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学校日和2  作者: めろん
165/235

第165回 観賞日和

 駅から学校にかけて広がる広大な森の中で、ミントは目に涙を浮かべてこう叫んだ。


「ピョーーーーーー!!」


彼がこのように叫んだのは、別に彼の頭やテンション等がおめでたいことになったからではない。


「み……ミント……?」


しかし、そうは思わなかったココア。

彼女は、なんの前触れもなく顔面蒼白になってボリューム最大で奇声を発した彼にどん引きした。


「ああ……あぁあぁぁあ」


「!? ミントー?!」


奇声の直後、恐る恐る振り向いてミントを見ると、彼はガクガクと震えだしていた。


「どっ、どうしたのミントー?! 進化!? 進化するのー?!」


流石にただごとではないと思ったココアは、慌てるあまりにわけの分からないことを口にした。

すると、


「ココアのバカぁっ!!」


と、ミントが怒鳴った。


「え? 私ミントより五十位上だよー?」


すると、ココアのインテリ発言が返ってきた。


「ちっがう!! いや確かにそれは事実で中間テストでココアは三位でオレは五十三位だったけどちっがう!!」


彼女の言葉を事実として素直に認めた後、ミントはココアの足元をズビシッと指差した。


「?」


それに従い、ココアが下を向くと、


「あ、やだ靴ひもほどけてるー。ありがとミントー」


彼女は、靴ひもがほどけていることに気が付いた。


「ちっがあああう!!」


すると炸裂ミントの突っ込み。


「え、違うのー?」


「て言うかそれ見て"ピョーーー"て叫ばないよ変人かオレはあああ?!」


「え、違うのー?」


「二度同じことをしかも違う意味合いで言うなあああ!!」


きょとん顔の彼女に頭を抱えながらミントは突っ込みを入れた後、


「足! その足の下!」


「え? やだ、ミント靴裏マニアー?」


「んっだそのオレの常識の範疇にない愛好家はぁ?! オレはその右足を上げろって言ってんの!!」


更に突っ込みを上乗せすることで、ようやくココアの右足を地面から離すことができた。


「へ?」


彼の言う通り、ココアが右足を上げたついでに後ろへ一歩下がると、


「ピョウ!!」


ミントは、その場所に咲いていた小さな青紫色の花の近くで膝をついた。


「あ。私それ踏んでたのー?」


「そうだよ! ココアは今ピョウをっ! 正式名称プリパピピルプルプンピョウをがっつり踏んでたんだよ!!」


「……えらく半濁音が多い花だねー?」


それでやっと、自分が花を踏んでいたことに気付いたココア。


「珍しい花なのー?」


彼女は、彼が急いで自身の樹の魔力を注ぎ込んで回復させた花を見て小首を傾げた。


「珍しいも何も、万能薬ゆえに絶滅危惧種で、これを置いてる数少ない薬草店でも取り敢えず他の薬草とは桁外れに高いとんでもなく貴重な植物だよ?」


元通りに美しく咲き誇ったピョウにホッと胸を撫で下ろしながら、ミントは彼女にそう教えた。


「絶滅――?!」


「それをたった今キミは絶命させようと」


「ご、ごめんなさいごめんなさいごめんなさいっ!」


彼の言葉に、青くなったココアは慌ててピョウに謝った。


「でもまあ無事だったし」


その謝罪をピョウの代わりに寛大に許したミントは、


「オレも初めて本物見れたし♪」


うっとり顔でピョウの前に座り込んだ。


(ちょ、長時間モード……)


