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学校日和2  作者: めろん
146/235

第146回 お月見日和

 海の向こうに沈んでいくきらきらとした夕陽を眺めながら、


「綺麗だねぇ」


「そォだなァ」


半袖にハーフパンツで、頭にウサギさん寮のクラスカラーであるイチゴミルクのようなピンク色のハチマキを身につけている、なんとも体育祭ルックな二人がほのぼの。


「って、ああもォ、ここは"ココアちゃんの方が綺麗だぜ☆"って言う場面じゃねェか?!」


していたかと思いきや、ポトフが力任せに頭から取ったハチマキを地面に叩きつけた。


「あは、野郎でごめんね」


その隣で、同じく帽子で隠れたハチマキを取るミント。

ミントのハチマキの意味、皆無。


「いや、ミントは全ッ然悪くねェ……けど」


申し訳なさそうでもなさそうに謝るミントに、ポトフは笑ってみせた後、


「ココアちゃんに手ェ出したらぶっ飛ばすぞ枕……」


この島のどこかにいる筈のプリンに向けて殺気を送り出した。


「まま、あの山の天辺まで行けば万事解決なわけだし」


 殺気立つポトフをなだめようと、ミントがあははーと笑いながらするっと話題を変えてみせた。


「でも、あそこまで行くのには」


めちゃくちゃ時間がかかるだろ? と弱気なポトフの目の前で、


「そこはオレに任せてよ。――古より来たる琥珀」


ミントは頼もしげに呪文を唱えた。


「! そうか! グリフォンを呼べば!」


「そゆこと。――σ(シグマ)!」


グリフォンならあの山頂までひとっ飛びだ、と顔を見合わせて頷く二人。


「……。あれ?」


――しかし、そうは問屋が卸さない。


「ありゃりゃ。これはポリー先生にしてやられたね」


いつものように魔法陣が出現しない不思議にポトフが疑問符を浮かべると、ミントは自分の左の手の甲を彼に見せた。


「……? これは……召喚魔法の魔法陣?」


それをじっと見た後、ポトフが記憶を辿りながら首を傾げると、


「の、逆魔法陣」


ミントは肩をすくめて彼の答えを補足した。

彼の言う通り、ミントの左手の甲には、召喚魔法を使用するときに現れる魔法陣と左右対称の魔法陣が浮かび上がっている。


「逆魔法陣、って、確かホントの魔法陣の魔法を相殺して……」


「そ。だから召喚魔法使用不能デス」


お役に立てなくて申し訳ない、とハハハと笑いながらミントが謝ると、


「となると、徒歩かァ」


ああ、ココアちゃんと枕の二人きりの時間が長く……と、彼の頭の中で勝手に確定したペアに、ポトフはどんよりと肩を落とした。


「……」


 そんな彼を見て、


「体育祭の後だから、もうすっかり遅くなっちゃったねぇ?」


「? 遅い……?」


「汗も掻いちゃったから、お風呂にも入りたいよねぇ?」


「!? お風呂……?!」


「ヘトヘトだから、今日は早めに寝たいよねぇ?」


「寝っ――」


「でもって、秋の夜は寒いよねぇ?」


「――寒?!」


ミントはポトフのことを、軽ーくおちょくってみた。


「さんはいっ」


「枕ぶっ飛ばァァァァァす!!」


「あはは♪ ポトフってホント扱いやすいねぇ?」


おちょくり作戦大成功。

自分の想像力のたくましさを呪いながら、太陽が完全に沈んではっきりと姿を現した満月に向かって吠えるポトフであった。


「「――?!」」


今宵は満月。

それはそれは、最高のお月見日和であった。













 一方その頃、ココアはというと、


(訴えてやる訴えてやる訴えてやる訴えてやる)


告訴上等になっていた。


「……ふむ」


理由は、今が日が暮れる時間帯なのと、一緒にいるのが異性だということ。


(訴えてやる訴えてやる、絶対にPTAに訴えてやるわー!!)


セイクリッドの教員どもめえぇえ……!!!! と、怒りの炎を燃え上がらせながら、ココアが己の心に絶対に訴えてやると誓っていると、


「ココア」


前方を歩いていたプリンが立ち止まって振り返り、彼女の名前を呼んだ。


「うったーい?!」


心の声と反応の声が融合して、わけの分からない声を発してしまったココア。


「……? 今日はこれ以上進むのは危険だ」


それに対して疑問符を浮かべながらも、暗くなってきた辺りから判断してプリンがさらりとそう言った。


「ええ!? ど、どーしてっ?!」


ので、その状況になるといろいろと困るココアは慌ててその理由を尋ねた。


「この時間帯とあたり一面の植物のせいで視界と足場が悪い上に、夜行性の魔物と動物に襲われる危険性もある。それに」


その疑問に、プリンはもっともらしい理由を並べた。


「眠い」


後、本音を曝け出した。


「いや、どー考えても早すぎでしょー?!」


すると始まるココアの突っ込み。


「む? 今日は体育祭で疲れただろう?」


「いや、プリン、明らかに疲れるようなことしてなかったよねー!? ほとんどの種目ずーっとつっ立ったまんまだったよねー?!」


「ううむ。たまに座ってたぞ」


「いや、なおさらタチ悪いよねー!?」


「そして寝てたぞ」


「いや、更に最悪だよねー?!」


「だから眠い」


「いや、全ッ然脈絡が見つからないんですけどねー!?」


「……むう」


ガンガン突っ込んでくる彼女に、プリンは逆に聞き返してみた。


「ココアは眠くないのか?」


と。


「わ、私は……」


眠くない、と言えば嘘になる。

もちろんそれは、彼女は彼と違って体育祭に真剣に取り組んだから。

――が、しかし、


(この人だけは大丈夫だなんてうっかり信じたらダメダメなのよー!)


