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学校日和2  作者: めろん
127/235

第127回 むむむ日和

『むぅむぅ……むう!』


ちょこちょこちょこちょこ


「「わー……!」」


 辺りのにおいを嗅ぎ分けながら、ちょこちょこ歩く淡い紫の丸い魔物、むぅちゃんの後を、目を輝かせながら追い掛けるのは、プリンとポトフ。


「夢を吸収するなら、なんでオレだけなんともないんだろ?」


そんな一匹と二人を見ながら、ふと疑問を口にしたのは、その後を歩くミント。


「それは、みんとんが見た夢に関係があるまろ。夢魔は、幸せな夢を好むまろ」


ミントの隣を歩きながら彼の疑問に答えたのは、ピエロ少女、マロ。


「詰まり、みんとんは夢魔が嫌いな不幸な夢を見てたまろ」


「わは〜、夢まで不幸体質なのオレ?」


見た夢を覚えているわけではないけれど、マロの言葉に爽やかに落ち込むミント。


「じゃあ、弱体化させたのに襲ってこない理由は?」


が、落ち込んでいる場合ではない。

ミントは再びマロに質問した。


「人間は夜から朝にかけて夢を見るまろ? 夢魔は本来、夜行性まろ。だからきっと、今日の夜に奇襲するつもりまろ」


その問いに、マロは、目の前を短い足でちょこちょこ歩く、本来持っていた筈の習性がすっかり狂ってしまったむぅちゃんを見ながらそう答えた。


『む〜!』


 そうしてしばらくすると、むぅちゃんは足を止めて大きく鳴いた。


「「!」」


それに従って足を止めたミントとマロは、目の前にある、山の中の急な斜面にぽっかり空いた、大きな穴に目を向けた。


「え? 何この不自然な洞窟?」


明らかに自然にできた感じのしない洞窟に、ミントが疑問符を浮かべると、


「ここが夢魔の根城まろ。ね、むぅちゃん?」


『む〜』


マロが質問に答え、むぅちゃんが前足で洞窟の中をピンピンと指差した。


「どうくつだ!」


「どうくつ!」


「キミらはここでお留守番」


「「ええ〜?」」


洞窟に入る気満々のプリンとポトフの襟首を引っ掴んでミントが言うと、彼らは口を尖らせた。


「むぅちゃんもここでお留守番まろ」


『むぅ?』


その隣でマロが言うと、首がないむぅちゃんは全身を傾けた。


「だって他の夢魔が一緒にいたら、区別がつかなくなっちゃうまろ」


マロは、さらりとそう言った。


『――?!』


むぅちゃんのバックに、ピシャーンと勢い良く雷が落ちた。


「ほら、飴あげるから。ここでいい子にして待ってるんだよ?」


「「……はーい」」


飴を貰って渋々了解したプリンとポトフと、


「行こまろ、みんとん」


「うん」


『むぅ……むぅ……』


たれ耳を更に垂らして短い足で"の"の字を書く、親友に他の夢魔と区別がつかないと言われて言いようのないほど落ち込んだむぅちゃんであった。














「あ、ここ、山のなかなんだっけ!」


 洞窟の中を進んでいる途中で、ミントはふと足を止めた。


「プリンとポトフ、大丈夫かな?」


そして、ちっちゃい友達を心配して振り返る。


「まろろ、心配しなくて大丈夫まろ」


薄暗い洞窟の中で、サンタクロースのトナカイさながらに真っ赤なお鼻を光らせているマロは、


「イケメンセクシーフレンドには、むぅちゃんがついてるまろ」


にこっと笑ってそう言った。


「え? いや、そうだけど――」


イケメンセクシーフレンドって長ぇって言うかむぅちゃんじゃちょっと不安でない? とか思ったミントが口を開きかけると、


「――! 下がるまろ!」


「うわあ?!」


ぴくんと何かを察知したマロが、彼の上着のフードを引っ掴んで後ろに引っ張った。

――直後、


びゅおん!!


彼らの目の前、詰まり、先程までミントが立っていた場所を、旋風が駆け抜けていった。


「へ? な、何……?」


びっくりフェイスのミントに、


「友達の心配してる間に忘れちゃったまろか? ここは敵陣まろよ?」


マロは、油断なく辺りを警戒しながらそう言った。


「! 来るまろ!」


そんなわずかな間にも敵の気配はどんどん増え、そのうちの一つがこちらに向ってくることを感じ取ったマロがミントにもそれを教えてあげたとほぼ同時に、


『む〜』


ほの暗い洞窟の向こうから、一匹のまん丸生物が現れた。


「あれ? むぅちゃ」


それを見て驚いたミントが近づこうとしたところ、


「何やってるまろ、みんとん!?」


マロは再び彼のフードを引っ掴んで後ろに引っ張った。


ヒュッ


ミントが一秒前よりも短い時間、先程まで立っていた場所に、まん丸生物、もとい、夢魔が、長いたれ耳で作った拳を振り下ろした。


ドゴオオオオオオオン!!


すると、見事なクレーターの出来上がり。


「……え?」


目の前で起こった信じられない出来事に、ミントが顔を青くして目を見開き、口を引きつらせて冷や汗を浮かべていると、


「もう、むぅちゃんは洞窟の入り口でお留守番してるまろ。だから、あれはむぅちゃんじゃないまろ」


腰に手を当てたマロが、呆れたように小さく息をついた。


「い、いやいや、いやいやいやいやいやいやいや」


すると、ミントは何かを否定し始めた。


「? 何をそんな必死に否定してるまろ?」


縦にした左手と首を左右に振っていやいや言っている彼に、マロが疑問符を浮かべると、


「おかしいでしょ。絶対おかしいでしょ」


ミントは、目の前の現実を拒絶した。


「何がおかしいまろ?」


「すべてがおかしいでしょ」


マロの問いに即答するミント。


ドゴオオオオオオオン!!


勿論、敵も悠長に会話する時間なんて与えてくれはしない。


「何まろ? 何が不満まろ? 何が不服まろ?」


「あのちょこちょこ歩いてむぅむぅ鳴くあの子がこんな怪力」


ドゴオオオオオオオン!!


「な上にこんな俊敏なのは絶対おかしいでしょおおお?!」


仕方がないので、野生の夢魔のパワフルかつスピーディーな攻撃を避けながら会話するマロとミント。


「? むぅちゃんだってこのくらいできる」


ドゴオオオオオオオン!!


「し、みんとんもこの洞窟入る前に分かってたでしょまろ?」


ピエロ的な動きで軽やかに避けられ、標的を失った耳パンチが地面や壁にクレーターを作っていく。


「え?」


「夢魔は、己の拳で山に根城を作るまろ」


うぅん、パワフル。


「見た目とギャップありすぎだろおおお?!」


「まろろ、力だけならドラゴンと夢魔は張り合えるまろからねぇ〜」


「弱体化させる意味ねえええええ!?」


ドゴオオオオオオオン!!


こうして、ご尤な突っ込みをぶちかますミントと、ほのぼの笑いをぶちかますマロと、渾身の耳パンチぶちかます夢魔たちとの戦いが始まったのであった。

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