第129回 主役日和
ピエロ少女、マロの、えらくリアリティーのない攻撃魔法が終了すると、
「どーおだっ♪」
もうもうと立ちこめている爆煙を見ながら、マロはえへんと胸を張って仁王立ちした。
「な、何やらすごい魔法だったね?」
痛みが治まってきたのか、ミントがゆっくりと立ち上がると、
「当然まろ。今のはまろの中で一番魔力を消費する一番強い魔法まろっ!」
マロは、こちらを向いてにこっと笑いながらそう言った。
――直後、
『むぅ……む〜』
「え」
夢魔の鳴き声が、聞こえてきた。
『むむ』
『……むぅ』
『む〜……』
しかも、複数。
「マロさんマロさん。魔王様が最強魔法をお使いになりはったのに、まったく倒せてませんよ?」
それを見て固まったマロにミントが言うと、
「そ……そんな筈は……、あ! そ、そうまろ! きっと数が多かったからまろ! さっきの魔法はもともとは対勇者御一行用の魔王お約束の一撃でパーティー全員の体力をギリギリまで減らす為の魔法まろ! だから四人以上になるとキツかったんだまろ!」
彼女は冷や汗を掻きながら言い訳を言い出した。
「へ〜え?」
「ま!? な、何まろその目は?! 信じてないまろな!?」
必死に弁解する彼女をじとーとした目で見るミント。
「まろ〜、こうなったら、秘奥義を使ってやるまろっ!」
すると魔王のプライドというものがあるのか、マロは、残り少ない魔力を振り絞り、秘奥義なるものを持ち出した。
「勇者召喚!!」
と思いきや、プライドもへったくれもなかった。
ぶわんっ
「うわあ?!」
魔王が勇者を喚んじゃった。
「! アオイ!」
「いたた……あ、ミント。おはよう」
ミントが勇者、アオイの、ワープホールからの登場に驚いていると、彼はくすりと笑ってミントに挨拶をした。
「あ、うん。おはよ」
ので、思わずつられて挨拶を返してしまったミント。
「あおぴょん、助けてまろ!!」
プライドなんてくそ食らえなマロ。
「え?」
突然助けを求められ、小首を傾げるアオイ。
「どうしたの―…」
「伏せてアオイ!!」
「…―?!」
バシーン!!
事情を聞こうとしたアオイに襲い掛かろうとしていた夢魔を、ミントが呼び出した薔薇の鞭で迎え撃った。
「え? むぅちゃんが増えてる?」
吹っ飛んだ夢魔と、その先に見える複数の夢魔たちを見て、ぽこぽこと疑問符を浮かべるアオイに、
「あれはむぅちゃんじゃなくて何故か凶暴化した夢魔まろ!」
「それで、取り敢えずおとなしくしてもらう為にアオイに来てもらったんだよ」
マロとミントが、簡潔に状況を説明した。
「? あの、むぅちゃんのそっくりさんたちを、おとなしく?」
が、やはり伝わらなかったようで。
「いい? 見ててアオイ」
まあ、それは仕方がないと言ってしまえば仕方がないと思ったミントは、再び向ってきた夢魔をギリギリまで引き付け、
『む〜!』
ドゴオオオオオオオン!!
夢魔に、クレーターを作らせた。
「……わあ……」
思いもしなかった光景に、くすくす笑いが特徴的なアオイの顔も、流石に引きつった。
「だから、お願い!」
タッと彼の後ろに着地したミントが、油断なくローズホイップを構えながらお願いすると、
「う、うん。分かった」
アオイは、こちらの世界に召喚されたと同時に装備された、銀色に美しく輝く剣を背負っている鞘からすらりと抜いた。
こうして、お互い背中を任せる形になったミントとアオイを見て、
「……。やっぱり女の子に見えるまろ」
マロは何か呟いた。
「オレは男だ!」
「僕は男だよぅ!」
それが聞こえてしまったらしく、ミントとアオイが同時に反論した。
『『むむ〜!!』』
そんな隙を見逃してくれるほど優しくはない夢魔たちは、全方向から一斉攻撃を仕掛けた。
「って、言ってる場合じゃないね」
「うんっ」
ので、二人はそれぞれの武器を手に、夢魔たちに立ち向かっていった。
そうして、夢魔の拳の音とそれを剣で防ぐ音や鞭で弾き返す音が洞窟内に響き始める。
「まろろ……」
そんな彼らを見て、魔力がなくなって地面に座り込んでいるマロは真紅の瞳を輝かせ、
「まろ、囚われのお姫様みたいまろー!!」
テンション高めで何か叫んだ。
ヒュバアアアアアアン!!
「まろほぉ?!」
すると、流れ弾ならぬ流れ鞭が飛んできた。
「あ、ごめん。当たっちゃった?」
彼女に謝りつつも、再び真剣な表情で鞭を夢魔に向けて走らせるミント。
どうやら、本当に流れ鞭だったらしい。
「マッド!」
『『ジェララァ!!』』
薔薇の鞭でぶっ飛ばし、先程のマロの攻撃魔法のおかげもあってか、洞窟の壁に激突して、きゅ〜と伸びた夢魔を、右手に装備したマッドホイップで回収するミント。
ごっくん♪
夢魔がマッドに丸呑みされる、なかなかのショッキング映像。
『む〜!!』
「っ、えいっ!」
そんな彼の後方で、振り下ろされた拳を剣で弾き返した後、アオイは隙の出来た夢魔に剣を振り下ろした。
『むむぅ!』
が、
パシィッ!!
夢魔に、見切られた。
「え?」
長い耳で剣を挟んだ、詰まり、真剣白刃取りを見事に決められ、驚いたアオイは隙だらけ。
『むむ〜!!』
「――!」
ドゴオオオオオオオン!!
よって、そこにやって来た別の夢魔の拳が思い切りヒットした。
『『むむぅ?!』』
夢魔に。
「あ、思わず盾にしちゃった……」
殴られた方の夢魔と殴った方の夢魔が不測の事態に驚いているなか、自分の剣を挟んでいた夢魔を盾にしたアオイは、
「えっと……ごめんね。えいっ!」
動きが止まっている二匹に剣を振り下ろした。
「はあっ!」
「えいえいっ!」
「蓮華!!」
「みじん切り!!」
そんなこんなで、やがて鞭と剣を振るう音しか聞こえなくなると、
「ま、ろろ……これも一重に、最初のまろの最強魔法があったおかげまろね!」
流れ鞭を食らって腫れ上がった頬を押さえながら、マロは自分の強さを誰にともなくアピールした。
「これでぇ」
「最後だよっ」
「「たあ!」」
その声が聞こえなかったのか、そんなマロを相手にすることもなく、ミントとアオイはそれぞれ同時に最後に残った夢魔をぶっ飛ばした。
『『……きゅ〜……』』
「……ふうっ、お疲れアオイ」
「うん。ミントもお疲れ様」
くるくると目を回している夢魔を確認した後、武器をしまいながらお互いを労うミントとアオイ。
「じゃあ、怒ってた理由を聞かなくちゃね」
そう言って、ミントはマッドホイップを見た。
『ジェロロロロ』
夢魔がマッドから吐き出される、なかなかのショッキング映像。
「さ、どして学校を襲ったのさ?」
何やらベトベトした未知の液体まみれになっている夢魔を見て思わず身を退いてしまったアオイとマロをよそに、ミントは彼らに理由を尋ねた。