男は狼なのよー! と何やら危なっかしい台詞を用いながら、ココアはプリンを警戒していた。


「ぷわ……」


が、


「……ねむねむ」


しかし、


「ぐー」


「って、ちょ、寝ないでよー!?」


欠伸をした後、そのまま眠りだしたプリンを見て、ココアは慌てて彼を起こしにかかった。

理由は、一人にされても困るから。


「……む?」


何? と、睡眠を邪魔されて明らかに先程より機嫌が悪くなっているプリン。


「え、っと、その、こんなジャングルのど真ん中で立ったまま寝てたら、狙ってくださいーって言ってるようなものじゃないー?」


その様子に焦りながら、わたわたと彼を宥めるココア。


「……、うむ。それもそうだな。ぷわ……」


すると、プリンは素直に納得し、欠伸混じりにきょろきょろと辺りを見回した。


「む。じゃあ、あそこ」


そうして発見したのが、人が二人入ってちょうどくらいの、大木の根本付近に空いた空洞。


「ぅええ?! ちょ、っと狭ーくないー?」


そのサイズに、気持ち控えめに注文をつけるココア。


「……ふむ……大丈夫だ。あの大きさなら二人くらい入るぞ」


んなことよりも眠いプリン。


「や、でも私、えーと、ほら、寝相悪いしー?」


無理無理無理狭い狭い狭い、と引きつった笑顔を浮かべながら両手を前に出すココア。


「ぷあわ……あれだけのスペースなら寝返りも打てないだろ」


とにかく眠いプリン。


「っあ、そ、そーだ! それより私、お風呂入りたいなー?」


 だからそれがまずいんだってば!! と心の内で突っ込みながら、ココアは、本人的にはごく自然に、実際的にはかなり不自然に話題をすり替えた。


「……、お風呂?」


彼女の突然の提案を、プリンはかなり眠そうな青い目を擦りながら聞き返す。


「そ、そう! お風呂! 今日は体育祭だったし汗掻いちゃったからさっぱりしたいなーって♪」


無事話題を逸らすことができた、と喜びながら話を進めるココア。


「……」


するとプリンは、


「汗、掻いたのか?」


僕は掻いてないぞ的なきょとん顔で聞き返してきた。


「う、うん、むちゃくちゃ掻いたよー! だからちょーベトベトで気持ち悪くってー!」


こんのミスターさぼり魔め! とか思いながら、ココアはこくこく頷いた。


「……。そ……ぷわ……、じゃあ」


その答えを聞いて、プリンは眠い目を擦りながら、先程自分たちが渡ってきた浅い川までてこてこ戻ると、


「ええ?! こんな水も冷たい上に浅い川じゃ――」


「モルディング」


ココアのリアクションを遮り、泡枕を作る要領で川の水を集めて宙に浮く大きな水滴を作った。


「熱風」


その後、熱を伴う風魔法でその水を温めると、世にも奇妙な宙に浮くお風呂の完成。


「できた」


「あ、ありがとー……」


作ってもらっちゃった、と作ってもらっちゃった後のことを考えていなかったココアは、新たな問題が発生したことに気が付いた。


「あ! 私、タオルと着替え持ってなーい!」


「……。微風」


すると、プリンが右手を動かしてお湯の球から小さなお湯の球を切り取るようにして作った後、生み出した微風を操って小さなお湯の球の中に渦を生み出し、更にその隣に人一人分の風の球を作った。


「え……と、これはー?」


目の前にある三つの不思議な球を指差しながら、ココアがプリンに顔を向けると、


「一番右が体、二番めが服を洗うところで、三番目で乾かせ」


彼はさらさらと説明した。


「あ、ありがと、プリンー! ……で、あのー」


三つの球を見て魔法のすごさを改めて実感しつつお礼を言ったココアは、恥ずかしそうに再びプリンの方を向いた。


「のぞ――……って、あれ?」


が、そこにプリンはいなかった。


「ぷわ……じゃあ、僕は先に寝てるぞ」


そしてその代わりに、背後から遠退いていく彼の声が聞こえてきた。


「……うん、オヤスミ」


ここまで完全に興味がないとそれはそれで何か釈然としないものを感じながら、ココアは解放感ありまくりなお風呂と洗濯機? と乾燥機? の周りに真っ黒な闇の盾を張った。


「ぷわ……ふむ、女の子は面倒臭い」


 それに背を向けて、プリンは何やら失礼なことを呟いて先程見つけた寝床に向かって歩きながら、先程から連発している欠伸を更にもうひとつ。


「む?」


するとプリンの青い瞳に映ったものは、一点の曇りもない見事な満月。

そして、


「――!!」


彼の耳に、狼の遠吠えが聞こえてきた。

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