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学校日和2  作者: めろん
143/235

第143回 尾行日和

 夏も終わりに近付いて、だんだんと涼しくなってきた今日この頃、


「……お前ってホント相変わらずだよな。年甲斐もなく」


撥ねまくった肩下までの赤髪を後頭部でひとつにまとめて伊達眼鏡をかけている、ミントの父親でシャイアの兵士の長である彼、シャーンは、本来敬語をふんだんに使うべきである人物に、テーブルに頬杖をつきつつ溜め息混じりにそう言った。


「いひひ♪ だってオレ、永遠の十二歳だもーん♪」


それをまったく気にすることなく、彼の向かいの席に座り、新聞を広げている帽子を被ってサングラスをかけている銀髪の国王、ルゥがにやりと笑って答えた。


「緊急の用事だって言うから慌てて言う通りに変装してやったと思ったら……」


こういうことか、と呆れたように付け足しながら、シャーンは自分たちの席からほどよく離れたところでお茶しているわが息子にライトグリーンの瞳を向けた。


「ふっふっふっ、彼女ができたんならオレに早く言えよな〜ミント?」


ルゥは、広げた新聞を読むふりをしながら顔を隠し、ミントの向かいの席に座っている金髪美少女、チロルにブラウンのグラス越しに紫の瞳を向けた。


「じゃあ、次はお店見てまわろっか」


「うんっ♪」


――この国においてトップクラスの権力を持つこの二人は、本来の仕事をほったらかしにしている上に、デート中のミントとチロルを尾行しているのであった。


「おお! 目標に動きが! シャーン、行くぞ!」


「……。見つかっても知らねーぞ?」


そして、なんだかんだ言ってもルゥの従者であるシャーンは、彼に逆らうことができないのであった。


(こいつ、はやくも周りが見えなくなってるしな。今こんな見る奴が見ればバレバレな変装してるルゥを一人にしたら危険……なんだが……)


ドキドキわくわくと顔を輝かせているルゥに腕を引っ張られながら、シャーンはちらりとミントに目を向けた。


(見つかったら、俺、確実に殺されるんだろうなぁ)


と、何かを諦めたように、爽やかに微笑みながら。













「つ〜まんね〜……」


 駅の近くでお食事してシャイアの大通り沿いの店を見て回り、今度は映画館にやってきたルゥは、


「お年頃な選択したわりには(きよ)いデートしくさりおってからに……っ」


顔は可愛くてスタイルも抜群なチロルを彼女に持つミントに、期待はずれだと言わんばかりに念を送っていた。


「……何を期待してたんだお前は?」


そんなルゥの隣で、頬杖をつきながら大画面に目を向けているシャーン。


「そりゃもちろん、十八禁的なドキドキきゃっきゃウフフいやんばかんって感じのピンク色な展開を」


「お前もあの二人も十八じゃねえだろ」


「これじゃつけてきた意味ねーじゃんかー!」


 ぶーぶーとブーイングをかますルゥに突っ込みを入れながら、


『し! 静かに! 追っ手がやってきた!』


『怖いわボブ!』


『安心しろ、あれはただの宇宙人だ、アリエッタ!』


(これ、確か恋愛ってジャンルだったよな?)


シャーンは、疑問符を浮かべていた。

彼の思った通り、この映画は、感動の超大作"ボブとアリエッタ"のファイナルエディションで、ジャンルは恋愛。


『ゲヘヘ、甘いな。我々は地底人だ!』


(地底人て、ジャンヌと同じ笑い方すんのな)


『な、何っ?!』


バキュンバキュン


『ゲヘヘ、甘い、甘いぞ人間!』


ぶくぶくーっ


『とっ、溶けて避けただと!?』


(……。つーかむしろジャンヌが地底人なのか?)


『貸して、ボブ!』


『アリエッタ!』


(ヒロインが戦っちゃうんすか)


バキュンバキュンバキュン


ズバババババババババババ


ドカーンドカーンドカーン


ズドオオオオオオオン!!


バコオオオオオオオン!!


ドキャアアアアアアン!!


(……。最近の恋愛映画ってすごいのな)


爆発音が激しさを増し、恋愛というジャンルがいよいよ怪しくなってきたシャーン。

が、しかし、この映画館でその点を気にしている人物は、不思議なことに彼と彼の息子しかいなかった。


『やったわ! 地底人を倒したわ!』


『すごいよアリエッタ!』


だから、


『……ボブ……』


『……アリエッタ……』


と、急に恋愛モードに切り替わっても、


(いやいやいやいやいや)


なんて思ったのは、シャーンとミントだけ。


(お? いつの間にやら盛り上がってんなー)


 変な念を送るのに飽きたルゥが画面に目を戻すと、大画面上でボブとアリエッタが熱烈きっす。


(! まさかこれが狙いだったのかミン)


そのまま倒れこんで画面から外れたボブとアリエッタから目を離して、この映画は雰囲気作りの為だったのかと気付いたルゥは、期待に輝いた瞳を再びミントに向けた。


(ト……って)


しかし、ミントは夢の世界へと旅立っていた。


(……ホント似てるなぁ、お前ら)


