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学校日和2  作者: めろん
157/235

第157回 危機日和

「わは〜、なんか随分感じ変わったねぇプリン?」


「むぅ……背中が寒い」


 美容室の奥に入り、フラント家のリビングキッチンにお邪魔したミントとプリンは、


「はい、どうぞ」


と、ソラにお茶を出してもらっていた。


「ありがとうございます。……って、感じ変わったと言えば」


ソラにお礼を言った後、ミントは思い出したように彼を見た。


「あは、老けたでしょ?」


すると、ソラが笑ってそう言った。


「え、や、老けたって言うか何と言うか……」


「あはは、気を使わないでいいよ。ポトフくんに聞いたんだけど、アオイくんたちが頻繁に来るようになったでしょ? それで多分、こっちの世界とあっちの世界の繋がりが強くなって、時間の流れも一緒になっちゃったみたいなんだ」


その言葉にどう反応していいのか困ったミントをよそに、


「すごかったんだよ。ある日突然、一夜にして老けちゃって」


「っえ、一夜にして!?」


あははと笑いながら、ソラはびっくり極まりない出来事を口にした。


「おかげで二十代前半からいきなり三十後半に飛び級だよ? いやぁ、びっくりびっくり」


「いや、全然びっくりしてませんよねソラさん?! ちゅーかそれ飛び級言いませんよね!?」


「いやぁ、まさか二十代にして成長期が来るなんてねぇ」


「いや、それ絶対に成長期とは違いますよねソラさん!? つか、成長期だとしても年齢は変わりませんて!」


「いやぁ、一気に寿命が縮まっちゃったんだよねぇ」


「いや、だからそれ笑い事?! 十年以上寿命が、って全然笑えませんよソラさん!?」


ほのぼのと笑うソラにガンガン突っ込むミント。


「あはは、ミントくんと喋ってると、なんかシャーンを思い出すね♪」


「出来れば思い出さないでください」


楽しそうに言うソラにさらりとお願いした後、アオイたちが世界を変えちゃったんだ、とか思っている途中で、


「あれ? でも、向こうの世界の人は魔法が使えないんですよね?」


リンとユウとワタルはマロに力を与えられたらしいけど、アオイとウララからは魔力というものをまったく感じられないことを思い出し、ミントは目の前にいる怖いくらいに灼熱の魔力を感じる異界人に質問した。


「うん。僕も元々は使えなかったんだけど」


ふーっと息を吹き掛けてミントが紅茶を頂いた直後、


「心臓に直接バース突っ込まれてから使えるようになったんだ♪」


そんなことを笑顔でソラが言ったものだから、ミントは危うく紅茶を噴きそうになった。


「ち、直接?!」


「うん、ラリアットで。あの時は本気で死んじゃうかと思ったなぁ」


「いやいやいや、それ普通死にますよね?!」


「で、気付いたら空からこの世界に向かってものっそい勢いで落ちてて」


「いやいやいやだからそれ普通死にますよね?!」


「シャーンとルゥとエリアに会って、なんか操られて自分の心臓刺しちゃって」


「いやいやいやだからそれ普通死んじゃいますよねってば!!」


「アミュにも会って、なんか群青色のカレーとかふざけたもの食わされて」


「いや……て、えええ?! あなたもあれの被害にっ!?」


「で、ジャンヌに会って」


「いやいやいや死線さまよいまくりですかソラさんんん?!」


波瀾万丈な彼の過去に、ミントは盛大な突っ込みをかました。


「あはは、いろいろあったねぇ」


「いやそんな他人事な!」


「ふむ。すると異世界結婚か」


国際どころの騒ぎじゃないことをやってのけた彼を前に、プリンが時計を見ながら口を挟むと、


「そうそう。姉さんと弟に異世界にいるエリアと結婚するって言ったとき、なんだか知らないけどすんごい哀れみの目で見られちゃってさぁ」


とソラが言ったので、驚くなら分かるけど何故哀れみ? と、揃って疑問符を浮かべるミントとプリン。


「なんか僕が、二次元? に、逃げた、とかなんとか?」


「いや、それものっそい誤解されてますよソラさんんんんんんんんんんん!?」


とんでもない誤解をされているのだが、意味が分からなかったプリンと同様に疑問符を浮かべているにこやかソラに、笑ってる場合じゃねえええ?! とミントは渾身の力で突っ込んだ。










