第163回 雑談日和
ムスッとした表情で座っているポトフに、
「ったく、もう……」
ミントは呆れたように溜め息をついた。
「プリンもプリンだけど、ポトフもポトフだよ?」
兄弟喧嘩でズタズタに切り裂かれた彼に、すり潰した薬草をつけながら。
「ったァ?!」
「これに懲りたら、もうそんな兄弟喧嘩なんてほのぼのした語句で片付けられないような流血沙汰の喧嘩はしないことだね」
切り傷に相当しみたのか、思わず声を上げた彼にそう言った後、
「ってか、回復魔法が使えなくなるくらい張り切って喧嘩しちゃったわけ?」
ミントは疑問符を浮かべて尋ねた。
「……いや使えるけど」
「いや使えるのかよ」
ぼそっと返ってきた答えに、じゃあ今のオレの頑張りはなんだ、とミントは乳鉢の中身をわしっと掴んでポトフの顔面に投げつけた。
「ったァァァァァァ?!」
「夜に大声出さない」
「ミントヒドイ!!」
「読みにくい。って言うかなんで使えんなら回復魔法使わんのさ?」
どばっとかかった最高にしみる傷薬に悲鳴をあげたポトフは、
「だって、なんか喧嘩して回復魔法使ったら負けな気がするだろォ?」
と、答えた。
「まったくもって無駄な男気だね」
そんな彼の解答をばっさり切り捨てた後、
「無駄――……」
「はあ……昨日はあんなに仲良しだったのに」
「――……昨日?」
ミントが再び溜め息をつくと、今度はポトフが疑問符を浮かべた。
「あ、覚えてないか。昨日はワタルのせいで学校中が性別逆転魔法にかかっちゃって大変だったんだよ?」
その様子を見て、ミントは大まかに昨日の出来事を彼に話した。
「朝起きたら女の子になっててポトフとプリンは仲良しでなんか朝っぱらからパンケーキとイチゴパフェとか甘ったるいもの頼んでて性別逆転魔法の相談してもポトフは"それよりココアくんがね〜♪"とか言ってオレの話ガン無視するしプリンは眠ったまま歩きだしてなんか危ないお兄さんたちにつれていかれそうになるしで全然話にならないし連れ戻したら連れ戻したでポトフにのろけ話の続きを延々と聞かされるしプリンはまた寝ながらふらふら歩きだすしもう一回連れ戻したら連れ戻」
主に、愚痴を。
「……た、大変だったんだなァ?」
記憶がない以上、それ以外の感想を述べられないポトフ。
「ホントだよ」
「ったァ!?」
怒りをぶつけるように傷薬をつけたミントは、
「我慢しなさい。つか、二ヶ月の苦しみを耐えぬいたキミが何言ってんのさ?」
呆れたように溜め息をつきながら質問した。
「はェ?」
ので、ポトフはそれを疑問符で返した。
「いや蝿じゃなくて。ポトフ、入学したときから二ヶ月くらい地下を彷徨ってたんでしょ?」
回復魔法は使えるらしいが、ここまできたら最後まで傷薬つけてやる、と傷薬を付け終えたミントが顔を上げると、
「……。ミントって、本気でピュアなんだな?」
ポトフはおめめをパチクリさせていた。
「へ?」
その反応に、素で疑問符を浮かべるミント。
「え、あれ、冗談だったの?」
問うと、当然のごとく頷いた彼を見て、
「ええ?! 壁を食べて二ヶ月生き延びたんじゃなかったの!?」
「えェ!? 俺そんなこと言ったっけ?!」
ミントとポトフは、互いの衝撃的事実に驚いた。
「え? え? じゃあ、二ヶ月ちかくどうしてたのさ?」
言った言った、と肯定しながら、ミントが空白の二ヶ月間に何をしていたのか尋ねた。
「え? おにィさんがご兄弟にとんでもない誤解されてるって聞いたから、その誤解を解きに異世界に行って。そしたらおにィさんのおねェさんからなんか流れで温泉旅行に誘われて」
それで帰ってきたら二ヶ月遅刻してたんだぜ? とポトフは頭を弱く掻きながら答えた。
「ええ? じゃあ、なんでそう言わなかったのさ?」
誤解ってあれか、"二次元に逃げた"ってやつか、とか思いながらミントが聞くと、ポトフは真面目な顔でこう言った。
「だって、初対面で"異世界に行ってました☆"なんて言ったら、頭が残念な人に思われちゃうだろォ?」
正論。
「いや、壁食ってた方が頭が残念な方に思われちゃうかと」
ご尤。
「えええ? じゃあポトフの武勇伝一個消えたよ?」
「いやむしろ消えてくれてありがたいけど……俺の武勇伝て、他にどんなんがあるんだァ?」
「プリンとの喧嘩でことごとく負けたとかクサイ台詞連発したとか雪食べたとか鹿と女子生徒狩りしたとか?」
「あっはっはっ、武勇伝なのに全部聞こえが悪ィのはなんでだ?」
若干の刺と毒を交えつつ楽しく会話するミントとポトフ。
ポトフの空白の二ヶ月間の謎が解けた秋の夜の、プリンがお風呂に入っている間の一時のことであった。




