第169回 解毒日和
今回の課題は楽勝。
なんたって自分たちには、植物に詳しいミントがついているのだ。
――そんなことを思っていた矢先に、そのミントが倒れてさあ大変。
「……めんどくさい」
としか、何を言っても口にしないミント。
今の彼は、ツッコミさえも完全に放棄していた。
「むう……」
「うーん……」
「えェとォ……」
いくら頭がいいと言っても専門外の知識はほとんどない。
授業で習った簡単な薬草以外はさっぱりな三人は、更に未知の魔法薬、めんどくさい薬にも頭を抱えていた。
「……あ! 何も薬草で解毒しなくても、めんどくさいとか言ってられねェ状況にすればいいんじゃねェか?」
停滞した状況からまず初めに一歩踏み出したのは、ポトフ。
「む。なるほど」
「そーだねー。でも、血反吐はいてまで入れてたツッコミも入れなくなっちゃったんだよー?」
彼の提案に、プリンとココアが顔を上げると、
「そりゃァ、ここはココアちゃんがチロルちゃんに変身して♪」
ポトフの、チロルちゃん大作戦。
「えぇ!? 私がチロルのマネをするのー?!」
「だって」
自分はあんなキャラじゃないと拒否反応を示したココアに、
「――俺だったら、大好きな人に呼ばれたらいつだって喜んで会いに行くぜ?」
ポトフの、第二のキラキラ攻撃が炸裂した。
「え……そ、それじゃー変身するよっ?」
「……」
効果覿面な彼女に、プリンの呆れたような視線が突き刺さる。
きっとココアがポトフなら彼は言っただろう。
馬鹿か貴様は。
ぽわんっ
それに気付くことなく、ココアはローブから杖を取り出してチロルに変身した。
「え、えと」
変身魔法が得意なココア。
姿形だけでなく声までもそっくりそのままチロルになりきった彼女は、コホンと咳払いをしてから腹を括った。
「み、ミントきゅんっV」
後、後悔を伴う赤面。
しかし、これでミントは喜んで飛び起きる、
「めんどくさい」
筈、だったのに。
「……」
「……」
「……」
ぽわんっ
無言で変身魔法を解いたココアは、こう一言。
「倦怠期じゃなかろうか……?!」
彼女の呼び掛けを即答で一蹴したミントに対してのいらぬ心配。
と言うか、ミントが馬鹿犬と同じ反応をするわけないだろう、とか思うプリン。
「ぽ、ポトフー、ミント倦怠期だよー?」
倦怠期確定。
ココアが作戦失敗を報告すると、
「ココアちゃん」
ポトフは、にこっと笑ってこう言った。
「俺のことも呼んでみてっ?」
チロルちゃん風に。
「チロルじゃ効果なかったねー?」
「うむ、そうだな」
スパコーンとぶっ飛ばされたポトフを無視して、プリンとココアは再び解決法を考え始めた。
「んー、私たちが知ってる解毒効果の薬草は、体のビリビリとお腹のゴロゴロを和らげるやつくらいだよねー?」
「うむ。あとは薬草の一般的な効果と育て方と見分け方くらいだ」
薬草学のくせに、種類はあまり教えないらしい。
「ここにあるヤツは教科書でも見たことないヤツばっかりだしー」
不思議な色と形をした様々な薬草を見回しながら、
「……よし」
ココアは、何かを決心した。
「プリン、あっちの薬草全部とってきて」
「む?」
「私はこっちの全部とってくるから」
下手な鉄砲数打ちゃあたる大作戦。
「……。分かった」
了解しちゃった。
「よーし、片っ端から試すよー!」
こうして、抵抗しないことをいいことに、ミントは薬草園の薬草を片っ端から無理矢理飲まされた。
「……めん、ど……くさい……」
結果、
「顔色が悪くなったな」
「そーだねー」
大失敗。
「って、更に症状が悪化しちゃったぜェ?!」
悠長にぶっ飛ばされているうちに、とんでもないことになっていたことに驚くポトフ。
「……むう」
だって、とほっぺを膨らませたココアにやんわりと注意しているポトフ。
その隣で、プリンは顎に当てていた手を離し、
「致し方ないな」
一旦閉じた瞳を開けて、覚悟を決めた。
「? どうするのー?」
と、尋ねるココアに、
「馬鹿犬の案と同じだ」
プリンはさらりとそう返した。
「えぇ?! だってミント倦怠期だよー!?」
一緒の考えだったことに万更でもなさそうな顔になったポトフの隣で、ココアが再び倦怠期予想を口にした。
正味な話、もうあんな恥ずかしいマネはしたくない。
「違う。僕は馬鹿犬の考えに同意したんだ」
それをスッパリ否定したプリンは、
「"めんどくさいとか言ってられない状況にすればいい"」
右手を口元にかざし、風もないのにローブをはためかせ始めた。
((きょ、強行突破……!))
――こうして、ミントは無事、でもなく、結構なひどい目にあって、結果的には解毒されたのであった。
一先ずはテスト終わりましたー!
お待ちしてくださった方、お待たせいたしました!
そして、お待ちしてくださりありがとうございました!
これからはまた、お話が思い付きしだい更新させていきますね!←