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学校日和2  作者: めろん
147/235

第147回 黒狼日和

 月明かりだけが頼りの夜のジャングルで、


「ば、馬鹿犬っ……」


寝る為に解いた流れるような水色の長い髪を上下させながら、プリンは微弱に感じられる魔力を辿って必死に走っていた。


「……は……は……」


ジャージ姿が似合わない彼は、走る姿もどこか似合っていない。


「……っ」


そう思えるほどのことだから、やはり彼は持久力というものが乏しかった。


「……はあ……」


だってこんなに長い距離は走ったことがない。

急いで移動するときはいつも瞬間移動魔法。

体育なんか大嫌い。

――そんな日頃の運動不足がたたって、プリンは走り出して五分後についには足を止め、近くにあった木の幹に背中を預けた。


「……は……」


月夜をバックに汗を拭いながら肩で息をしている姿は様になっているが、足の速さからして彼はそんなに走っていない。

 何故か闇の盾で周りをガチガチに固めていたココアは一人にしても大丈夫だとして、問題は狼に変身したであろう馬鹿犬と、


「……! ミント……!」


ミント。

辺りがジャングルということもあって気が付くのが遅れてしまったが、光の魔力の近くに確かに感じる樹の魔力。


「っ……!」


こんなことをしている場合じゃない、と足を動かそうにも、喘息ばりに乱れた呼吸と早々と襲ってきた筋肉痛により、かなわない。

悔しがる姿は様になっているが、悔しがる理由はまったくもってかっこよくない。


ガサ


「!」


 プリンが自分の体力の無さを痛感していると、心と身体が悲しいほど呼応していない彼の正面から、茂みが動いた音がした。

そして、それに次いで聞こえてきたのは、


「! プリン?」


ミントの声。


「……! ミント!」


その声に顔を上げ、その姿にぱあっと顔を明るくするプリン。


「だ、大丈夫?! なに、発作!?」


そんなプリンの呼吸から、喘息の発作でも起こしたんじゃないかと思ったミントは、慌てて彼の近くに移動して背中を撫で始めた。


「……」


そこで、プリンが初めて気付いたことが一点。


『ヘッヘッヘッ』


ミントの薔薇の鞭に、黒い狼が繋がれていた。


『クゥン?』


――え、ええええええ?!


「み、ミント?」


そんなコメディ的な反応をすることなく、彼はミントに目を向けて狼を指差す。


「ん? ああ、それ? ポトフだよ」


ポトフ、それ扱い。

ミントはプリンの背中を撫でながら、黒い狼化したポトフに目を向けた。


「野性の動物って、お腹がいっぱいのときはほとんど狩りしないでしょ? それと同じみたいで、こうなる前に鹿を捕まえてほとんど丸々一頭食べてたからおとなしかったんだ」


オレも足の方のお肉を貰ったけど、と言って、ジャージのポケットからその骨を持ち出し、ポトフに与えてみるミント。


『♪』


するとカリカリぱりぽりバキバキと楽しそうに鹿の骨を噛み砕き始めるポトフ。


「もし食べてなかったら、これがオレになってたんだろうね♪」


シャレにならないことを言うミント。


「……」


――走ってきた意味ねえええ!!


「……よかった」


そんなコメディ的な反応をすることなく、ミントが無事で、ポトフが誰かを傷つけていないことを知ったプリンは、胸を撫で下ろしてふっと微笑んだ。













「ふう、さっぱりしたーっ♪」


 お風呂からあがったココアは、洗って乾かしたジャージを着て闇の盾を解除した。


「水洗いだったけどねー」


どうせならシャンプーとか欲しかったなー、とか思いながらテクテク歩いている途中で、


「――って、はぅ?!」


ココアは、はぅっと何かを思い出した。


(お、お風呂が終わったってことは、次は就寝?!)


なんの気なしにプリンが見付けた寝床にやってきてしまったココアは、ぼっと赤くなった頬を押さえて背を向けた。


(あーもー、なんでプリンなのよー? いや、ポトフでも困るけどー! 私だって女の子だよー?)


一緒になんか眠れないよー! とココアが苦悶していると、


くんくん


彼女の膝の後ろに、何かが接触した。


(だからといってミントでも……、……。……まあ、ミントはいっか。――て、へ?)


悲しいことに、ミントはココアにいまいち男性として認められていないということが判明した直後、それに気付いた彼女は、ぱっと後ろを振り向いた。


『ヘッヘッヘッ』


そこには、蔓のようなもので繋がれた、舌を出して呼吸している黒い狼が。


「おっ、狼ーっ?!」


ので、ココアはびっくり仰天。

このジャングルには狼なんているのかとか思いながら、首を物凄い勢いできょろきょろさせてプリンを探す。

へるぷみー。


『ヘッヘッヘッ』


(怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い)


が、


『クゥン?』


(かぅわいーい♪)


ココア、ノックアウト。

恐怖で怯え切っていた顔をうっとりにっこりさせると、彼女は狼と視線を合わせるようにしゃがみこんだ。


「えへへ♪ おすわり」


そして、何故か犬扱い。


しゅたっ


「わっ、お利口さんだねー! お手!」


しゅたっ


「おかわり!」


しゅたっ


「伏せ!」


しゅたっ


「三回回ってワーン!」


くるくるくる


『アオーン!』


「きゃー! すごいすごーい!」


完璧に言うことをきく黒い狼を、ココアはすごいすごいと撫で回す。

もはや、完全に犬扱い。


『♪』


狼も狼で、それを素直に喜んで彼女の顔をペロペロと舐め始める。


「きゃっ! もー、くすぐったいよー♪」


 そんな可愛らしい狼を撫でていると、ココアはこちらに近付いてくる足音に気が付いた。


「あ、プリン! どこ行ってたのー? と、ミントも一緒だったんだー?」


ので、顔をあげると、そこにはぽかんとした顔をしたプリンとミントが。


「……。ココアの寝る場所を探しに」


ココアの質問に、汚そうに眉を顰めつつ答えるプリン。


「え、ホント?! ありがとー!」


これで寝る場所の問題は解決したと、彼の表情に気付くことなく喜ぶココア。


「……ココア、それは」


まだ狼と楽しそうに戯れている彼女に、今度はプリンから話し掛けると、


「あ、この子? すごいんだよー? なんでも言うこときくの! おすわり!」


しゅたっ


「ほらねー♪」


ココアは狼の頭の良さを見せ付けた。


「ね、私の寝る場所にこの子連れてっていいー?」


「……。別に、構わないが……」


「やたー♪」


狼が蔓のようなもので繋がれていたので彼らが捕まえたものと判断したのか、プリンの許可を得て喜んだココアは、


「あっ、そー言えば。ミント、ポトフは一緒じゃなかったのー?」


私とプリンがペアなら、と思い出したようにミントに向けて質問した。


「それだよ」


ので、ミントは頷いて答えた後、すっとココアを指差した。


「へ?」


私? と疑問符を浮かべたココアの頬を、


『♪』


ぺろっと舐める黒い狼。


「それ」


ポトフ、それ扱い。


「……」


「……」


「……」


『クゥン?』


間。


「っきゃあああああああああああああああああ?!」


夜のジャングルに、ゆでダコのごとく顔を真っ赤にしたココアの悲鳴がこだました。

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