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学校日和2  作者: めろん
166/235

第166回 笑顔日和

 今年一年の最後の月とともにやってくるのは、闇と光で彩られた聖なるイベント。


「でェ、ここを微分して」


と、定期テスト。


「っにゃあああああ!!」


軽快なクリスマスソングが流れる食堂で、ミントは頭を抱えて盛大に叫んだ。


「なーにーがー楽しいクリスマスやねん?! オレ毎年イヴからクリスマス当日にかけて何やらもてはやされるけど全然嬉しくないっちゅーねん!! しかもクリスマス過ぎると"いつまでやってんの?"的な目でみられるし!! いやこれクリスマスで羽目外しちゃった結果生まれた残念な産物じゃなくて自毛だっつーの!!」


と、ミントがキシャーっと叫んだところ、


「クリスマスをけなしても数学のテストはなくならねェぞミントォ?」


彼に数学を教えていたポトフにさらりと突っ込みを入れられた。


「だってさだってさ? だいたいクリスマスなんて外国のイベントじゃん? それに何調子こいて便乗しちゃってんの? って感じじゃない? つかむしろクリスマスって何なのさ? 外国の神様のお誕生日会して何が楽しいのさ?」


「はい、部分積分法を言ってみよォ」


「ポトフヒドイ!!」


「読みにくい」


などと、ミントとポトフの立場がいつもと逆転している様子を、


「毎回恒例だねー」


「うむ。そうだな」


ココアとプリンはココアとプリンをいただきながら眺めていた。


「……。クリスマスは、外国の神様のお誕生日会だったのか?」


 カスタードプリンをスプーンですくいながら、プリンが初めて知ったように呟くと、


「まー、私も詳しくは知らないんだけどー。世間一般的にはこの世界の創造主が誕生した日ーとか言われてるねー」


ココアの入ったマグカップで両手を温めながらココアが説明した。


「ふむ。では、ジェラート社がケーキの売り上げを上げる為に始めたというのは冗談だったのか」


「うん。あんま夢をぶち壊すような発言は慎もうねー?」


するとプリンが素で裏情報をちらつかせたので、ココアは爽やかに注意した。


(つか、バレンタインもそうじゃなかったっけー?)


注意すると同時に、ジェラート社の陰謀に思わず顔が引きつるココア。


「ケーキを高値で売る為ではないとすると、クリスマスは具体的に何をする日なんだ?」


そんな彼女に、プリンは純粋な疑問を発信した。


「……。クリスマスってのは、……まー、お祝いだからご馳走やケーキを食べたりプレゼントを渡したり貰ったりして楽しむ日かなー?」


図らずも利潤上等なプリンの問いに、ココアは苦笑いを浮かべてそう答えた。


「あ、それとホラ、サンタさんがプレゼントをくれる日とか、そんなイメージだよねー?」


 後、夢のある発言を敢えてした。


「……? サンタさん?」


が、しかし、プリンは疑問符を浮かべながら小首を傾げた。


「え? サンタさんを知らないのー?」


「うむ。どちら様だ?」


サンタさんを知らないことに、ココアは意外だと驚いた。


(あのプリンパパなら張り切ってプレゼントすると思ったのにー)


あの、プリン大好きなプリンパパだけに。


「えと、クリスマスの朝起きたら枕元にプレゼントが置いてあったーなんてことは一度もなかったのー?」


不思議に思ったココアが、夢と希望に満ちあふれた質問をしてみると、


「……? うむ。僕の部屋のセキュリティは万全だからな」


人の侵入は勿論、魔法対策も完璧だぞ、と、夢も希望もあったもんじゃない答えが返ってきた。


「え、えーと……じゃ、じゃー、お父さんかお母さんからクリスマスプレゼントをもらったーとかはー?」


サンタさんがプレゼントを置きに入ろうものなら警報が鳴っちゃうのか、とか思いながら、ココアは更に質問する。


「うむ。ないぞ」


すると、プリンはこくりと頷いた。


「え」


「父と母は基本仕事で忙しいからな。だから、家にいてもほとんど会わない」


ココアの聞き返しと、


「それ、お前が小さかった時もかァ……?」


「うむ。昔からずっとだ」


何気に話を聞いていたポトフの問いに、さも当然のようにさらさらと答えるプリン。


「え……じゃあ、プリン、ずっと一人でお留守番してたの?」


というミントの問いに、


「うむ」


プリンは再びこくりと頷いた後、昔を思い返した。


「でも、留守番の間一人で暇だったから、父の書斎にあった本を読みあさって」


それは、彼が文字を読めるようになった時から始まった、


「その中のいくつかの本に書いてあったことしかやらない保育所も初等学校も中等学校も、詰まらないから眠っていて」


小さい頃の、淋しかった記憶。


「そのせいで周りから遠ざけられて、トモダチが一人もいなくて」


相変わらずさらさらと自分の過去をかなり簡単にまとめあげたプリンは、同じテーブルに座るミントとポトフとココアを見て、ふっとやわらかく微笑んだ。


「だから僕は、トモダチがいる今が一番好き」


もう、淋しくないから。

 ――初めて聞いた、幸せな想像とは全く違った人生を送ってきた大企業の御曹司の物語。

その後の素敵な笑顔に、彼の友人たちは胸を詰まらせた。


「「――……っ、プリンっ!」」


「枕っ!」


「?」


数秒の間を置いた後、三人はそれぞれガシッと彼の両手と肩を掴み、


「「今年はいいクリスマスにしよう!!」」


と、目に涙を浮かべつつ約束した。


「ふふふ、うむ。約束」


そうして、彼らに温かな笑顔が広がった。

――風も少なくよく晴れた日の、穏やかな午後のことであった。



以上、最近の某フライドチキンのCMを見てふと浮かんだお話でしたー。←

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