花を観賞する為に体操座りをした彼の体勢を見て、ココアは勝手に命名した。


「ミントは植物が好きだねー?」


「うん♪」


 こうなったら彼はしばらく動かない為、仕方なしに座るついでに靴ひもを結びだしたココア。


「でもそんな珍しい花が学校の森に咲いてるなんてねー?」


「うん」


「この森のこんな奥の方まできたことなかったもんねー?」


「うん」


「クー先生の言ってた薬草見つからないねー?」


「うん」


といった調子で、聞いてるか聞いていないか分からない会話を続けるココア。


「プリンとポトフは仲良くしてるかなー?」


「どうだろね」


あっ、ちゃんと聞いてたんだ、とココアはちょこっと驚いた。


「ケンカとかしてないかなー?」


「してそうだね」


「昨日もケンカしてたもんねー。なんであんなケンカ好きかなー?」


「兄弟だからじゃない?」


オレは一人っ子だから分かんないけど、とミントが返すと、


「兄弟ゲンカなら、普通一撃で終わらせると思うんだけどー?」


ココアが物騒なことを口にした。


「や、それはココアのみの常識だと思うよ?」


それゆえ、ミントはピョウを眺めたままながらに突っ込みを入れた。


「えー? でもそーでもしないと、お風呂とかお布団の中まで入ってくるかもなんだよー?」


「それはもはや犯罪ですよお兄さん」


後、ここにはいないココアのお兄さんにも突っ込みを入れた。


「だから一撃で片付けないとねー」


「あは、今度プリンとポトフに教えてあげたるといいよ」


お兄さんを一撃で片付けられるココアに恐怖を覚えつつ、ミントが言うと、


「あ、そー言えば、なんで二人はケンカしてるのかなー?」


ココアは思い出したように疑問を抱いた。


「プリンがポトフのお風呂とかお布団の中まで入ってくるかもなのー?」


「それ絶対にプリンの前で絶対に言わないでね?」


とんでもない言葉を発した彼女に、ミントはさらりと注意した。


「て言うか全国のお兄さん方に謝りなさい」


「ごめんなさーい」


謝りながら、やっぱうちは特殊なんだー、と実感させられたココア。


「それに、昨日喧嘩してたのは、午前中の野外授業のペアがプリンとココアだったからだよ」


お兄さんの全部が全部そうであってたまるか、とミントは理由を教えてあげた。


「なっ?! 別にいちゃついてないよー!?」


するとすぐさま返ってくる反論。


「まぁ、なんでもココアのお母さんに"ココア好みのイケメン"なんて言われたらしいから? ポトフは双子のお兄さんのプリンを警戒してるんじゃない?」


バッとこちらを向いたココアにそう言ったミントは、相変わらずピョウを眺めている。


「……何それー? 信用ないなー。あっちの方がぜんっぜん信用できないってゆーのー」


あんなに女の子いっぱいつれてて、とココアがぷうっと膨れると、


「あはは、確かにね」


ミントは笑いながら、ようやく長時間モードを解除した。


「でも、あんなにたくさん連れてたのは、何もできないようにする為だって」


「? 何もできないー?」


同じく立ち上がったココアは、ローブについた汚れを払いながら聞き返した。


「ポトフ、エリアさんの影響で純情乙女な恋愛ものの主人公の思考を植え付けられちゃってるからさ。だから」


すると、ミントはニヤリと笑って言葉を繋げた。


「初めてのちゅーは、一番好きなひとと♪」


と。


「え――?」


その言葉に、ココアは顔を赤くした。


「――……あっ、で、でもっ、それってウソじゃないー?」


後、はっと何かを思い出してそう続けた。


「? どうして?」


「だ、だって少なくとも」


そのように思った理由をミントが尋ねると、ココアは真剣な顔でこう言った。


「ポトフ、プリンとちゅーしてたもん!」


ガシャーン!!


――直後、ガラスが割れた音がした。


「え……?」


と、ココアが振り向くと、


「……」


「……」


そこには、薬草回収用のガラスケースを取り落としたプリンとポトフが、いつの間にやら立っていた。


「あ」


「あ〜あ」


なきものとして封印してきた記憶の扉が、今、古めかしい音を立てて開け放たれた。


「お……っ俺の唇を返せ枕ァァァ!!」


「気持ちの悪いことを言うな馬鹿!!」


ドカアアアアアアアン!!


今日も今日とて仲良く喧嘩するポトフとプリンと、


「え? ってことは、本当にー……?」


「喧嘩するのは別に構わないけど、少しでもピョウを傷付けたら血祭りにあげるからね♪」


顔を朱に染め上げるココアと、にっこりと笑いながら忠告するミントであった。

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