第134回 無言日和
「……相変わらずだねぇ」
いつものごとく左手にコーラを持ったミントは、いつものごとく順位表のトップ3に名前を挙げられている友人三人に向けてそう言った。
「……照れる」
「いやいやいや―…」
「ま、これもココアちゃんと三人の子どもの為だしな♪」
「―…って、何言ってんのよー!?」
すると、学力ベスト1と2と3が、思い思いにコメントした。
「? やっぱり四人がいいかな?」
「いや何が"やっぱり"なのって言うか数の問題じゃないって言うかあーもーバカバカバカー!!」
いつものごとく何か言っているポトフとココアと、
「む、でもミント十番」
「いや、でもそれ九割型プリンのおかげだし」
「ううむ。ミントの実力」
「あーもー、いいひとだなもぉ」
「……照れる」
いつものごとく会話するプリンとミント。
「えーと? 他にはアロエがココアと同じ順位で、次にサラダとチロ―…」
ピュッ
そして、いつものごとくハプニングが発生した。
「む。ミント消えた」
「って消えたーーー?!」
何やらプリンのリアクションがえらく薄かったので、ココアが仕切りなおしという具合に驚くと、
「うむ。今の感じから、魔法の失敗による空間の歪みが原因だな」
プリンは、敵意ある者の仕業ではない為か、落ち着いて状況を説明した。
「失敗による空間の歪みー?」
「魔法を失敗すると、ごく稀に空間に歪みが出来るんだぜェ? で、その歪みが生じたところにたまたま立ってたミントが、……ミントが……」
小首を傾げて疑問符を浮かべたココアに、ポトフは優しーく説明している途中で、
「っミントォォォォ!!」
どぴゅーん!!
何かが限界に達したのか、回れ右して駆け出した。
キキッ
と思いきや、急ブレーキをかけて停止した。
「枕テメェ、俺がいないのをいいことにココアちゃんに手ェ出したらただじゃおかねェからな?!」
くるりと振り向いてプリンのことをズビシっと指差してそう言った後、
「じゃァ、ちょっと行ってくるぜココアちゃん♪ っミントォォォォォォ!!」
にこっと笑ってココアに行ってきますを言い、必死な形相でミントを探しに駆け出した。
「相変わらずだねー、ポトフはー?」
「……。手?」
「……相変わらずだねー、プリンもー?」
ころころと表情を変えるあわただしいポトフを見送った後、素で自分の手を見て小首を傾げたプリンに、苦笑いを浮かべるココア。
「でも、プリン、ミントが消えちゃったのにぴわ顔にならないなんて珍しいねー?」
「うむ。魔力の感じから、ミントは王都、シャイアに向かっている上に」
ぴわ顔? と疑問を抱きつつ、プリンは枕を抱えなおした。
「テレポートは元いる場所だけではなく、移動先も固定されていないと使えないからな」
しゅぱんっ
「―…ルが続いて……て、え?」
順位表を見ていた筈が、突然風が吹き抜ける船矢倉の上に立っていたので、ミントは素直に驚いた。
びゅう
ついでに、強風に煽られて帽子が飛んでいった。
「って帽子いいい?!」
それを慌てて追い掛けようとして一本踏み出そうとしたところで、
「って、うわおい!?」
すぐ目の前に一人の少女が座っていることに気が付いた。
「……」
船矢倉から降りる為の梯子のかかっているところにちょこんと座っているミントと同い年くらいのその少女は、白銀の見事なまでのおかっぱ頭に紫色の大きなリボンをつけていて、膝の上に何故か水晶玉を載せている。
彼女は、半開き状態の紫色の無機質な瞳を突然横に現れたミントに向けていた。
「あ……こ、こんにちは」
ので、ミントが取り敢えず挨拶をすると、
「……」
少女、無言。
「え、えーと……ここってどこなんですか?」
予想外のシカトに若干傷つきつつも、ミントが現在地を質問すると、
「……」
少女、再び無言。
「あ、あの……オレ、何故かいきなりこんなとこに移動しちゃったんですけど」
「……」
少女、更に無言。
「……。いいお天気ですねぇ?」
度重なるシカトに若干泣きそうになりながら、ミントは青い空を見上げながらそう言った。
「……」
こくり
「!」
すると、少女がこくりと頷いた。
「よかったぁ、これもシカトされるんじゃないかと思ったよ。流れ的に」
安堵のあまり心の声がだだ漏れているミントは、
「えと、オレはミント。キミの名前は?」
ようやく質問が出来るような気がして、取り敢えず自己紹介した後で名前を尋ねた。
「……」
が、しかし、
「……」
「……」
「……」
「……」
超無言。
「……もしかして、キミ、喋れないの?」
無言かつ無表情な彼女に、ミントがもしやと思って聞いてみると、
「……」
ふるふる
少女は、ふるふると首を横に振った。
「じゃあ、どして喋らないのさ?」
その答えを見て、ミントが疑問符を浮かべながら更に聞いてみると、
「……」
「……」
「……?」
「いや、分からないのかよ?!」
少女が顎に右手を当てて少し考えたような素振りを見せた後に首を傾げたので、ミントは思わず突っ込んだ。
「……」
すると、
「………………バニラ」
少女がぽつりと呟いた。
「へ?」
突然の発言に、ミントが、へ? と聞き返すと、
「……」
少女は、相変わらずの無表情。
「……えっと、それが、キミの名前?」
どうやら多くは語らない、と言うか、滅多に口を開かないらしいと彼女のひととなりを判断したミントは、敢えてイエスかノーかで答えられるように聞き返した。
「……」
こくり
イエス(頷き)かノー(首振り)か。
「そっか。よろしく、バニラ」
「……」
こくり
こうして、突っ込み少年、ミントと極度の無言少女、バニラは出会ったのであった。