第160回 革命日和
風が冷たくなってきた秋の放課後。
「うん、また明日。ばいばーい」
掃除を終えて友人と別れたウララは、
「……は〜ぁ……」
中身が入っていなさそうなバッグを肩にかけ、盛大な溜め息をついた。
「3キロ……3キロも増えてただなんてぇ……」
原因は、本日の身体測定の結果にあり。
「ダメだわ。こんなんじゃ絶対ダメだわ」
見た目は変わっていないのだけれど、体重が増えたことが許せないウララは、
「よぅし、今日からダイエットするわよ〜!!」
ぐっと握り締めた拳を振り上げて気合いを入れてダイエット宣言をした。
「トリックオアトリート」
――直後、彼女にお菓子を求める声がかけられた。
「うはあ?! わ、ワタル!? あんたいつからそこにいたのよ!?」
真後ろから話し掛けられ、驚いたウララが質問すると、
「3キロ増え――……」
死神は、さらりと禁句を口にしようとした。
「だりゃあああああ!!」
「あうち」
ので、ウララは渾身の肘鉄砲を彼にお見舞いした後、
「そこから聞いててよくもぬけぬけと私にお菓子を要求できたわねぇぇぇ?!」
バキボキと手の骨を鳴らしながら、バックに怒りの炎を燃え上がらせた。
「……。お菓子をくれないのか?」
そんな彼女に、死神がさらりと質問する。
「あたぼうよぅ!! 燃えろ脂肪ーーーっ!!」
ダイエット宣言、再び。
「……そ。なら」
すると、死神は詰まらなそうに膨れた後、
「イタズラしちゃうぞ」
ダイエットに燃えるウララにかろうじて聞こえるくらいの声で、そう言った。
目が覚めると、そこは保健室のベッドの上。
「……はれ?」
さっきまで教室にいた筈なのに、いつの間に? と思いながらウララが身を起こすと、
「! ウララ! 大丈夫っ?」
ベッドの脇から、アオイが身を乗り出した。
「へ? ああ、だいじょぶよ、アオ」
ので、大丈夫と返事を返そうとしたところ、
「イィィィィィィィ?!」
ウララは、びっくり仰天しすぎてベッドからずっこけた。
「ウララ?! どうしたのっ!?」
それに慌ててアオイが駆け寄ると、
「それはこっちの台詞! 何こんなところで女装してんのよアオイ?!」
女子高生ルックのアオイにウララは勢い良く突っ込みを入れた。
「……え?」
すると、アオイは灰色の瞳をぱちくりさせた後、
「私、もともと女の子だよ?」
小首を傾げてそう言った。
「――?!」
衝撃。
「い、いつからよ!? いつからそんな道を踏み外したのよアオイ?!」
「え? あ、あうぅっ、ウララ、やめ、やめっ」
自分は女の子だと言うアオイの肩を掴み、前後にがっくんがっくんさせながら問い質すウララ。
――直後、
「アオイ?!」
撥ねまくった黒髪の、女子高生がやってきた。
(うわ、美人――)
なんて、ウララが目を奪われていると、
「! ユウ!」
と、涙目でアオイが彼女の名前を呼び、
「……死にたいようね?」
彼女、ユウは、ウララに鋭い漆黒の瞳を向けた。
(――へ?)
へ? ユウ? と、彼女の名前に混乱するウララ。
ユウって名前の女の子は確かにいたけれど、ユウなんて名前で黒髪黒目でアオイの為に私に向けてこんなこと言うのは――。
「ユウゥゥゥゥゥゥ?!」
ウララの衝撃、再び。
「っさいわねこのバカアホボケナス」
バカアホボケナス?! とトリプルに酷いニックネームに反応しつつも、この辛辣な感じは、確かにあのユウ。
ガラリ
「ウララ、大丈夫、です?」
更に、保健室に入ってきた男の子の、この口調。
「そしてリンンンン?!」
女子生徒の格好をしたセミロング銀髪のアオイちゃんと黒髪ロングのユウちゃんと、男子生徒の格好をした栗色短髪リンくんに、気が狂ったかのようなリアクションを示す、男子生徒の格好をした狐色短髪のウララくんであった。
「って、私も男になってるううううううううう?!」
「……。ウララ、何を言ってる、です?」
「う、ウララ、倒れたときに頭ごっちんってしちゃったのかなっ?」
「コイツがおかしいのはもともとよ」
ちなみに、そんな彼にホットな対応を示してくれたのは、アオイだけだったそうな。