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学校日和2  作者: めろん
154/235

第154回 ゴマ日和

 転がっていった水晶玉を回収し、汚れを拭き取ってからそれを抱えて振り向くと、


「微風」


びゅおおおおおおおお!!


「……」


中庭の中心では、微風らしからぬ微風が吹き荒れていた。


「……」


くるり


バニラは再び中庭に背を向けて、


コツ、ゴロゴロゴロゴロ


「……」


うっかり手を滑らせて学校の中に入っていってしまった水晶玉をゆっくりと追い掛け始めた。


「……。逃げましたね」


分厚い氷の壁を出現させてゴマプリンの魔法を防いでいるアセロラは、バニラの様子から、彼女は先のことは考えていなかったということを理解した。


「さて」


 まあ、バニラさんの攻撃は主に生命に関わる呪いか水晶玉ストライクですし、とか彼女が逃走したことを納得しながら、アセロラは氷の壁越しに敵を見た。


「首尾、一貫っ!」


「テレポート」


「キラキラァ!!」


「烈風」


ちゅどおおおおおおん!!


リンが直接接近して攻撃すると瞬間移動して回避されて、ポトフが魔法で攻撃すると風魔法で止められる。


「どうしたものでしょうか?」


瞬間的に移動されてしまったら物理攻撃を当てることや凍り付かせることなどできないし、厄介なことに魔力もこの中ではプリンが一番上。

ポトフとユウの光魔法は風魔法で掻き消される上に、アセロラの"氷"といった実体のある魔法では、掻き消されるどころか逆に利用されて風と共にこちらが攻撃されてしまう。


「瞬間移動されるなら、その出所を叩けばいいじゃない? 集中豪雨ぅ!!」


「な――」


対策を練っている隣で、アセロラが止める間もなくウララはポシェットから取り出した特製ボウガンで豪雨のごとく矢を放った。


向風(むかいかぜ)


瞬間移動先を魔力の動きで直感的に察知したウララの矢は、ゴマプリンを貫く直前で、


「え」


風向きが、変わった。


「きゃああああああ?!」


「《凍り付く壁》」


「アイスウォール」


百八十度向きを変えてこちらに向かってきた矢は、ウララにではなく分厚い氷の壁に突き刺さった。


「あ、……りがと」


糸が切れたかのようにへなへなと座り込みながらウララがお礼を言うと、


「今のは風使いに対して一番やっちゃいけないパターンですよ?」


「お前、なんの為に頭がついてるんだ?」


アセロラとユウから、冷ややかな言葉と視線が返ってきた。


「な、何よ――」


「飛び道具使いは下がってろ」


「――……!」


 ユウに自分を守るように背中に回されて、ウララがときめいていると、


「邪魔な壁だな。舞風」


学校の壁にポトフとリンを強力な風魔法で叩きつけたゴマプリンは、指先に風の刃を生み出した。

そしてそれらの刃を放った後、


「かまいたち」


彼が氷の壁に向けた右手をぐっと手を握ると、


スパンッ!!


「「!」」


分厚い壁は、いとも容易く見事に切り裂かれた。


「旋風」


後、切り裂いた氷の塊を利用して、風魔法と共に、鋭く尖った氷をアセロラとユウに向かわせた。


「――()ぜろ」


直前、ユウの魔法で形づくられた灼熱の剣が爆発するように裂けて開き、見事に氷を溶かしてみせた。


「……。助かりました」


「どーいたしまして」


異界の魔法使いは何種類の魔法が使えるんだ、と驚きながらお礼を言った後、


「壁も張れなくなってしまいましたね」


「……。そうだな」


敵を警戒しつつもアセロラは考え込み、ユウは敵に目を向けた。


「……なかなかやるな」


 漆黒の瞳と青い瞳がぶつかって、ふっと面白そうに笑ったゴマプリンがそう言うと、


「そー言えば、お前カナヅチなんだろ? 《壮麗なる龍はすべてを呑み込む》」


ユウは、氷が溶けて出来た大量の水を操り、全身が水で出来た龍を生み出した。


「神風」


大口を開けてこちらを飲み込もうとしているそれに向けてゴマプリンが最大魔法を放つと、水龍は脆くも飛散した。


「――!?」


が、彼の周りに飛び散った水は再び龍を形づくった。


「テレポート!」


腹の中に入れられる前に、ゴマプリンは現在の場所から瞬間移動した。

もちろんその移動先に攻撃を仕掛ける水龍であったが、


「!」


「……?」


突然、水龍の動きが鈍った。

それを不思議に思ったゴマプリンが後ろを向くと、


「あ」


その先には、見付かっちゃったとばかりにビクッと声を発したアオイが立っていた。


「って、んなところで何やってるのよアオイ?!」


 ユウの影から顔を出し、そう言えば今まで戦闘に参加していなかった彼にウララが勢い良く突っ込むと、


「だ、だって、僕の武器は剣で、相手はプリンなんだよっ?」


友達は切れないよ! といった感じでアオイが切り返してきた。


「何甘っちょろいこと言ってんのよ?! そいつはリンとポトフを戦闘不能にまでしちゃったのよ!?」


「そ、そうだけど……でもプリンだよっ?」


「あーもー、プリンはプリンでもそいつはゴマプリンなの!!」


「ゴマプリンはゴマプリンでもプリンだよぅ!」


「だからプリンはプリンでも」


という具合に、ウララとアオイがプリン合戦を開始したなかで、


「ふ……あれがお前の弱点か」


ゴマプリンは、邪悪な笑みをユウに向けた。


「……っ」


プリンもカナヅチだがアオイもカナヅチ。

そんな彼を巻き込むことなど出来ないし、それ以前に大切な友人を攻撃出来るわけがない。

しかし、そんな考えが意味する先のことが嫌でも分かるユウは、ぎりっと奥歯を噛み締めた。


「ならば、簡単なことだ。テレポート」


そんな悔しそうなユウを見て邪悪に笑ったゴマプリンは、彼が予期した通り、


ピュッ


水龍の盾にするべく、アオイの背後に瞬間移動した。


ズバンッッッッッッッ!!


――瞬間、ゴマプリンの首すれすれのところを銀色の閃光が走り、その先にあった彼の長い髪が切り落とされた。


「なっ――?!」


銀色の閃光の正体は、


「……あ」


瞬間的に抜刀して突き出されたアオイの剣。


「す、すっげェ……!!」


「! ポトフ、リン! もう大丈夫なのっ?」


「自分の傷くらい、自分で回復出来ます、です」


「……これで遠慮なくお前を攻撃できるな?」


「ご、ごめんねごめんねついクセでっ!」


凶悪だった顔に初めて恐怖の色を浮かべたゴマプリンを見て、


「……。大丈夫、そうですね」


この調子なら、ミントさんが戻ってくるまで間がもちますね、と胸を撫で下ろすアセロラであった。


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