第15回 名乗り日和
「とーちゃーく」
『む〜』
死神の抑揚のない声と、彼の頭の上からむぅちゃんの鳴き声が聞こえると、ミントは広々とした、必要以上に豪華な部屋に立っていた。
「……? 此処って、シャイア城の王室?」
辺りを見回しながらミントが尋ねると、
「ん」
なんとも簡潔な返事が死神から返ってきた。
「じゃあ、ルゥ様の手紙に書いてあった"追伸。使いの者を送っちゃったゾ☆"ってのは、キミのことなんだ?」
「……フッフッフッ。バレちゃあ仕様がない」
ミントの問いに、死神はフッフッフッと不敵に笑った後、
「オレ様は死神だ!!」
「うん。知ってる」
と、迫力満点に名乗ったのだが、さらりと流されてしまった。
「……いじいじ」
『む〜う!』
それにいじけてしまった死神は、頭の上からむぅちゃんを降ろし、人さし指でつつき出した。
「……ねえ、ワタル?」
そんな彼に、引き続き辺りを見回していたミントがゆっくりと話し掛けた。
「ん? なんだ、クリスマスしょうね―…」
「ミント」
「―…ミント?」
ミントの声がものごっつ怒っていたので、彼の呼び方を素早く訂正する死神。
『む〜っ』
その隙に、ミントの肩の上に避難するむぅちゃん。
「プリンとココアとポトフは?」
いつもの声に戻ったミントが尋ねた。
「んー、プリンとココアは大好きだが、ポトフは甘くないから―…」
「食の話じゃねえよ」
「かたじけない」
床に手をついて謝る死神。
「枕少年とピンク少女と眼帯少年は……んー、たぶんだな……」
彼はしばらく考え込み、
「そこら辺に落としてきちゃった☆」
抑揚のない声で語尾に星印をつけた。
「ローズホイップ」
彼と同じ調子で、ミントは薔薇の鞭を出現させた。
ひゅっ
「ぴわっ?!」
どすんっ!
死神に空間移動の途中で落とされてしまったプリンは、シャイア城の廊下で、思い切り尻餅をつくかたちになってしまった。
「……痛い」
強打した腰に手を当てながら、プリンがそう呟くと、
「邪魔」
という、酷く冷たい声が上から降ってきた。
「じゃ―…」
腰の痛みも忘れて、プリンが声の主にバッと顔を向けると、
「通行の邪魔だ。退け」
そこには、一人の少年が立っていた。
美しく整った顔立ちの彼の肩までの撥ねまくった髪と鋭い瞳は、漆黒に染まっている。
「……」
その少年を、じっと見るプリン。
「……。……なんだ?」
「食べ歩きよくない」
「黙れ」
少年の手に握られているきゅうりを見て言ったプリンに、彼はさらりと言い返した。
「……ふむ。あいつと似てる」
そう言いながら、ゆっくりと立ち上がるプリン。
「……?」
「死神とかいう奴とお前の魔力似てる」
同じくらいの身長の、疑問符を浮かべた彼にそう言った後、
「お前、あいつのいる場所知ってる?」
プリンは小首を傾げた。
「……助詞が少ない」
そんな彼の発言に、少年は小さく突っ込みを入れた。
「む?」
それがよく聞こえなかったのか、反対側に小首を傾げるプリン。
「……これから行くところだ。だから退け」
すると、少年はさらりと言った。
「うむ。分かった。ついてく」
「……勝手にしろ」
そう言ってプリンが右にずれると、少年はスタスタと歩き出した。
「だから、食べ歩きよくない」
「黙れ」
きゅうりをかじりながら。
「僕はプリン=アラモードだ」
「は?」
突然自分の名前を名乗ったプリンに、疑問符を浮かべる少年。
「そろそろ名前出さないと少年のまま終わるぞ?」
「……。……"イシグロ ユウ"だ」
そんなことを言いながら、少年、ユウとプリンは、王室に向かって歩き出した。