第145回 体育祭日和
国立セイクリッド魔法学校で、夏休みが終わるとすぐにやってくる行事が体育祭。
「ミントさん、ちょっと」
「?」
玉入れやら大玉転がしやら綱引きやらといった体育祭の定番メニューが終わり、お次は、なんかもういろいろと面倒臭くなったのか、学年全員障害物競走というめちゃくちゃな種目。
それが始まる前に、魔法学担当のポリー先生に呼ばれたミント。
「なんですか?」
「左手を出してください」
「? はい」
言われるがままにミントが左手をポリー先生に向けて出すと、
くるっ
と手の甲を上にされ、
バッシーン!!
と、叩かれた。
「いった――」
「はい、結構です」
「――って、ええ?! 何――」
「では、障害物競走、頑張ってくださいね」
手をぶっ叩いてミントをスタートラインに戻し、何事もなかったかのようにスタスタと去っていったポリー先生の後ろ姿を見ながら、
「――……オレ、何か悪いことした?」
ミントは疑問符を浮かべながら、ぶたれた左手の甲を右手で擦っていた。
『ほな、学年全員障害物競走を始めるで〜! 全員、気合い入れて天辺の赤旗を手に入れるんじゃぞ!!』
すると、体育担当のエル先生のアナウンスが流れて、
((てっぺん……?))
どこまでも平らなグラウンドを見て、生徒たちが一様に疑問符を浮かべたところで、
『イッツ、ショウタ〜イム!!』
ピストルではなく、エル先生の華麗なる指パッチンが鳴り響いた。
瞬間移動したその先は、ジャングルでした。
「って、えええええ?!」
久しぶりのようなそうでないような展開に、取り敢えず叫んでみるミント。
「あっは……、見事にしてやられたって感じだなァ」
「! ポトフ!」
すると、後ろにポトフがいたことに気が付いた。
「天辺てのは、たぶんあの山の頂上っていう意味だろな。一緒に頑張ろうな、ミント♪」
彼ににこっと笑いかけながら言った後、
「って、あああああ!?」
ポトフも叫んだ。
「え、リアクション遅くない?」
と、ミントが疑問文で対応すると、
「こ、これは……」
「これは?」
ポトフは、青い顔で頭を抱えてうつむいた。
「ココアちゃんと枕パターン……?!」
「……ふむ。やられたな」
海の向こうに沈みかけている夕陽を眺めながら、ジャージというものがなかなか似合っていないプリンがさらりと言うと、
「いや、なんでそんなに冷静なのっていうかどこよここはー?!」
ポトフの予想通り、彼と一緒にワープしたココアが喚きだした。
「少なくともセイクリッド島ではないな」
辺りを見回した後、再びさらりと答えるプリン。
「だったらどこなのよー?!」
再び同じ質問で返すココア。
「……。呼び出し魔法圏外だから、僕たちの生活圏から半径50キロメートル以上離れた場所だな」
呼び出し魔法を試してみた後、三度さらりと答えるプリン。
「! そうだ、プリン、テレポート!」
さらさらと答え続ける彼にぱっと顔を向けたココアが提案すると、
「僕が今いるこの場所の座標が分からない」
プリンはまたまたさらりと答えた。
「えええ? じゃー、どーするのよー?」
困り果てた様子で、ココアがへたりこむと、
「……大丈夫だ。これは障害物競走なのだろう? それなら」
プリンはふっと微笑んで見せた後、ジャングルの向こうに見える山の頂上をすっと指差した。
「! そっか! あの山の天辺にある赤い旗を!」
「うむ。その旗を」
この状況の打開策が見付かり、ぱあっと顔を明るくしたココアに、プリンが頼りがいのある返事をしてみせた。
「誰かが取れば帰れる」
「めちゃくちゃ他力本願ー?!」
ミントがいない今、めでたくメイン突っ込み役となったココアであった。