渡すと、この飴と交換してくれるんだよ」


少年、初めてのお使い。


「えっと、あの、これください」


「あら、もうお買物ができるなんてすごいわねぇ。はい、どうぞ」


レジのお姉さんに褒められて、彼のお使いは無事成功した。










 夜にふと目が覚めると、廊下の向こうから声が聞こえてきた。


「……?」


そっとドアを開けて階段を降りると、玄関でソラとエリアが何か話していた。


「おねェさん、今からおしごとなんだ」


バタバタと慌てているところから、病院から緊急で呼び出されたことを察した少年は、


「……おしごと……」


眠そうな目を擦りながら呟いた。

エリアは大きな病院のお医者さん。

どんな病気も怪我も、魔法を使って治してくれる。

だから、自分のぼろぼろな体を治してくれた。


「……?」


ソラは町の美容師さん。

みんなをかっこよく可愛くしてくれる。

だから、自分のぼさぼさだった髪を綺麗に切ってくれた。


「――っ!」


何かに気付いた少年は、フラント家から飛び出した。










 リビングの窓から外に出た少年は、暗い森のなかを走っていた。

森に囲まれた町に住んでいるがゆえに、町の中心部以外の家からは、すぐに森に行き着くことができる。


「……は……は……」


パジャマ姿のまま走る彼に、冷たい風が吹き付ける。


「っわァ?!」


それでも必死で走っていた彼は、何かに足を取られて勢い良く転倒した。


「……?」


痛さを我慢しながらも、彼が自分の足に目を向けると、


『グルルルルルルル……』


低い唸り声をあげている大きな虎のような生物の、長い尻尾が巻き付いていた。


「?!」


月に照らされて浮かび上がったその姿に、少年は目を見開いた。

家の外へは、お姉さんの病院と、お兄さんとよく行く公園くらいしか行ったことのない彼。

初めて見るその巨大な生物は、魔物。


「い……いや、こないでっ!」


体は小さいが肉は肉。

よだれを垂らしながら近づいてくるその魔物から、足を取られている少年は逃げようにも逃げられない。


『ガオオオオオオオ!!』


「うわァァァァァァ!!」


鋭い爪と牙を剥いて襲い掛かってきた魔物に、少年は目をきつく瞑った。


「バーンバニッシュ!!」


 ――直後、突如として天空に現れた炎のつるぎが、魔物の体を貫いた。


ドカアアアアアアアン!!


