第13回 お休み日和
髪型も服装もバッチリ決めたら、鏡に映った自分に向かって胸キュンスマイル(ポトフ命名)。
「おし♪ ミントォ!」
自己確認が済み、鏡から離れると、ポトフは観葉植物に水をあげているミントの元へ移動した。
「? 何?」
『『シュラララララ!』』
すると、ミントと観葉植物が振り向いた。
「って、マッドホイップゥ?!」
「ううん。マッドプラントの赤ちゃんだよ。可愛いでしょ?」
驚いたポトフに、ミントは水さしをテーブルに置きながらそう言った。
『『シュラララララ!』』
彼の隣で、小さな鉢植えに入っているマッドプラントは、小さいながらも青い舌を垂らして危険に笑っている。
「……。な、なァ、ミント?」
可愛いというか恐怖心しか抱けない上に、前に置くなって言ったじゃん、とは決して口に出さない優しいポトフ。
「ん?」
「俺、かっこいい?」
ミントが小首を傾げると、ポトフはその場でくるりと回り、右手の親指と人さし指の間に顎を当てた。
「……」
突然何を言い出すんだこのナルシストは、と思っている途中で、
「あ。う、うん! すっごくかっこいいよ!」
何かを思い出したのか、ミントはこくこくと頷いた。
「あっはっはっ! だよなァ♪」
「うんうん! かっこよすぎてココア困っちゃうんじゃないかな?」
にこっと笑ったポトフに、ミントもにこっと笑ってみせた。
「――!!」
衝撃。
「? ポトフ?」
突然石化した友人の名を不思議そうに呼ぶと、彼はおもむろにクローゼットを開け、体操服を手に取った。
「って、なにゆえジャージ?!」
それに着替えようとした彼を、慌てて止めるミント。
「だって、ココアちゃんが困っちゃうって―…」
「だからって、なんでよりによってジャージ?! しかもなにゆえ半袖半ズボン!?」
「少年らしさをアピールしてみようかなと」
「あーもー! いいから早く行きなよ、遅刻しちゃうよ?!」
彼の手から体操服を奪い取ったミントは、壁に掛った時計をズビシッと指さしてそう言った。
「おォ!? ヤッベェ! い、行ってくるぜ!!」
時計を見たポトフは、急いで部屋の扉を開けた。
『む〜!』
すると、何処からかむぅちゃんがトコトコとついて来たので、
「おォう!? それはイケナイぜ、むぅちゃん!!」
ポトフは慌ててむぅちゃんに言った。
『む〜?』
不思議そうに彼につぶらな瞳な瞳を向け、体全体を右に傾けるむぅちゃん。
「邪魔しちゃ駄目だよ? むぅちゃんはお留守番してるの」
『ふゅむ』
そんなむぅちゃんを両手で捕まえたミントは、
「行ってらっしゃい、ポトフ」
彼に向けてにこっと笑ってそう言った。
「おう! ごめんな、むぅちゃん? 行ってきまァす♪」
すると、ポトフは元気よく駆けていった。
「あ、そうそう」
と思いきや、彼はくるりと振り向いた。
「ミント、紫の薔薇をプレゼントしようと思うんだけど?」
「"哀愁"」
「……やっぱ赤薔薇にしとくぜ」
「そうしときなさい」
ミントに紫の薔薇の花言葉を聞くと、ポトフは今度こそ走り去っていった。
『む〜?』
「ポトフはね、今日、ココアとデートなの」
何を言ったのかは分からないけれど、そう聞かれたような気がしたミントが答えると、
『む!』
むぅちゃんは短い両手で顔を隠した。
勿論、隠し切れていないけれど。
コンコン
「『?』」
部屋の奥から小さな音がして、不思議に思ったミントとむぅちゃんは、疑問符を浮かべながらそちらに向かった。
コンコン
「ぐー」
音の正体は、フクロウ。
まだぐうぐうと眠っているプリンの近くにある窓を、一羽のフクロウが外からつついていた。
「……手紙? 珍しい」
その窓をパカッと開け、フクロウが背負っていた手紙を受け取るミント。
『ホー』
郵便物を渡すと、フクロウは華麗に飛び去って、
『む〜!』
『ホホー?!』
行こうとしたが、むぅちゃんに捕まってしまった。
「全部オレ宛てだ」
そう呟いて、ミントは一枚目の手紙を裏返した。
"ジャンヌ=ブライト"
「うわ?!」
差出人の名前を見て、ミントは勢いよくテーブルにそれを叩き付けた。
その後、自分は何も見ていないと自分自身に言い聞かせ、ミントは二枚目を裏返した。
"シャーン=ブライト"
「……」
大体予想がついたのか、ミントはノーリアクションで手紙を開いた。
[変な人に住所教えるな]
シンプル・イズ・ベストな手紙を閉じて、ミントは最後の手紙を裏返した。
"ルクレツィア=シャイアルク"
「?! ルゥ様!?」
この国の王である彼からの手紙に驚きながらも、ミントは封を開けた。
[やっほぅミント! 特に気になってないけど、一応聞いとくぞ。元気か? オレはバリバリ元気ぞよ。ってかなんだよ、あのドラゴンとフランスパン! めっちゃ強いじゃねえか! 偉いぞ、ミント! よくぞ住所教えてくれたな! でさでさ……]
ミントが口語で書かれたの長ったらしい手紙を読んでいる時、
「……む……」
プリンがむくりと起き上がった。
「……ぷわ……ねむねむ」
今起きたばかりなのに、眠そうに欠伸をしたプリンの目に、
「む?」
一枚の手紙が映った。
それに興味を持った彼は、枕を持ったままそちらに移動した。
ててて
「……ジャンヌ=ブライト……」
それを手に取って、書かれた文字を読み、ミントの手紙か、とプリンが理解すると同時に、
「呼んだ?」
「ぴっ?!」
何処からかミントではない声がしたので、彼は驚きの声を発した。
「だ、誰っ?」
プリンがキョロキョロと辺りを見回しながらそう言うと、
「何処見てんのよ? 此処よ、此処。あんたの手元」
先程の声がした。
「て、手も―…」
プリンがゆっくりと自分の手元に目を向けると、
どろり……
「っヤーーーーーー!!」
手元にある封筒からどろりとした液体が漏れ出していたので、プリンは絶叫しながら手紙を投げ、ミントの背中にしがみついた。
「?! お、おはよう、どうしたの、プリン!?」
手紙を読んでいたミントが驚いたように尋ねると、
「て、手紙のオバケ!」
プリンは震えながら前方を指さしてそう言った。
「? 手紙のオバ―…」
ミントがそちらに目を向けると、
ぶくぶくーっ
「ゲヘヘ―…」
すると、何やら手紙の中から漏れ出した液体から女性が発生したので、
「プリン、テレポート」
「う、うむ! テレポート!!」
ミントはプリンにそれを瞬間移動させてこの部屋からいなくなってもらい、綺麗さっぱり見なかったことにした。