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学校日和2  作者: めろん
144/235

第144回 大蛇日和

 夏休み明けの国立魔法学校の森の中で、


「……」


「……」


「……」


プリンとココアとポトフの三人は、いずれも綺麗と形容できる顔で驚き、それぞれが青と濃い桃色と茶色の瞳をぱちくりさせていた。


「?」


彼らの正面には、右半分は赤で左半分は緑という派手な髪を真ん中わけにして、ぶかぶかの帽子を被っている男の子が、こちらも黄緑色の瞳をぱちくり。


「あ、ちょーちょ!」


 おめめパチクリ対決を先に放棄したのは、ひらひらと飛んできた蝶々に興味を示した彼、ちっちゃいミント。


「まってー!」


まったくもって届いていない両手を蝶々に向けて伸ばしながら、彼はてけてけ走りだした。


「わあっ?!」


そして転けた。


「……ふえっ……」


後、涙じわ〜。


「ヒール」


「!」


軽く擦り剥いた膝に、彼の隣に膝をついたポトフが回復魔法をかけると、


ぷわ


「わあ……!」


ぷわっと光が傷を包むように光ったかと思うと、綺麗に傷が治ったお膝がこんにちは。


「おにいちゃん、おいしゃさんなのっ?」


すると先程の涙はどこへやら、ミントは瞳を輝かせて自分の膝とポトフを交互に見た。


「それがお兄ちゃんの将来の夢なんだぜェ?」


彼の質問に首を横に振った後、にこっと笑って答えると、


「すごーい! がんばって!」


「あっは、ありがとな♪」


更にミントの瞳が輝いたので、ポトフは彼の頭にポンと右手を載せた。


「ミントの将来の夢は?」


「ん、オレ? オレは……んーとね、んーと……、おはなやさん!」


「お花屋さんかァ。お花が好きなのか?」


「うんっ!」


「じゃァ、ミントはなんのお花が一番好きなんだ?」


「えっとね、マッ――」


ガサガサ


「――ド……?」


微笑ましい会話の途中で、彼の回答を掻き消すように背後で茂みを掻き分けたような音がしたので、不思議に思ったミントが振り向くと、


『『シャアアア……!』』


平均的な成人男性並にでかいヘビ型の魔物がずらり。


「ふえぇぇぇんっ!!」


それにびっくりしたミントが泣きながらポトフにしがみつくと、


「キラキラ」


彼を抱き上げたポトフは、立ち上がるとすぐに魔物たちに向けて光魔法を放った。


ドカアアアアアアアン!!


彼の右手の先から放たれた光線に、魔物たちが一掃されたのを見て、


「わあ……!」


ミントは、再び瞳を輝かせていた。


「おにいちゃん、すごい! やさしいしつよいしかっこいいしで、すごいすごーい!」


「あっはっはっ♪ だろォ、ミント?」


「うん、すごい!! ……て、あれ? そういえば、おにいちゃん、どうしてオレのなまえしってるの?」


「ふふん♪ それは俺が超能力者だからだぜェ?」


「すごーい!!」


 何やら楽しそうに会話してキャッキャと盛り上がっているポトフとちっちゃいミントの後方で、


「……ポトフって、意外と子ども好きなんだねー……?」


「……ふむ」


すっかり忘れられていたココアとプリンが、彼らの様子を眺めていた。


「これなら子どもができても……――って! 何考えてんのよ私のバカバカバカーっ!! だいたいそこにいくまでの過程がまだなのに……――ってぇ!! 更に何考えてんのよ私のバカーーー!!」


何やら自分の頭をポカポカ叩きだした愉快なココアの隣では、


「弱体化の魔法……あの魔力は魔物で、魔法陣を使わない魔物は確か……さっきのヘビ……?」


プリンは、森に入ってすぐにがきんちょ化したミントの謎解きをしようと試みていた。


「――! 下がれ馬鹿犬っ!!」


後、先程の魔物を倒した筈なのに元に戻らないミントを見てはっと何かに思い当たったプリンは、慌てて前方にいる彼らに下がるよう訴えた。


「? どうし―……」


流石に真剣な様子のプリンに食って掛かるようなポトフでもないらしく、ミントを抱えたまま素直に後ろに下がった彼が理由を尋ねようとしたところ、


ドカアアアアアアアン!!


