第130回 実り日和
『む〜む、むむむむぅ、む〜むぅ、むぅむむむ、むぅむむ〜むぅむ〜むむぅむむむむぅ、むむ〜むむ〜む、むむむむぅ、む、む〜む』
あれ? "む"ってなんだっけ? と、軽くゲシュタルト崩壊を引き起こしそうな長文を初っぱなからかましてくれたのは、"む"しか言えない丸っこい魔物、夢魔。
「えっと……何を言っ、むぐ?」
「マロ」
そんなこと言ったら繰り返されるか更に分かりやすく説明する為に"む"が増えるだけだろ、と、ミントは素直に聞き返そうとしたアオイの口を左手で塞ぎ、夢魔語を解読できるマロに助けを求めた。
「まろ。その子の話をまとめると、黒い服を着た人、詰まり、魔法学校の生徒まろね。その人たちがしばらく前に、夢魔たちにとっての主食が成る木の幹に埋まっていた、緑色に光る石を取っていったそうまろ。そしたらだんだん実が成らなくなって、ついには木が枯れちゃって食糧難になったから、原因を作ったと思われる学校を襲った、って言ってるまろ」
こくりと頷いた後、マロはすらすらと夢魔語を和訳した上に、彼女なりに分かりやすく説明してくれた。
「? 緑色に光る石?」
疑問符を浮かべながら小首を傾げるアオイの隣で、
(……。バース……)
ミントは、魔力を宿した不思議な石の回収という、いつぞやの課題を思い出していた。
「! おにいさん!」
「おかえりなさァい!」
洞窟を出ると、ちっちゃいプリンとポトフはぱあっと顔を明るくしてミントに駆け寄った。
「むぅちゃん何があったまろかあああああ?!」
同時に、マロは何故かズタボロになって目を回している夢魔に駆け寄った。
「ただいま。ちゃんといい子にしてた?」
「「うん!」」
元気いっぱいに頷いた二人の頭をよしよしと撫でるミントの隣で、
『……きゅ〜……』
「むぅちゃん! 目を覚ますまろ!! 傷は浅いまろよ!?」
くるくると目を回しているむぅちゃんを起こそうと、マロは彼女の頬をペチペチ叩いている。
『む〜』
そんななか、ミントたちとともに洞窟から出てきた夢魔が、洞窟の前にある枯れた木の前まで来ると、そこで歩を止めて小さく鳴いた。
「ミント、この木みたいだよ」
ので、夢魔の後ろを歩いていたアオイが、ミントを振り向いてそう言った。
「あ、うん」
それに応答し、立ち上がって枯れた木まで移動するミントと、彼にてててとついていくちっちゃい二人。
「むぅちゃん?! むぅちゃーん!?」
その間にもむぅちゃんを覚醒させようと試みるマロ。
『むぅ?! むぅ!? むぅ?!』
彼女の平手打ちにより、徐々に原形を失っていくむぅちゃん。
「……なるほど。ここにあった石を取っちゃったんだね?」
『む〜』
木の幹に小さな窪みを発見し、そこに手を当てたミントが確認すると、夢魔はこくりと頷いた。
「?」
それを見たミントが更に木の様子を調べている間、アオイは、彼の足に隠れながらこちらを見ているちっちゃい二人に気が付いた。
「こんにちは」
そんな彼らと目線を合わせながらくすりと笑って挨拶をすると、
「「こ、こんにちは」」
緊張が解けたのか、二人はミントの足から手を離してアオイに挨拶を返した。
「他に原因らしい原因が見当たらないとなると、この木はやっぱりバースに依存してたんだね。詰まり、この木を枯らしちゃったのはオレたちのせい。勝手なことして、本当にごめんね」
ほのぼのとした空間が足元で漂うなか、ミントは夢魔にごめんなさいと謝罪した後、木に触れている左手に魔力を込めた。
ぶわっ!
「『!』」
その手がぱあっと黄緑色に光ったと思った次の瞬間、枯れた木は緑を取り戻し、青々とした葉の間に瑞々しい赤い実を実らせた。
『むむ〜!』
「……でも」
目の前で起こった不思議現象に、円らな瞳を輝かせて喜んでいる夢魔に、
「この木に頼ってばかりじゃダメだよ。木の実を食べたなら、種があった筈でしょう?」
ミントは木から手を離してそう言った。
「プクゥは改良されてない自然の木。だから、種を蒔いたらある程度は芽を出してくれるんだよ?」
『むぅ?』
ミントの説明にからだ全体を傾けて疑問を表現した夢魔を見て、
「はい」
彼は、プクゥという名の木に成った赤い実をひとつ積み、それを夢魔に差し出した。
『むむぅ♪』
すると、喜んでそれを食べる夢魔。
もくもくもくもく
ぺっ
「それ」
『むゅ?』
ぺっと吐き出された小さな種を、ミントはズバっと指差した。
「それを日当たりのいいところに捨てておくとアラ不思議。だんだん成長してプクゥの実がぎょーさんぎょーさん」
『むむ?! むむむぅ!?』
「そそ。ぎょーさんぎょーさん」
『むむむ〜む、むむ?!』
「ホントのホントだよ」
『むむむぅ、む〜!!』
「あはは、どういたしまして」
勿論、何を言っているのか分からないミントは、雰囲気だけで会話する。
「じゃ、約束通り、みんなを元に戻してくれる?」
その後、ミントは大切な約束を切り出した。
『むぅ! むむ〜!』
すると夢魔は頷いて、青空に向かって大きく鳴いた。
ぼわん
「……む?」
「はェ?」
すると、プリンとポトフが元の姿に戻ったので、
「まろとデートしてまろおおおおおおおおおおおV」
「おおォ?!」
「ぴわわ!?」
むぅちゃんそっちのけで、マロはミントのイケメンセクシーフレンドに飛び付いた。