第126回 生物日和
「……うそ……」
ウサギさん寮を出ると、その先に広がっていた光景に、ミントは思わず動きを止めた。
「おお、おまえヒゲまではえてるやん!」
「ひにゃあ?! ややややめてくださいーっ!!」
「アタイがつまで、あなたがしゅうとめ。で、あなたはおっとのあいじんやくね?」
「どこでおぼえてきたと言いますか、どんなドロドロおままごとをしたいんですか、あなたは?」
「しゅうとめとあいじんってなーにー?」
「ぜんぽうにカワイイ女の子はっけん! いくぞみんな、スカートめくり隊ー!」
「「スカートめくり隊ー!」」
ミントの先に広がっていた光景、それは、何やら見たことがあるって言うかむしろ名前も知っている気がするちびっこたちが、それぞれ楽しそうに騒いでいる様子。
「タマゴとサラダはおいかけっこしてるしチロルとアロエとココアはなんか壮絶な設定のおままごとしてるし元チロルファンクラブはスカートめくり隊とか意味不明なもの結成してるし……ん?」
みんながみんなちびっこ化している事態に茫然としているミントの前を、周りより一際ちびっこ化している人物、四足歩行している一人の赤子が通りかかった。
「! ま、まさか……?」
銀髪に紫の目に、おしゃぶり。
「……。ふっ」
(ベビーセル先生に鼻で笑われた?!)
さして興味なさそうに再び歩き始めたセル先生に、ミントは衝撃を受けていた。
「わー、ちびっこ、いっぱい」
「いっぱいだなァ」
いや、お前らもな。
そんな突っ込みも忘れるほどに、ミントがぽかんと口を開けて立ち尽くしていると、
ぶわんっ
彼の目の前に、紫色の丸い穴が出現した。
「みんとーん!! 遊んでまろー!!」
『む〜む〜!』
そして、ちびっこがまた増えた。
「僕のーっ」
「俺のォ!」
『む〜〜〜』
プリンとポトフによって左右に引っ張られ、みょーんとむぅちゃんが伸びている隣で、
「まろ……詰まり、一夜にしてみんながちびっこになっちゃったまろね?」
「うん、そうみたい」
ミントがマロに状況を説明していた。
「まろろ、こっちにもいたまろね」
すると、マロは驚いたように呟いた。
「? いたって、何が?」
ので、ミントが小首を傾げて聞き返すと、
「これは夢魔の仕業まろ」
マロは、ピエロ鼻をミントに向けてそう答えた。
「……」
「……」
「「……」」
間。
「……え? 夢魔って、あれ?」
ライトグリーンの瞳をぱちくりさせながら、ミントがみょーんと伸びているむぅちゃんを指差すと、
「そうまろ。あれまろ」
ルビーの瞳をみょーんと縮んだむぅちゃんに向けて頷いた。
「……」
「……」
「「……」」
間。
「えええ?! むぅちゃんにそんな能力が!?」
「まろ。夢魔は夢を吸収して獲物を弱体化させる能力をもつ魔物まろ。夢魔に夢を吸収されると獲物はちびっこ化して、ちびっこ化は吸収された獲物の夢が大きければ大きいほど進むまろ」
驚いたミントに、夢魔の説明をするマロ。
「夢を?」
するとあれか? ポトフはお風呂場でうとうとしてたのか? とか思いながら、ミントは彼女の言葉を聞き返した。
「そうまろ」
「そうなんだ。……でも、相手をちびっこ化させてどうするのさ?」
こくりと頷いたマロに、ミントが再び質問すると、
「……」
マロは、ぽかんと口を開けてミントをまじまじと見つめてきた。
「?」
ので、ミントが小首を傾げると、
「みんとん、そんなことも分からないまろ?」
「え?」
マロは、驚き呆れたように口を開いた。
「仕留める相手を弱らせるのは、基本中の基本まろ」
「……へ?」
「ちびっこ化させれば、獲物はほとんどの場合弱くなるまろ。だから、そこを叩くまろ」
何やら危険なことをさらさら語るマロに、
「ちょ、ちょっと待ってよ? 仕留めるってどういうこと?」
ミントは慌てて口を挟んだ。
「何言ってるまろ? 魔物が人間や他の動物を襲うのは、当たり前のことまろよ?」
が、マロは当たり前のように切り返してきた。
「そんな」
「みんとんたちも他の動物を食べてるまろよ? 魔物だって生き物まろ。何か食べないと死んじゃうまろ」
「それは……そうだろうけど……で、でもむぅちゃんは――」
「むぅちゃんは人間型のマロと一緒にいるから街で食物を買えるまろ。だからみんとんたちを襲わないまろ」
彼の言葉を遮って、マロは至極当然のことのように説明を続ける。
「だから、みんとんたちが魔物を返り討ちにするのも当然まろ。やらなきゃ、やられちゃうまろ」
自分が生き残る為に戦う。
何やらずっしりと重い話である。
「……まあ、当然と言っても、魔物はずるいまろね。勝負に負けたら栄養になる死体を残さずに消えちゃうまろ」
てへっと頬を掻きながら、マロは話を締め括った。
「……。人間型?」
筋の通った説明に納得している途中で、ミントはどこか引っ掛かった言葉を聞き返した。
「まろ? 気付かなかったまろか?」
すると、マロはくるりと回ってこう言った。
「まろ、魔物まろよ?」
「え?」
「ついでに、フランも魔物まろ」
「えええ?!」
知られざる事実に驚くミント。
「まろろ♪ さあ、イケメンセクシーフレンドをもとの姿に戻す為にも、夢魔の根城に殴り込みまろー!」
そんな彼を見て面白そうに笑いながら、マロは拳を高々とあげて、重たい空気をぶっ飛ばした。