「ふぇっ……えっ……」


 美容室も兼ねた青い屋根のお家の二階にある、南向きの綺麗に片付いた部屋のカーペットの上に座って、白いクッションを抱えたココアが、その濃い桃色の瞳からぽろぽろと涙を零していた。

とどまることを知らないその涙は、頬を伝ってクッションへと落ちていく。

だって、だってこんなの悲しすぎる。

こんな、こんなのって――……。


「……ココアちゃん……」


そんな彼女の名前を、隣に座っているポトフが優しく呼ぶと、


「ふえええん! アリエッターーー!!」


ココアは彼の名ではなく、女性の名前を叫びながら彼の胸に飛び込んだ。

アリエッタ――その名の女性が、彼女がこんなにも泣いているそもそもの原因。

ココアは、最近発売されたばかりの感動の超大作恋愛映画、"ボブとアリエッタ"のファイナルエディションで感動しまくっていたのであった。


「アリエッタが、アリエッタがぁっ!」


ミントとシャーンが爆睡をかましたこの映画のエンドスクロールが流れる画面の前で、ココアは悲しみに涙を流す。


「きのこアレルギーで死んじゃうなんてーっ!」


どんな恋愛映画だ。


「自分のアレルギーはちゃんと把握しなきゃダメだぜ?」


どんな慰めだ。


「ふえええん! 怖いよきのこアレルギー!!」


念の為に言っておくが、これは、しつこいながらも恋愛映画の、しかも感動の超大作の感想である。

 ふえんふえん泣いているココアをふわりと抱き締めて、彼女の頭を優しく撫でるポトフ。

そうしてだんだんと落ち着いてきたココアは、とあることに気が付いた。


(――は!? 私ったらミントたちの前で何――……て、れ? いない……?)


彼女が気付いたこと、それは、一緒に映画を見ていた筈のミントとプリンとソラの気配がこの部屋からなくなっていること。

彼らは映画の序盤で退室していたのだが、ココアは画面に夢中になっていて気が付かなかったようだ。

ちなみに退室の理由は、ミントとソラはこの映画に耐えられないからで、プリンはひとえに興味がなかったから。

早々に退室した彼らは、現在一階のリビングでのんびりお茶している。


(よかったー……)


見られてないことに喜んだのも束の間、


(って、よくないよくない全然よくない!!)


ココアは、もう一つのことに気付いた。

彼らがこの部屋にいないということは、現在彼女はポトフと二人きり。

しかも、ここはポトフの部屋。

更に、結末はどうあれ二人は恋愛映画を見た後で、とどめに今のこの状況。


(こ、これは一体どーすれば……)


変な汗を掻きながら、ココアがこの場を切り抜ける最善の方法を考えていると、


(!)


ドアの隙間から、救いの手のごとくカレーのにおいが漂ってきた。


("あ、夕御飯が出来たみたいだね。下に降りてみよっかー♪"、よしっ! 万事解決ー!!)


打開策を見つけたココアは、心の中でぐっと右手を握ると、その作戦を実行しようと顔を上げた。


「――!」


が、するとポトフの顔が目の前に。

ぱっちりとした桃色の瞳と切れ長の茶色の瞳が真っ直ぐに結ばれて、思わず紅潮した彼女の耳に、彼の低い声が響く。


「ココアちゃん」


聞き慣れた筈の彼のその声に、胸を締め付けられたココアはあらがうことが出来ずに瞳を閉じた。


シュパンッ


直後、背後で空気を切り裂いたような音がした。


(しゅぱん?)


 どこかで聞いたことがある音に疑問符を浮かべた瞬間に、ココアはどこで聞いたのかを思い出して勢い良く振り向いた。

そこにいたのは、予想通りの瞬間移動魔法で現れたプリン。


「「な――?!」」


彼の突然の登場にポトフが驚いて、彼に目撃されたことにココアが顔を真っ赤にすると、


「ふふふ、二人の分だ」


プリンは無邪気に微笑んでカレーを二人に手渡した。


「……」


「……」


「「……」」


手渡されたカレーは、見事に群青色。


「僕がつくった」


初めてつくったんだぞ! と褒めて欲しいオーラ丸出しのプリンに、ココアとポトフはぶつけるべき言葉を失い、


ドサドサッ


「「……っ」」


加えて下の階から聞こえてきた何か重いものが二つ倒れた音に、ポトフとココアは得体の知れない恐怖にさいなまれるのであった。

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