すかーっと眠るシャーンとミントを見比べながら、苦笑いを浮かべるルゥであった。













「はいチロル、誕生日おめでとう」


「わあ! ありがとう、ミントきゅん!」


 映画の途中で寝たことがバレていないのか、二人は特に気分を悪くした様子もなく家の近くの公園へ。


「家に連れ込んで獣のごとく襲い掛かると思ったら、このピュアミントめ……」


「いや家にはメルヘン崇拝者のフランとマロとそのペットの夢魔がいるから無理だろ」


そして二人は、同じく家の近くの公園へ。

夕暮れ時もあってか、ひとけのない公園には、ヒグラシの鳴く声だけが響いている。


「屋外で襲う気なのか!」


「……。永遠に若いって大変なんだな?」


茂みに隠れながらミントとチロルの様子を窺っているテンションの高いルゥとは対照的に、突っ込み疲れたのか、テンションの低いシャーン。


「わあ! 可愛い!」


「て、今度は何を始めたんだよお前?」


 突っ込みを入れ続けるシャーンをよそに、ルゥはチロルの動作に合わせて声を吹き込み始めた。


「ありがとうミントきゅん! アタイとっても大切にするね!」


「そしてなんで彼女の口調知ってんだよ」


「気に入ってくれてよかったぜよゲヘヘ」


「そしてなんでミントがジャンヌ口調なんだよ」


「アタイが大好きなミントきゅんから貰ったんだもん、気に入るに決まってる〜みたいな♪」


「ホントにそんないつぞやのコギャル口調なのかミントの彼女は」


「だ、大好きって……照れるでごわす」


「いや、口調統一しろよ」


「あ〜あ、今日は帰りたくないなぁ〜」


シャーンの突っ込みを鮮やかにスルーしながら、何故かチロルの口調を知っている、チロルの名前も知らないルゥは、感じたまま思いついたままに台詞を勝手に付けていく。


「な、何言ってるでアルか?! 大歓迎でアルよ!」


「……。後半は言ってないと思うぞ」


「ホントに?! アタイ嬉しいっ♪ じゃあ、今夜は泊まっていくね♪ ……あっ! やばっ、もうこんな時間!」


「いろいろと支離滅裂だなオイ」


「え? もう帰っちゃうでヤンス?」


「……はあ……」


楽しそうなルゥに、もう好きなだけやっててくれ、と背中を向けてその場に腰を下ろして空を見上げるシャーン。

一番星見ー付けたー。


「うん、もうそろそろ帰らなきゃ……ごめんねミントきゅん。――用事があるなら仕方ないザマス。――うん……あ、ねえ」


ルゥの瞳に、ミントに顔を近付けてにっこりと笑ったチロルが映る。


「記念にちゅーしよっV」


「なんの記念だ」


一番星を見上げながらも、やっぱり突っ込まずにはいられなかったシャーン。


「へ!? ……もう、しかたないぴょん。ゲっヘっヘっ♪」


「うっわぁ、台詞だけ聞いてると俺の息子超変態」


「……っも〜、ミントきゅん、アタイ、今日の映画みたいなぶっちゅ〜〜〜って熱烈なヤツがいい〜みたいな〜」


「その表現はどうだろう」


「にゃにゃっ!? そそそそんにゃことしたら、オレもうどうにも止まらなくなっちゃうにゃーよ?!」


「なんで猫だよ」


「は〜や〜くぅV」


「つかお前、そんな顔出してていいのか?」


「……どうなっても、知らないぜ?」


シャーンの疑問が耳に入らないくらい盛り上がっているルゥは、声のトーンを落として自分なりにかっこいい声を出してそう言った。


「……? ?! る、ルゥ様っ!?」


 そして、ミントの動きに合わせて彼に台詞を吹き込んだ後、


「「って、……え?」」


シャーンと一緒に、只今の事態に気が付いた。


「ししゃ、しゃしゃしゃ、シャーン?」


直後、滝のように流れる冷や汗。


「おおおお、おう、なんだルゥ?」


伝染する冷や汗。


「な、なんかな? 今オレすーげぇヤバイ気がすんだけど」


青を通り越して白くなる顔色。


「お、おう。気がしなくてもすーげぇやべーと思うぞ?」


伝染する顔色。

そんな二人に向けて、顔を真っ赤にしているチロルのお隣で、ミントがにっこりと、それはそれはとっても素敵に笑ってみせた。


「ななな、なあ、オレの変装に希望を持っていいかなぁ?」


「は、ははは、そんな希望は捨てた方がいいぞ?」


「そこの二人」


「「は、はいいっ!!」」


そして、話し掛けられた。


「こんばんは」


「「こ、こんばんは」」


「だいぶ涼しくなってきましたねぇ」


「「そ、そうですね」」


「風邪引かないように気を付けなくちゃですね」


「「そ、そうですね」」


「では、オレ、これからチロルを駅まで送ってきますので」


「「そ、そうです――」」


「さようなら」


人生に。


「さ、行こっか」


「う……うん……」


夏の公園の茂みの中に、一足先に突如咲き誇った二輪の彼岸花を残し、ミントとチロルは何事もなかったかのように去っていったのであった。

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