そして爆発。

それに巻き込まれないように透かさず少年を抱えて前に跳んだ彼は、


「……! おにィ、さん……っ?」


間違いなく、彼の大好きなお兄さん。

 火も収まり、魔物を倒したことを確認すると、ソラは少年に目を向けた。


「こら」


抱えていた彼を地に降ろすと、ソラは喝を入れた。


「ちゃんとあったかくしなきゃ、風邪引いちゃうでしょ?」


そして、持ってきたコートを彼に着せた。

――何かが、ズレている。


「おにィさ……どうしてここに?」


 マフラーと手袋までしっかり装着してもらった少年は、彼が自分の居場所が分かって理由を尋ねた。


「どうしてって、キミの魔力を追って」


この世界では、どうやら家出ができないらしい。


「こんな夜遅くにどうしたの?」


 最後に毛糸の帽子を被せたソラは、夜に家から外に出た少年に質問した。


「……。……いえで、しようとしたの」


すると少年は、うつむいたままそう答えた。


「え……? ど、どうして家出しようとしたの?」


彼の予想外の答えに戸惑うソラ。

彼は、いろいろと鈍いらしい。


「……」


答えない少年。


「……。……僕のこと、嫌いになっちゃった?」


そんな彼に、ソラが残念そうに尋ねると、


「ち、ちがうよっ!」


少年は慌てて首を横に振ってそれを否定した。


「俺、おにィさんのこともおねェさんのことも、だいすきだよっ」


「じゃあ、どうして?」


 家出なんて、とソラがもう一度尋ねると、


「……」


「……」


しばらくの間を置いてから、少年は口を開いた。


「だいすき……だから」


彼は再び下を向き、小さな手をぐっと握り締めた。


「……?」


その矛盾した答えに、ソラは疑問符を浮かべながらも黙って耳を傾ける。


「ずっと、いっしょにいたいから」


自分の子どものように温かく接してくれたソラとエリア。


「……でも……」


いろいろ教えてくれて、いっぱい遊んでくれる二人のことが、彼は大好き。


「俺、おかねもってないんだ」


でも。


「だから、おねェさんになおしてもらったおかねも、おにィさんにきってもらったおかねも、ごはんのおかねも、ぜんぶ、はらえないから」


――金にならないガキはいらない。

他の記憶は飛んでいるが、確かにそう言われて捨てられたから。


「そんな、何言って――」


「それに」


 口を挟まなくてはいられなかくなったソラの言葉を遮って、


「おにィさんとおねェさんは、けっこんしてるでしょう?」


少年は、震える声でそう続けた。


「けっこんすると、あかちゃんがうまれるんでしょう?」


茶色の瞳いっぱいに涙を溜めて、


「そしたら俺、いらなくなっちゃうでしょう……?」


それでも止まらないそれは、彼の頬を伝って地面に落ちた。


「……俺、もう、すてられたくなくて……っ!」


それを引金に、少年はぼろぼろと泣き始めた。


「おにィさんとおねェさんに、っすてられるのが……こわくて……!!」


そんな少年を、ソラは強く抱き締めた。


「――!」


「バカだな」


驚いた彼に、ソラは優しく語り掛けた。


「僕やエリアが、キミのことを捨てると思う?」


冬の澄み切った空気の中、


「そんな半端な気持ちで、エリアがキミを拾ってきたと思う?」


満点の星空の下で、ソラは白い息をはきながら、こう言った。


「僕たちは、キミを本当の子どもだと思ってるんだよ?」


「――え?」


本当の、子ども。


「だから、キミの怪我を治してあげるのも髪を切るのもごはんを食べさせてあげるのも、全部当たり前のことでしょう?」


その言葉に、少年は思考が停止した。


「……まあ、眠っているところを持ち帰ってきたわけだから、ちょっと誘拐じみてる気がしないでもないけどね。あ、そうだ。ちなみにね、エリアは赤ちゃんが出来ない体なんだって。ああっ、でもだからキミを拾ってきたわけでも捨てないわけでもないからね? うん。それになんて言うかホラ、キミが嫌じゃなかったらうちの子どもにしたいなって思って」


どうやらシリアス向きではないらしいソラがごだごだと何か言っていると、


「ごめん……なさい」


小さな手で彼の服をぎゅっと握った少年が、小さな声で謝った。


「!」


それに、ながったらしい言葉を止めてふわりと微笑んだソラは、


「帰ろっか」


彼をだっこして立ち上がり、くるりと方向転換した。


『グルルルル……』


「「え」」


 ――ところ、先程よりもでかい虎の魔物が、森の木々を踏み倒してこちらを睨んでいた。


『グルルルル……』


『ガオオオオオオ……』


『グオオオ……』


しかも、群れで。


「う、う〜ん……」


倒せる、だろうけど、お子さまの目の前で流血沙汰は控えたい。

てなわけで、


「ちょっと目を瞑っててくれる?」


「? うん」


目隠し大作戦。

少年を降ろして目を瞑らせたソラは、


「よし。じゃあいくよ」


虎さんたちに、にっこりと笑いかけながら右手を向けた。


「バーンバニッシュ!!」


ちゅどおおおおおおん!!


流血も目隠しもあったもんじゃない現状。

魔物を焼き尽くしてもなお燃え盛る青い炎に、少年はまた違った種類の恐怖を身に覚えたそうな。

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