『シャアアアアアア!!』


先程と見た目は同じだが規格外にでかいヘビが、大口を開けて地面から飛び出してきた。


「ふわあああぁあん!!」


迫力満点な登場の仕方をしてくれた上に、迫力満点な姿形を見て、ミントは大泣きしながらポトフにしがみつく。


「……っ……」


その一方で、嫌な予想が的中してしまったとばかりに奥歯を噛み締めたプリンと、


「……ち……」


ポカポカやりすぎて左側頭部と右側頭部が若干痛いココアと、


「……ちっ……」


耳元でミントに泣き叫ばれて耳の奥が若干痛いポトフは、戦慄を走らせながら、その魔物の名を口にした。


「「チャッピィ……!!」」


台無しである。


『シャアアアアアア!!』


 鱗状の皮膚には毒々しい色彩を、ゾウさんくらい余裕で収まってしまいそうなほど大きな口には本物の毒が滴る巨大な牙を持った、かわゆい名前に似付かわしくないその魔物、チャッピィは、ただでさえ細い瞳孔を更に細くして目の前の獲物に鋭い眼光を向け、先の割れた舌をちらつかせながら鎌首をもたげている。


「おい、なんとかしろ超能力者」


「そーだよ超能力者ー!」


「ごほんっ! ……なんとかしろったって、おにィさんじゃあるまいし……」


聞いてたのか、と若干顔を赤くしてわざとらしく咳払いした後、チャッピイを見上げたポトフの言葉を、


「? ポトフのお兄さんならなんとかできるのー?」


ココアが疑問符を浮かべながら聞き返した。


「……まァ、なんて言うか、爬虫類使い?」


それに頷いてみせたポトフは、苦笑いを浮かべながら答えた。

その苦笑いの原因はもちろん、トカゲどころか最近ではなんかドラゴンとまでも仲良くなった彼の育ての親にしてお兄さん的な存在である、爬虫類を見るとついついはしゃいでしまう節がある笑顔が素敵な茶髪お兄さん、ソラ。


「確か、チャッピィって無属性だったよなァ?」


彼がこの場にいたらすぐに万事解決だっただろうにとか思いながら、ポトフはココアを挟んで隣にいるプリンに確認した。


「うむ。ついでに、あいつの毒牙をくらうか締め付けられたら最期だ」


すると、プリンはさらりとそう言った。


「ちょ、最期とか言わないでよー?!」


ので、ココアから反発をくらった。


「む? じゃあ、もって十秒?」


「じゅっ?! もつって……もつって言われたって、十秒で一体何ができるのよー!?」


「ぶう……だから最期だって言ったのに」


「膨れてる場合じゃないでしょー?!」


「ぷわあ!?」


ぶうっと膨れたプリンの頬を両手で挟んで破裂させたココアは、


「あ」


ピコーンと何かを思い付いた。


「ポトフ! 私、いいこと思い付いた!」


ので、ぱっとポトフの方に向き直ってそれを報告した。


「?! こ、ココアちゃん子どもの前でそんな刺激的なこと――」


「おいでミント♪ ダークネスサクリファイス」


何やら変な勘違いをしたポトフからミントを没収した後、ココアはおっかない表情で彼をぶっ飛ばした。


「いーい、プリンとポトフ? あれはおっきくて魔物でもヘビで爬虫類なのー」


ふわあああんと泣き続けているミントにいーこいーこしながら、ココアは獲物に狙いを定めているチャッピィをズビシっと指差した。


「詰まりー♪」


「「……詰まり……?」」


プリンは思い切り挟まれた頬に手を当てながら、ポトフはお腹を押さえて起き上がりながら先を促すと、


「"北風と太陽"作戦だよー♪」


温度変化に弱いでしょー? と、ココアはえへんと胸を張ってそう言った。


「北風と……」


「太陽……?」


プリンが左を向き、ポトフが右を向くと、ばっちりぶつかる二人の目。


「……ふっ、北風の圧勝だな」


「あっは、太陽が勝つに決まってんだろ?」


その後、例のごとくバチィッと火花を散らす二人。


「神風!!」


「キラキラァ!!」


ドカアアアアアアアン!!


こうしてチャッピィと戦い始めたプリンとポトフの後方で、


「単純単純ー♪」


ココアは引き続き、ちっちゃいミントの頭をいーこいーこと撫でていた。

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