第170回 口論日和
――今年はいいクリスマスにしよう。
そんな友人と交わした素敵な約束は、どうやら果たせそうになかった。
「……」
医務室のベッドに横になって、ミントは白い天井をただ無言で見つめていた。
今、彼は、解熱剤やら解毒剤やら制酸剤やら下剤やら止瀉剤やら睡眠薬やら消毒薬やら被服薬やらの、様々な薬草の作用と副作用がごっちゃになって、どうしようもないくらい具合が悪かった。
明らかに服用するものではない薬草も混ざっているのは、彼の友人によって薬草園の薬草を片っ端から飲まされたから。
「ぴわわ……ミント、本当にごめんっ」
顔色がやばいミントに、ベッドの横に立つプリンが申し訳なさそうに謝る。
(本当にね)
が、口が利けないくらい具合が悪いミント。
「"かまいたち"、痛かったっ?」
(そっちかい。いや、確かにそっちもそうだけどさ)
虚ろな瞳の彼をあわあわと心配するプリンに、ミントは頭の中だけで突っ込む。
ちなみに、彼にはめんどくさい薬が作用していたときの記憶もばっちり残っている。
(プリンが最初にオレのおでこに載せたヤツが正解だったんだけどなぁ……)
ゆえに、あの時動けなかった自分が悔しい。
(おでこじゃないんだよ。それこそ無理矢理飲ませて欲しかったんだよ)
服用する薬をおでこに置いた彼にクエスチョン。
更に服用すべきではない薬を大量に飲ませた彼らにエクスクラメーションマークをプラス。
「痛いの痛いの飛んでいけっ!」
(それよりも)
必死に痛いの痛いの飛んでいけをやっているプリンをよそに、
(何故にオレを医務室に連れてきたのさ?)
と、ミントは疑問を抱いていた。
具合が悪い生徒を医務室に連れていくことは、なんらおかしいことはない、
「あーもーっ!」
筈、なのだが。
「アンタちょー邪魔! 早くどっか行きなさいよ〜みたいなっ!!」
医務室の住人、チロル=チョコ。
「む、だってミントは僕のせいで具合が悪くなったんだぞっ?」
ミントの付き添い、プリン=アラモード。
「だからなんでココアとポトフみたいに気を利かせないのよアンタう〜っとおしいみたいな〜!!」
「そっちこそ静かにしたらどうだ、ここは医務室だぞっ?」
ミントを挟んでの、口喧嘩が始まった。
(だから、なんでオレを医務室に連れてきたのさ?)
うるさい、とか思いながらも、ミントはただひたすらに天井を眺めている。
別にめんどくさい薬が作用しているわけではなく、止めに入るまでの元気がないからである。
「アンタがいるから何も出来ないって感じぃ!」
(病人に何する気だよ)
「む、何かできるならどうして何もしないっ?」
(違う違う違う違うんだよプリン)
ケダモノチロルとピュアプリンの口論に、頭の中では忙しいツッコミミント。
「だからアンタがいるからだって言ってるでしょみたいな?!」
「だからどうして僕がいると出来ないんだっ?」
「この変態っ!!」
「??」
(噛み合ってない、噛み合ってないよお二人さん)
医務室でやかましく口喧嘩するも、ベル先生は楽しそうにニコニコしながら眺めている。
「み、ミントに何をする気だっ!」
(おお、その調子だよプリン)
「はぁ?! 今日はクリスマスよそれくらい察しなさいよみたいな!!」
(だから何を察しろと)
「?? 僕の誕生日?」
(いやいやいやいや)
元気な娘とにぶにぶプリンと、彼らに挟まれて困り果てているミントを。
「アンタの誕生日なんて知らないわよ!!」
「だから今日だ」
「知らないわよ!!」
噛み合わなさすぎな彼らは、なおも続ける。
「あーもーっ、アンタがいると襲えないって言ってるの〜みたいな!!」
(っていや何言っちゃってんですかチロルさん?!)
「?! ミントになんの恨みがある!?」
(いいぞプリン! なんか違うけどいいぞその調子っ!)
「恨みなんかないわよ!! あるのは愛だけっ、みたいなV」
(いやいやいやよくそんな恥ずかしいことを人前で)
やかましさと恥ずかしさで耳を塞ぎたいミントをよそに、チロルはこう続けた。
「それに、アンタだってムースを襲ったことあるでしょ?!」
(い、いや、だから何言っちゃってんですかチロルさん!?)
「? どうして知っているんだ?」
(プリンさん?!)
まさかの急展開。
ミントとベル先生は彼の言葉にびっくり仰天。
「ほらみなさいよ!」
(え、えええぇええ……?)
「む、でもあれはムースが悪い」
(ちょ、何言ってるのさプリン……?)
そんなことに気付くことなく、プリンはズバっと言葉を続けた。
「夜中に僕の部屋に忍び込んだから不審者だと思ったんだっ!」
(何してんのさムースさんっ?!)
やっぱり噛み合ってない口喧嘩。
突っ込みを入れる対象がころころ変わるミント。
そんなこんなで、今年のクリスマスも騒がしく過ぎていったのであった。